連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

KZ

文字の大きさ
上 下
84 / 101
天使のホワイトデー 後編

寝て起きてもホワイトデー! ③

しおりを挟む
♢20♢

 デスるのは嫌なので結局、一愛いちかにホワイトデーのお返しを持っていってもらった。で、俺はというとルイに昨夜のお詫びのメッセージを送った。
 すると時間をおかずに返事が帰ってきて、流行りのタピオカのやつを一杯奢ることになった。どうやら明日は、ルイと出掛けることになったらしい。

 デスらなかったので選択肢は間違わなかったようだ。良かった……。

「おぉ、明日はお姉ちゃんとデートというわけだ。良かったな! じゃあ、今日もお土産よろしく! あと、一愛の分のお返しももらっていくんで」

 って勝手なことを言う妹。明日はタピオカのやつを奢るだけであってデー……とかではない。こともない。
 だいたい、一愛はこないだのカードでホワイトデーのお返しはいらないって言ってたのに。
 余るやつは俺が食べようと思ってたのに。本当にちゃっかりしてるよね。

「んっ……お返し1つ多くない? 一愛とマコちゃんともう1人分あるぞ。自分用。それとも一愛に2つくれたりする?」

 と、余計なことにも気づくし。まあ、これは経緯を説明したら無言で部屋に帰っていったけどね。
 これについてはたぶん話す機会があると思う。

 こんな具合に朝からバタバタしてしまったが、一愛のおかげで予定より少し出遅れただけですんだ。
 頼れる妹がいて俺は幸せ者です。ただ、少し自己評価が高く、『お前はチ◯ルチョコ1個で、俺からいくらふんだくるんだよ!』と激しく思うけどね。

「おはようございます。早速で申し訳ないんだけど、もう行こう。今日は少し移動に時間が掛かるんだ」

「おはよう。ちょっと待って……忘れ物はなし。身だしなみも問題なし。よし、じゃあ出掛けてくるから。2人ともちゃんと起きなさいよ」

 クローゼットを通りお姫様の部屋に着くと、すでに準備が終わり出発するだけのお姫様が、俺からも分かるくらいウキウキで待っていた。
 ミカから貰ったらしいハンドバッグを確認し、鏡の前で身だしなみをチェックして、まだ寝ている2人に行ってきますをして準備完了のようだ。

 ベッドには未だに寝ているミカとミルクちゃんがいる。下手に勘付かれなくなかったので、俺は声を掛けることなく無視する。
 きっと、寝相がすこぶる悪い彼女たちは昼まで寝ているのでしょう。

「早く行きましょう。デートとやらに」

 ……お姫様はどうやらデートを目的地だと思っているらしい。
 意味違うと教えてやりたいけど、ネタバレになるし、説明するのもハズいので特に対処しない。

「まずはいつも通りの道のりになる」

「うん、電車よね」

 お姫様の部屋から自室を通り、階段を下り、玄関を出て、ネタバレを気にしながら喋り、駅へと向かう。
 駅に着くと、一本遅い電車での出発になってしまったが二駅移動。到着するのは俺のバイト先と学校。デパートにおもちゃ屋となんでもある、市の中心部である町に移動。

「今日はここからバスに乗り目的地に向かう。ちょこちょこ停まるから40分は乗ることになるので、飲み物くらいは買っていこう。というわけで、まずはコンビニにGO!」

 バスの到着までは少し時間があるので、バス乗り場近くにあるコンビニに向かい、飲み物を買いたいと思う。朝飯は抜いているが問題ない。

「お菓子も必要よ!」

 遠足かよ……。と思いもしたが、遠足だと考えれば気が楽だと気づいた。
 今日のお出かけはデートという側面もあるが、これはバレンタインのお返しイベントなのだからね。あと遠足。

「遠足のおやつは500円までと法律で決まっているんだ。オーバーすると没収されるぞ」

 早速予定外の動きをしようとするお姫様。
 飲み物よりお菓子を買おうとする彼女。
 それを御すための嘘だ。ゆるしてくれたまえ。

「そんなの……新発売のお菓子を2つ買ったら終わりじゃない……」

 500円あって2つしか買えないとか普通は無い。おやつあっての遠足なんだから、もうちょっと考えて買おうよ。
 しかし、初遠足でそのチョイスは流石だと思う。やはり姫なんだなと思う。

