連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

KZ

文字の大きさ
上 下
75 / 101
天使のホワイトデー 後編

天使のホワイトデー ⑥

しおりを挟む
 アマテラスを使い、初めに流したのはバレンタインの際の様子。次に姫祭りの時の様子。
 これらを分かりやすくまとめてみた。異世界版のCMと思ってくれていい。

 これを最初に持ってきたのは、急にお姫様たちに喋らせては、間に合わない人がいると思ったからだ。
 だから多少は時間をおいて、なるべく多くの人に気づいてほしい。突然始まった放送を、1人でも多くの人に見て聞いてもらいたんだ。

 現在流している資料は、ほぼ写真になってしまったが、この時はアマテラスがいなかったので仕方ない。あっただけ良かったと思おう。
 今は指示しなくても勝手に撮影してくれて……。

『これ以上は近寄るとお姉様たちに気づかれる。ズームにも限界があるし。どうしたらいいかな?』

「──いい加減にしろ。放送できないものを撮るな!」

『だって、ご主人様が喜ぶと思って……』

 アマテラスはスタンバイしているお姫様たちを、ローアングルからバレないように勝手に撮影していた。
 飽きたらやめるかと思っていたがやめず、とても際どくなってきたから止めることにした。
 ちなみに俺は。そんなんで。喜んだりは。しない。ぐふっ──。

「俺にしか見えてないとはいえ不適切だぞ。だいたい、後でバレたら俺がぶっころされるだろ! だからやめろ!」

『じゃあ、アマテラスが個人的に記録しておくね。欲しくなったら言ってね? ……してあげるから……』

 見、は? みがないとイヤラシイ感じになるよ。それが狙いなんだろが……いや、無視しよう。
 無視すると少しの間は大人しくなるから。

「まったく……かまってちゃんめ」

 リアクションしないことにより、ひとまず盗撮はおさまったので、CM中の現在の様子を確認しようと思う。
 まずは各地に散らばる耳のビットからの映像を、俺が装備するモノクルに映して。順に映像を切り替えていくと。

「おっ、けっこう人いるな。突然、空中に映像が浮かべば気にはなるよな。よしよし。こっちもそれなりに見てるな。こっちも──」

 やはり音もあるのが効果的だな。映像と字幕では興味を持ちずらいだろうからな。
 お姫様たちにアフレコしてもらって良かった。
 しかし、ビットの側は問題ないが、これをこっちに転写出来ないのが問題だな。
 その類の機能には制限がかかっていて使用できなかったからな。

 何がいけないのかはよく分からないが、アマテラスに聞いても知らないらしいし。なので、あくまでここからの様子を伝えることしか出来ない。
 それに対する反応を見ることが出来るのは、アマテラスを使える俺だけというわけだ。

「全部は見きれないな……。ビットの映像を横に流して確認するだけで手間だ。だいたいでいくしかないか」

 注目はされている。後はタイミングだ。途中にCMを入れるのは簡単そうだが、始めるタイミングが難しいな。
 考えすぎだろうか? こういうのはサッと始めた方がいいんだろうか?
 テレビの事は分からないな……今度聞いとこう。

「どうかしたの? アマテラスもいないみたいだけど?」

 ずっと周囲を飛び回っていたアマテラスがいなくなったのを不審に思ったのか、スタンバイ位置からお姫様が近寄ってきた。

「注目を集めるのにバレンタインの様子をお伝えしているんだが、終わり時を見失った。全部流すのは簡単なんだけど、長いと飽きるんじゃないかとも思ってな。アマテラスのやつは知らん」

「なら、始めましょうよ」

 姫から開始の号令が出たので、ここがタイミングなんだろう。

「──だな。では、お願いします!」

 というわけで、──まずはお姫様のターン!


 ※


「今日は今これを見えている全ての人々にお伝えしたいことがあります。私は……」

 アマテラスを操作し映像を撮っている俺の正面で、お姫様が話し始める。
 最初はいつものように外用モードで話し始めたお姫様だが、何故だか出だしからすぐに言葉を止めてしまう。

「…………」

 緊張しているようには見えない。となると、やはり真横の無の顔のミカが気になるのだろうか?
 いやね。ミカはどうにか自分を誤魔化しているんだ。自分を無にすることによってね。あれは確かに気になるかも。

「あたしは──、もう自分を偽るのはやめにしたの。幻滅させたらごめんなさい。でも、これが本当の自分だから。綺麗に飾った言葉はただ綺麗なだけで、そこには本当が無いと分かった。だから、あたしは望むわ。何も変わらない退屈なだけの日々ではなく、あたしが感じたようなワクワクするものがある日々を。じゃあ始めるわ」

 一度、深呼吸してから続きを話し始めたお姫様に、思わず吹き出して笑ってしまいそうになった。
 別に外用でも良かったのに! ……などとは言えないな。自分を偽るのはやめにしたか。いいと思う!

