連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

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天使のホワイトデー 後編

寝て起きてもホワイトデー! ②

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 14日になった瞬間に、ルイにホワイトデーのお返しを渡しに行くはずだったんだ。
 もう最速で行くつもりだったんだ。
 そのためにルイには、起きててくれと頼んでおいたんだが、目覚めた時点で1時23分。
 部屋に戻った時には1時30分を過ぎていた……。

 それもこれも寝相が悪い天使ちゃんのせいだ。
 ベッドから抜け出る際に、寝ぼけたミカに絡まれ時間をロスした。ちょっと死にそうにもなった。
 ベッドから落ちたミカを踏まないように抜け出ようと思ったら、ベッドに戻るために立ち上がったミカと鉢合わせた。

『……どこにいくの?』

『どこって自分の部屋に帰るんだよ』

 薄い寝巻き姿の天使ちゃんは、枕を手に持ち立ち塞がった。その顔はどうにも寝ぼけている。

『こんな夜中に出歩くなんて許しません。さあ、ベッドに戻りなさい』

『──そんなわけにはいかないんだよ!』

 寝ぼけているやつを相手にする暇はない。
 そう判断し、俺は一気にミカの横を抜けてクローゼットを目指した。
 何故、クローゼットなのかは以下省略だ!

『収束・天使の光』

『はぁ──?!』

 聞き覚えのある台詞と共に、真っ暗な部屋の中がパッと明るくなる。そんな、命の危機すらある明るさの正体の方を向くために急ブレーキをかけ振り返ると、頭の横を天使ビームが通っていった。
 そして、「チュン──」と音がして天使ビームはクローゼットを貫通した。
 ビームが貫通したところからだろう、お姫様の部屋の中は少し焦げ臭い匂いがしていた。

『お姫様助けて! そこの寝坊助をなんとかして!』

『知らないわよ。勝手にやりなさいよ。ミカ、眩しいから光らないでちょうだい。眠れないわ』

 もう寝る体勢のお姫様は俺を助けてくれず、ネコのクッションを抱いて、関係ないとばかりに俺たちとは反対を向く。

『……そうね。光ったら眩しいものね……』

 なんて薄情な……あのビームは当たったら死ぬよ?
 寝ぼけて殺されるとかないわ……。とか考えていたら1つ思いついたので、それを試してみることにした。

『分かった。ベッドに戻るよ』

『そう……ならいいのよ……』

『ほら、お前も寝ろ。ベッドはこっちだぞ』

『うん……』

 思った通り。素直に言うことを聞けば、寝ぼけてるミカは大人しい。
 このままミカだけをベッドに戻して、俺は忍び足でベッドから離れよう。と考えたんだ。

『──はぁ!? 1回出たらもう入れないって言ったわよね! 窓から投げ捨てるわよ!』

『ぐぶっ──』

 しかし、お姫様が物騒なことを言いながら飛び起きる。「フリだよ」という間も無く、ネコクッションが超高速で飛んできた。もちろん直撃である。

『枕投げ……』

 腹部に直撃したクッション。
 そのとてもクッションのぶつかったダメージではない威力にうずくまっていると、自分の手元を見たミカがそう口にした。もう嫌な予感しかしなかった。

『──ま、まて!』

 お姫様は身体だけ起こしてスロー。立ってるミカはオーバースロー。寝ぼけ全力投球だ。
 俺の感想は、こいつらと枕投げしたら死ぬ……だ。

『ぐっ……馬鹿力め。枕で人が飛ぶとか。だが、今の衝撃でクローゼットの前まで着いた。俺の勝ちだ』

 と、なってようやく自室へと帰還することに成功したんだ。今は1時40分。あっ、41分になった。
 この間、何をしていたのかというと──。

『──さっきからうるせぇぞ! 今、何時だと思ってんだ!』

 一応、まだ起きててくれないかと信じてルイに電話していた。迷惑だとは分かっているが、一度こうだと決めたらやり切りたいんで。自分不器用なんで!

「いや、メッセージも送ってみたんだけど既読付かないし。念のため」

『──ふざけんな! 0時はとっくに過ぎてる。常識を考えろ!』

「今からというわけには……」

『──いくか! 明るくなってからにしろ!』

 ブツってなり通話は終了されてしまった……。
 ルイの言うこともよく分かる。
 しかし、俺の気持ちというのもあるんだぜ?

