雨はやはり憂鬱で死ぬ

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プロローグ 雨が降り始めた日

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 彼は勇敢だった。
 人間と魔族が争わない世界を作ろうと、一人奮闘していた。
 人間は彼を褒め称え、けれど魔族を殺せと強要し。
 魔族は悪は人間だと、魔王様の命令とともに勇者の前に立ちはだかる。
 勇者は結局、悲しむ人々のために魔王に立ち向かい、そして殺した。

 血が滴り動かなくなった魔王を見つめる勇者は、けれど今まで多くの魔族を手にかけてきたせいで慣れてしまったのか、それとも強要された勇者という肩書きに感情を押し殺して生きざるを得なかっせいか、悲しみも喜びもなく、ただ淡々と帰るための道のりを頭に浮かべ、魔王に背を向ける。
 そんな勇者の前に、女神が降り立った。
 女神はそれはそれは美しく、淡い光の渦を纏うその姿は、誰が見ても神だと納得するもの。
 勇者は死んだ魚のような目をしながら、ずっと心にあった疑問を女神に問いかける。

「なぜ人間に魔族を殺させたのだ」

 女神は世界を包み込むような優しさで微笑んだ。

「私のための、良い遊戯でした」

 勇者は悟った。
 全ての元凶はこの女神であることを。
 女神さえいなければ、人間と魔族は争うことなどなかったことを。
 もしかしたら、仲良く暮らせる未来があったのかもしれないのに。
 それを女神が、ただの遊戯のために奪ったのだ。
 勇者は躊躇いなく女神を殺した。
 驚くほど呆気なく、女神は死んだ。
 勇者は塵となって消える女神を横目に、魔王の城から外へ向けて歩き出した。

 外では雨が降っていた。
 世界が女神の死に悲しんでいるかのように。
 これが世界を終焉に導くなど、まさに神のみぞ知る。
 いや、もうすでに神などいないのだが。

 勇者は知ったのだ。
 女神が全ての元凶であることを。
 しかし勇者はなにも知らなかった。
 世界にとって神は、必要であるということを。
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