連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

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天使のホワイトデー 後編

天使のホワイトデー ⑨

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♢17♢

 飛び出す異世界カードバトルは続いている。
 現在、休憩を挟んでの2戦目が行われている最中だ。初戦を負けて、後がないお姫様の先行で始まった2戦目は、そのお姫様が優勢。
 後がない状態だが、慌てることなく冷静にプレイしている。対して初戦を勝ち、勢い(調子)に乗るミカは、その性格ゆえにピンチに陥っている。

「そんな……アタシの天使たちが……」

 出る側から破壊される天使たち。
 これはミカのプレイスタイルを、お姫様が理解しているから起こっている現象だ。
 ミカエラ選手は一直線すぎるんだね。

「さあ、あんたのターンよ」

 2人がこうしてデュエルするのは今日が初めてだが、一愛いちかに頼んで練習試合は死ぬほどやらされているので、お互いにデッキの中身は全部知っている。
 なら、相手に対応するカードは切らずに残すべきな状況もあるんだが、ミカは猪突猛進する。後先考えずにカードを切る。
 この大胆さは、ハマれば押し切る強さがあるが、読まれるとその強さは発揮できない。

「にゃあ?! ここでこれを引いても……」

 プラス、どうやら今回は引きも悪いらしい。
 調子に乗るから……。あと、顔に出るのも問題だな。口にも出てるけど。
 もう少しポーカーフェイスしないと、付き合いの長いお姫様からしたら丸わかりだろう。

「ミカ、さっきから少し顔と声に出すぎよ。これは身体を動かすわけじゃないんだから、もう少し平静を装ったりしないと手札がバレバレよ。分かった?」

「……分かったけど、そんなこと今教えていいの? 勝負の最中なのよ」

「分かりやすすぎて対等じゃないって思っただけよ。そんなんで勝っても嬉しくないしね」

 ツンデレだねー。優しいツンデレ。
 教えなくてもいいのに教えてあげるあたりが、お姫様らしい。
 俺にもその優しさを使ってほしい。デレがほしい。

「あ、ありがとう……。これ出してターン終了」

 こっちもツンデレだねー。ライバルだと思っている相手に優しくされて、ちょっと戸惑う感じがいいね。
 でもね。今のはデレだからツンの部分があるんだよ。それがツンデレだからね。

「やった。アタシの勝ちよ! 二クス、派手に勝ちを演出しなさい。ミカの時より派手に! ドロー!」

 引いたカードを確認せずに、お姫様は別なカードを手札から出す。悪魔デッキの切り札であり、ちょっと引くような効果を持つやつだ。
 こいつでミカの出した天使はやっぱり破壊され、直接攻撃され、ゲーム終了。

「えぇ──、今のは何だったのよ?!」

「それはそれ。これはこれよ。勝ち負けは関係ないわ! ちまちま横に並ぶだけの天使なんかに、二度も負けるもんですか! はい、あたしの勝ち~」

「何よそれーー! ズルいわ無効よ。審判、こんなの無効よね!」

 審判でもある俺に無効だと主張するミカエラ選手に、首を横に振り、ルシア選手が正当だと伝える。
 ちゃんとターンの終了をミカは宣言しているし、お姫様が何かしたわけでもない。
 どっちにしろ、前のターンで勝てなかったミカに勝ちはなかったんだ。お姫様は手札に切り札を握っていたわけだし。

「2戦目の勝者はルシア選手。これで互いに1勝ずつとなり、3戦目にて決着となります! これは盛り上がってまいりました! 再びの休憩の後、最終戦を行います。休憩中はここまでのハイライトをご覧ください。ここからでも間に合いますので、ふるってご覧ください!」

 ここでのCMの選択は重要だ。最終戦に向けて気持ちを高めるためにもハイライトが正解。
 間違っても、えらーい天使たちではない。というわけで、2戦目の間にアマテラスに編集させたハイライトシーンを流す。

「よしよし、黙ってさえいればお前は有能だ。まじめに取り組めば更に有能。良かったぞ。この感じで頼むよ」

 黙って言われたことだけをやってくれれば、俺はアマテラスへの評価を改める。かまってちゃんから、良い子ちゃんくらいにはしてもいい。
 ガブリエルさんの前では良い子ちゃんでいれるんだから、俺にも同様の対応を求めたい。