 ミカとホワイトデーのお返しを見に行った日から、何をホワイトデーのお返しとしようかと考えに考えて、悩みに悩んで選んだんだ。
 本当は買ってきた日に渡したかったくらいなのを、今日まで我慢していたんだ。
 そんな俺の気持ちも……。

「寝よう……」

 明るくなるまで寝よう。で、ルイは今日も学校だって言ってたから、出掛ける前に渡しに行こう。
 あと、喜んでくれるかと思ったら怒らせてしまったし謝ろう。


 ※


「──と。れーと、起きろ! 朝だぞ!」

 デジャヴ。こないだもこんなことがあったな。
 あの日は無理矢理に起こされ、おもちゃ屋に連行されたんだった。一愛いちかが起こしにくるとろくなことがない。
 だから無視して寝る。なんだかボクとても眠いんだ……。

「──ルシアちゃんとのデートに遅れるぞ!」

「そうだった! はっ──、違う! デー……とかではない!」

「もう、それはいいから……。ルシアちゃん着替えてたぞ。おまえも早く支度しろよ。まったく」

 やれやれと言わんばかりに妹に肩をすくめられた。
 しかし、問題はそんなことではない。
 どうして一愛が知っているのかということだ。あと、どうして俺の部屋にいるのかだ。

「なぜ、一愛が知っている! あと、なんでいる! お姫様にすらデー……などと伝えていないぞ。ドッキリ作戦なのに」

「なんでって、れーとの部屋が帰り道じゃん。昨日あっちにいくのにもここを通った。その時から一愛はしっていた。だいたい、自分の机の上を見ろ。チケットに着替え。当日の持ち物まで用意してあったら分かるわ! 女の子を待たすな、早く支度をしろ!」

 確かに用意はしてある。だが、それだけで内容はおろか相手まで的確に当てるとは……。
 お姫様に次ぐ、第2の名探偵が現れたらしい。

「その前にルイにお返しを渡しに行かないとだ! 今、何時だ。7時過ぎ。まだ間に合う!」

 これも分かるところに置いてあるホワイトデーのお返しが入った袋を掴み、ダッシュしようとしたら一愛に止められた。

「……ちょっとまて。これから女の子とデートに行くのに、その前に別な女の子にお返しを渡す? おまえふざけてんのか? デリカシーとかないのか?」

「仕方ないだろ! そのくらいは分かってた。でも、予定は狂いっぱなしなんだよ。ルイには日付が変わったら真っ先に渡すつもりだったんだよ! でも、いろいろあって出来なかったんだよ」

 ひとえに全部自分のせいだが、俺だって頑張ってるんだよー。昨日も頑張ったし、昨日より前も頑張ってる。
 だけども、なんかこう上手くいかないんだよ。

「はぁ……お姉ちゃんのは後にしろ。れーとのことだから、どうせ夜中に怒らせただろ。もしくは一愛がお姉ちゃんに渡してきてやるから。とにかく、今はルシアちゃんだ。あれで意外と楽しみなようだったし」

 まるで見ていたかのような指摘。
 ズバリ当たってるし。流石だ。名探偵。

「いや、人伝に頼む方が失礼だろ……」

 けど、渡してもらうのはない。
 自分で直接渡すべきだし、渡したい。
 バレンタインの時も直接もらってるわけだし。

「これからデートに行く男。デートに行ってきた後の男。どっちも大差ないぞ? これが義理なら特に何も言わないが、お姉ちゃんにもルシアちゃんにもちゃんとしたいならよく考えろ。一愛が思うに、お姉ちゃんには明日にでもごめんなさいすればいいと思う」

「……」

「物が用意してあってちゃんと渡そうとしていた。そのくらいお姉ちゃんは汲んでくれる。しかし、おかんむりの状態では、れーとの話は上手く伝わないだろう。今のままではケンカになるのは明らかだと思う。お返し自体を明日にするか、渡しておいて後で謝るか。どっちかだ」

 俺が1人で考えた場合。ルイにお返しを渡しにから、お姫様と出掛けただろう。
 とても合理的だと思うのだが、それはハズレなのか……。

「さあ、どうするんだ。女心が分からないデリカシーのない自分を信じるか、女心のわかるよくできた妹を信じるかだ。ちなみに、選択肢を間違えるとデスる」
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