「聞いてほしいのはこれからのこと。今日はこの場所に、ある人たちも同席しています。それは──」

 お姫様が言った、ある人たちにアマテラスを向けて、用意していたテロップを付けて端から順に紹介していく。
 これから多額の出資をしてくれる人たちだから、1人ずつ丁寧に紹介してあげる。約束でもあるしな。後でCMも流れる予定である。

「──天使の方々です。こうして同じ場所に立てるということを、とても嬉しく思います。そして、これからはこれが普通になる世界にしていきたい。そう思います」

 カメラワークは余計なことをせずに、喋ってる人は正面から。その他は少し角度を変えて。でやっている。
 これが無難であり、初心者でもそれなりに見てるやり方だと思う。いろいろ試した結果たどり着いたやつだから。プロっぽくしようとすると失敗するから。

「長く仲違いしていた私たちですが、それはもう過去のこと。その距離は今や手が触れるほど近く、こうして手を繋ぐことが出来る。時には喧嘩することもあるかもしれない。でも、それは決して憎いからではない」

 お姫様は隣のミカと手を繋ぐ。天使と手を繋ぐ。
 これだけでも伝わるだろう。きっと分かるだろう。
 もう、心配する必要などないんだと。

「……そして……もしも……。これを認めないという人がいるのなら、あたしたちは立ち向かう。今までとは違うやり方で。この手は繋ぐためにあり、言葉は交わすためにあるんだから」

 えーーっと……今のは宣戦布告だよね。どう聞いても、ルシアママに対する宣戦布告だよねーーっ。
 俺、何も聞いてないんだけど?!
 思いっきり、『来るなら来てみろ!』『やんならやんぞ?』って言ってるよね。気のせいじゃないよね?

「……ミカ。次、あんたのとこよ?」

 お姫様たちの段取りがすでに分からないので、何も分からないのだが、声をかけられたミカがおかしいとは分かる。
 ミカは無の状態は解除されていて、何故か顔を真っ赤にして身体はプルプルしている。
 あいつは本当にどうしたのだろう? 進化するのだろうか?

「初めましてアタシはミカエラです。天使です。14歳です。好きなことは遊ぶこと。嫌いなことは勉強することです」

「ミカ、あんた何を言って……」

 本当に何を言ってんだ。あの天使ちゃんは!
 誰が自己紹介しろと言った。あと小学生かよ!
 これはCMか? 早速CM入れんのか?

「ルシアとは昔から遊んでて。でも、どんなに頑張っても空回っちゃって。アタシがそんなだからよくケンカして。仲直りしたくても意地を張っちゃって……。本当のことなんて何も言えなくて。思ってもいないことばかりが口から出て、素直に謝ることもできなくて」

 お姫様がいい感じに喋った流れをぶった切ることになるが、CM入れてミカをどうにかした方がいいんじゃないのか? あいつは何を……。

『──止めないでください』

「えっ、ガブリエルさん?」

 おそらく俺だけに聞こえているのだろう。
 アマテラスもいないのにガブリエルさんの声がする。

『ここでやめされたら、あの子は二度と口にしないでしょうから。どんな結末になってたとしても止めないであげてください』

「いや、取り返しがつかなくなった場合は?」

『貴方が責任を取りなさい。そのための貴方でしょう?』

 そんな無茶な。どうして俺がミカの責任を負わなければならないのかが、まったくもって分からない。
 ここはCM入れて仕切り直すのが一番いい選択肢……なのは間違いないが、ガブリエルさんがここまで言い、あのツンデレが何かを伝えようとしている。

「じゃあ、俺が責任を負わなければならなくなったら、反省文で済むようにしてくださいね?」

 言質は取っておかないとね。
 本当に裁かれてしまうおそれがあるからね。

『いいでしょう。そうなった時にはそれで済むように取り計らいましょう。まったく……格好をつける場面でそんなことだから駄目なんです。はぁ……』


 ※


「でも本当は……」

「ミカ?」

「ルシア、ご、ごめんなさい。ずっと言えなかったけどごめんなさい! いっぱいいっぱい、ごめんなさい。それと同じくらいありがとう。こんなアタシを友達と思ってくれてありがとう」

「ちょっと、抱きついたら苦しいわよ」

「それから……──好きです! 大好き!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...