雨はやはり憂鬱で死ぬ

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希望

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 のんびりと過ごして何気ない話をする。
 多いのはゾーイの昔話だ。
 ゾーイのダーリンがどれだけかっこいいかを教えてくれることが多い。
 赤い髪で、右目がなくて、筋肉が凄くて、優しくて、勇敢で、いつも助けてくれて、ゾーイを綺麗だと言っくれて、強くて立派などなど、ダーリンについて話し始めたらきりがない。
 色んなゾーイを知れるから嬉しいがなんかもやもやする。

「何よ、ムスッとした顔して」

「別にムスッとしてねーよ」

「してるわ。つまんないならあなたが楽しい話しなさいよ」

「つまんないとか言ってねぇだろ」

「顔に出てるわ」

 普通にダーリンのこと好きなんだなぁって聞いてるだけで、面白くないなんてことないのにな。
 だからといって楽しいかと聞かれたら、楽しくはないが。

「ほら。いつも私だけ話してるんだから、たまにはあなたが話して」

 そういわれると確かにそうだ。

「でも面白い話とか、思いつかねぇんだけど」

「なんでも良いわよ。あなたが大切にしてる思い出とかないの?」

 思い出か。

「ある」

「話してみて」

「……母さんと父さんから聞いたんだ。雨が降る前の世界のことを」

 青かった空の話、沢山いた動物の話、人間が作った街の話、自然豊かな森の話。
 沢山話した。
 自分でもびっくりするくらい話すことが楽しくて、俺の話に目を輝かせてくれるゾーイの姿が嬉しくて。
 何故だか笑ってしまいながら、話したいことが溢れ出したみたいに、止まらなくなっていた。
 ずっと一人だったから、本当は誰かと話したかったのかもしれない。

「リュカってちゃんと少年っぽいところあるのね」

「そ、そうか?」

「私はね、青い空だったころの写真を見たことがあるの。本当に綺麗で、今でも大切な記憶」

「……本当に、空は青かったのか?」

「青かったわ。でもその写真はもう、なくなってしまったのよ。見せられなくてごめんなさい」

「いや、でもそうか。空は青かったんだ」

 お伽話だと思っていたのに、本当だったんだ。
 ドキドキと鼓動が強まる。

「……見てみたいな」

 見れないとわかっているのに、夢見てしまう。
 生きるのにさえ必死なのに、どうやって見に行くっていうんだ。

「そうね、見てみたいわ。世界は広いから、どこかしらにまだ昔と同じ風景が残ってるかも知れないわよ?」

「ほんと?」

「わからない。でも、夢くらい見てもいいじゃない。こんな世界なのよ? 希望に向かって歩いていかないと、早死にしてしまうわ」

 そうだろうか?
 俺は夢も希望もなく、ただ彷徨っていたけど生きている。
 そんな簡単には死なないと思うのだが。
 ……いや、希望はあったのかも。
 はぐれた弟に会えるかもっていう希望が。

「ねえ、綺麗な場所を見つけに行かないの?」

「……」

「もし行きたいなら一緒に行ってあげるわよ? お腹に子供がいるから、無理は出来ないけれど」

 行きたいかも。
 でもここを離れるのは、弟を捨てるような気がして嫌だ。
 ……ああ、なんでだろう。
 ここを離れるのは、恐ろしい。
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