「だから駄菓子というのが存在する。単価が低く種類も豊富。遠足の味方だ! それに駄菓子屋に行かずとも、今時はコンビニにも置いてあるしな」

 俺も駄菓子を買おう。飲み物だけのつもりだったが、遠足気分につられて久しぶりに食べたくなった。
 見たところ駄菓子屋ほどは種類がないが、そこは仕方ない。この中だと……。

「駄菓子屋?」

「何と言うか……ああ、お菓子だけ売っている店だ。今度行くか?」

「今日、行きましょう! 今から行きましょう!」

 ものすごい食いついたが今日は行かないと説得した。そして、コンビニを出てバスに乗り目的地へと向かう!

 んで、バスに揺られ始めて約10分。
 ここら辺でメガネトンネルと呼ばれるトンネルを抜けた。すると町っぽさから一気に山っぽさに風景が変わる。
 というのも、トンネルの向こうは少し行くとバイパス道路が通っていて、いろいろと入り組んでいるのだ。

「おっ、この坂の上が俺の学校なんだぜ!」

 そのバイパス道路より手前、坂になっているところの上に俺の通う学校がある。周りは住宅地になっていて学校以外は特にない。コンビニすらない。
 この坂の上と坂の下にそれぞれバス停があり、駅からどっち周りでバスに乗るのかで降りる地点が変わる。俺たちのようにトンネル側のルートは下のバス停に到着する。

「へぇ、見に行きましょうよ」

「いや、このバスはここでは止まらないんだ。このバスは目的地と駅とを往復するやつだから」

 いわゆる街中をグルグルと走るやつではなく、目的地まで何箇所か止まるだけで到着するやつなんだ。
 ちなみに、俺はこのバスに今日初めて乗りました。

「バスにもいろいろあるのね。なら、またの機会にしましょう」

「機会があれば是非」

 さて、ここからはあまり楽しくない景色が続く。その証拠にお姫様はお菓子に夢中だ。
 人が少ないバスの中、隣同士座っているのに今のところデートらしさはない! マジでただの遠足だ……。

 しかし、仕方ないのだ。バイパスに乗らないだけでほとんど何もないところを通るから。
 そりゃあ、何かはあるのかもしれないけど、ガソリンスタンドとコンビニくらいしか俺には見えない。

 もう少しすると、「急にどうした!?」となり始めるが、それはもう少し先なんだ。
 お菓子タイムの邪魔をするのも悪いので、俺は今日への回想シーンへ突入する。
 あれは、お姫様にタブレットを奪われた日のことじゃった……。


 ※


 猫動画にハマりだす前、お姫様はある動画を食い入るように見ていた。
 俺からすると特にどうとも思わない景色の動画だった。

「海がどうかしたのか?」

「海って入れるの? 海の中って何? あれ水よね」

「…………」

「1回でいいから、触れるくらい近くで見てみたいわ」

 天空に浮かぶ城からも海は見える。だが、行ったことはないらしい。近くで見たこともないらしい。
 目と鼻の先が海である地域に住んでいる俺としては、大変驚かされた。思わず無言になるくらい。

 知らなかっただろうし、特に言う機会もなかったのだが、俺の家から10分以内に海に着くぞ?
 商店街を国道側に行き、国道を渡ると向こうは全部海だ。風向きによっては家にいても潮の香りがするくらいだ。

「何よ、あたし変なこと言った?」

「いや、ちょっと立って。で、窓の方に来て。暗くてわからないかもしれないけどさ、指差した方向は海だよ? もう歩いたらすぐだけど……」

「嘘。そんなわけないじゃない」

 これまでお姫様とは海とは逆。内陸の方にしか行ってなかった。
 まさかこんな近くに未知があるとは信じられないのだろう。

「信じられないならそれでいいや。今の時期に海もないしな」

「そうよ、他の動画を見ましょう」

 確かにこのクソ寒い時期に海になんぞいかん。
 しかし、同時に連れて行きたいとも思った。
 だから決めたのだ。水族館に行こうと!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...