『ご主人様は……アマテラスの身体だけが目的だったんだね。ヒドい! この鬼畜!』

「それだ。それが余計だと言ってるんだ。分かれ!」

『じゃあ黙ってヤらせろって言うの! ただでさえアマテラスは逆らえないのに! 発言する自由まで奪おうなんてヒドすぎる!』

「お前のその発言による俺の風評被害の方がヒドいと思うよ?! いい加減にしろや!」

 アマテラスを使用するのにHPを使うなら、アマテラスを相手するのにはMPを使う。そんな感じだ。
 コイツといると体力も精神力もゴリゴリ削られていく。夏場だったら倒れているかもしれないくらいに消耗する。マジで疲れる……。


 ※


 1戦目は勢いで。2戦目は調子に乗って。3戦目は怒りに燃えてミカは闘いに臨むようだ。
 なんていうか……変わらないよね。姫らしく優雅にできないのかな?
 無理か。こいつらには無理か。

「ふふん、流れは間違いなくこちらに来てるわ。次もこのまま勝たせてもらうから!」

「なにおぅ、ズルして勝ったくせに! ルシアのインチキ!」

「あら、言いがかりも甚だしい。目撃者は沢山いるのよ? その内の何人くらいが、あんたの味方をするかしらね。あれは真っ当な試合だった。見ていた誰もがそう思ってるわよ」

「うぬぬぬぬ……──ぬぁぁぁぁぁぁ!」

 そろそろ止めないとマズイだろうか?
 割り込んでダメージを受けるのは嫌だけど、放っておいてガチバトルに発展したらもともこうもない。
 いい感じに来ているんだから、最後までいい感じに終わりたい。

「ほら、キミたちやめたまえ! まだ1試合あるんだから、選手同士の接触は控えてください!」

「レート、ルシアのインチキを見逃すの? もし見逃すのなら審判の名折れよ! 公平さに欠けるわ!」

「あれはインチキじゃないから。それより、そのまま冷静さを欠いて次も負けんのか? どうしてお姫様に乗せられていると分からない?」

「えっ……まさか、これすらルシアの作戦だと言うの? アタシをわざと怒らせて冷静さを失わせて……。なんて恐ろしい子! やっぱり悪魔ね!」

 お姫様に話しかけに行ったのはキミだよ? とは言うまい。勝手にいいように解釈してくれているからそれでいいや。クールダウンするだろうし。

「ちっ、あんた余計なことを……」

 話しかけに来たのはミカだが、ルシアさんはそれを利用することにしたようだね。
 今のやり取りは本当にミカを怒られるためだったみたいだね……。恐ろしい子!

「せいぜい落ち着いてから出てくるのね。あっはははは──」

 高笑いを残してアマテラスのビットで出来た舞台を下りていくお姫様。
 飲み物でももらいにいくんだろう。残されたのは俺とミカ。

「次は負けないわ。絶対に勝つんだから! 深呼吸して。落ち着いて。深呼吸して──」

 ……ふむ、普段はしない高笑い。仮に本当だったとして言う必要のない作戦。
 これは、逆なのではないだろうか? 冷静さを失わせるためではなく、熱くなりやすいミカをクールダウンさせるために言ったのかな?
 近くに俺がいることを踏まえてね。

「やっぱり幼馴染というやつは怖いな。下手すると、親より自分を分かってるかもしれないな。持ち上げる方法も、落とす方法も理解しているとは」

「よし、落ち着いた! これでルシアなんかに遅れはとらないわ! レート、ちょっと聞きたいんだけど。悪魔デッキは──」

「そして、それを気づかせないとか……」

 俺もそうだったりするんだろうか?
 気づかないうちにミカのようになっているのかな。
 だって、お姫様と天使ちゃんを俺とルイとした場合、俺がミカでルイがルシアだろ?


 ※


「本来なら負けた側の先行で始まる予定でしたが、ミカエラ選手の希望により先行後攻じゃんけんを行います!」

『いえーーい! 盛り上がっていくよーー!』

「進行はアシスタントのアマテラスにお願いします。私、プロデューサーは所用につき少し外します」

『泣いても笑ってもこれが最終戦。このじゃんけんがその前哨戦となるのか! じゃあ、最初はグー。じゃんけん──』


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