雨はやはり憂鬱で死ぬ

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あったかぁ

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 それから十日、岩の上でゾーイと過ごした。
 やはりここは、沢山の魚が釣れて最高だ。
 味はアレだが、食べられなくはない。
 でも行動範囲が岩の上だけというのは、悲しい。
 飽きたら移動する生活を送っていた俺だが、今は同行者がいる。
 どうしたものか。

「なあ、住処移動しね?」

「なんでよ?」

「飽きたから」

「はあ?」

 まあ、他にもちょっと理由はある。
 ただあそこは、食料が少ないからあまり行きたくはない。
 じゃあなんで行くんだって話だが……。
 横目でゾーイを見た。
 寒いのか四六時中震えてる。
 これはいけない。
 食事は俺が獲って来れるが、腹の子を産めるのはゾーイしかいないのに。

「……従わないと食うとか言い出しそうね」

「おっ、よくわかったな」

 従わなかったら脅そうと思ってたんだ。
 十日間一緒に過ごしていて、俺の性格を把握したのか?
 すげぇな。
 俺はまだゾーイのことよくわからんぞ。

「わかったわ。移動しましょう」

 その前に魚を沢山釣り上げておく。
 そしてその魚たちは釣竿の糸で縛って持っていくことにした。

「じゃ、行こーぜ」

 ゾーイは黙ってついてきてくれる。

 記憶が正しければ、右手に見える大き目の岩のところに温泉があったはずだ。
 ゾーイとはぐれないように腕を掴み合って、川の中を泳いでいく。

 日が暮れる前に着くことが出来た。
 その温泉は大きな岩に囲まれていて、川の流れから遮られている。
 それでも岩の隙間から濁った川の水が、温泉の中に流れ込んでいるが。

「……ここって」

 ゾーイが湯気が上がる温泉に驚いてくれているようだ。
 ちょっと嬉しい。
 着ていた毛皮を脱いでジャプンと温泉に入る。
 あったかぁ。
 雨と川の水で冷えていた体が、ジーンとあったまってくる。
 ゾーイも恐る恐る足を温泉につけていた。

「……あったかい」

「だろ?」

「なんでここに来たの? あなたのことだし、気分の問題かしら?」

「ん? ゾーイがずっと寒そうだったからだが?」

「……なにそれ」

 なにそれってなにそれ。
 心配してたのに損した気分になったぞ。

「あなたにも人の心があったのね」

「あ? 俺は生まれた時から人だが?」

「ふふ、わかってるわよ」

 ゾーイがクスクス笑っている。
 笑っている姿を初めて見たので、少し驚いてしまった。

「リュカ、温泉に連れてきてくれてありがとね」

「……おう」

 なんか礼を言われるのって照れ臭いな。
 素っ気なく返事をしながら思う。

 ゾーイは嬉しそうにしながら毛皮を脱いで、ゆっくりと温泉に入ってくる。
 ……毛皮で隠れていたが、ゾーイの腹は膨らんでいた。
 と言っても記憶の中の母さんと比べれば、まだ小さな膨らみだ。
 これからどんどん腹が膨れていくのだろう。
 ……あと、女の体が男と違いすぎてちょっと戸惑った。
 裸の人間なんてこの冷たい雨のなかでは絶対見ないし、母さんでも毛皮を脱いだところなんて見たことがない。
 食べる時は味に夢中であんまり覚えてないし。
 ゾーイを凝視する。
 むっちりとした太もも、丸みを帯びた尻、大きく膨らんだ胸、細くしなやかな首……。
 見惚れてしまった。

「リュカ、見過ぎ」

 バシャッと顔にお湯をぶつけられる。
 見てただけなのになんで?

「やっぱりリュカも男の子なのね」

「男だからなんだよ」

「女の子の体に興味津々じゃない」

「そりゃ初めて見たしビビるだろ」

「……見たことないの?」

「見たことないっていうか、記憶にない」

「へぇ。人を食べた時に女の子はいなかったの?」

「母さん以外はいなかったな」

「お母さんの体は見なかったの?」

「食事に夢中で忘れた」

「……あなたねぇ」

 だって美味しかったんだ。
 仕方ないじゃん。

「もしかしてだけど、子供の作り方とか知らない?」

「……そういや知らんわ」

 知らなくても困らなかった。
 どうやって出来んだろう?
 腕を組んで目を瞑り考える。
 魚みたいに卵……なわけないな。
 弟は母さんの股間から出てきたはず。
 女がなんかするのか?
 子供よ来いっ! 的な感じで出来る?
 いやでも、だったら父親なんて存在いらんだろ。
 んんー?

「さっぱりわからんな!」

「……なんかリュカが可愛く思えてきたわ」

「あ? なんだテメェ食うぞ」

「急変しないでくれるかしら?」

 ゾーイが苦笑いしている。
 ゾーイは腹に子供いるし、どうやって出来るか知っているよな。

「で、子供ってどうやって出来んだよ?」

「リュカはまだ知らなくていいの。好きな女の子が出来たら言って。その時教える」

「今教えろよ」

「ダメ。私が危険な目に合いそうで怖いから」

「危険なのか?」

「女の子がリュカと子供作りたいって言ったら良いのよ。でも女の子に無理矢理しちゃダメ。良いわね?」

「……よくわからん」

「とりあえず約束して。女の子に乱暴はしちゃダメよ?」

「んー。わかった。命を狙われない限りは乱暴しない」

「それでいいわ。リュカは意外と優しいみたいだから、大丈夫だとは思うけど」

 ゾーイが俺の頭をわしゃわしゃ撫でてくる。
 子供扱いされているようでムカついたので、ゾーイの手を振り払って、お湯をかけまくってやった。
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