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天使のホワイトデー 後編

ホワイトデーまで

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♢8♢

「れーと、大変だ!」

 受験生たち頑張れや。そんなことを心の隅で微かに思いながら惰眠を貪っていると、同じく受験生のはずだがすでに内定をもらっている、同じ受験生たちからしたら羨ましいだろう我が妹が、ノックもなしに部屋へと入ってきたようだ。

 どうして、『入ってきたようだ』なのかというと、俺は布団を頭からかぶっているからである。声と音しか聞こえてないからである。
 ちなみに俺は現在、三度寝しようと頑張っているところである。

「休みだからって寝てないで起きろ! 大変なんだから」

「おかえりー。あと5時間したら起きるから待って」

「待てるかーー! もうお昼過ぎてるぞ。5時間経ったら夕方だ! 今すぐ起きろーー」

 俺の予定に対し妹は諦めるつもりはないようで、布団を引き剥がしにかかってくる。
 しかし、あと5時間は寝ると決めているので布団を死守する。そのうち諦めるだろう。

「起きろ、起きろ、起きろーー!」

 グイグイ布団を引っ張られているが、すでに端を押さえているので一愛いちかの力では引き剥がせない。
 行動がエスカレートし、上に乗っかってくるようなら違う対応を考えるが、今のところはこれで大丈夫だ。

「くそ、こうなったら……」

 そして静かになった……Zzz……。
 どうやら諦めたようだな……Zzz……。

「レート、大変よ! 起きなさい!」

 ……なんかやかましいのが増えた。
 いっとき静かになったと思っていたら、一愛はわざわざミカを呼びに行ってきたらしい。なんて迷惑なことを。

「何しに来た。さっきぶりすぎる。約束は夜のはずだぞ」

「一愛に頼まれたのよ。というか、昼なんだから起きなさいよ」

「嫌だよ。お前に付き合って寝不足なんだから、お前はせめて俺の気がすむまで寝させてくれよ」

「しょうがないわね……」

 そして、また静かになった。
 きっと俺の言ったことを理解してくれたんだな。まったく……俺に感謝しろって……Zzz……。

「2人ともやり方が甘いのよ。こんなのは最初から、──こうすればいいのよ!」

 新たな声が聞こえたと思ったら、そこからはあっという間だった。もう、一瞬だった。

「「おぉーーっ」」

 謎の歓声が上がり、

「──はっ?! なあぁぁぁ──、ぐふっ……急に何をする……」

 一瞬だけ無重力を体験し、すぐに床の冷たさと落下した痛みが襲ってくる。
 現状から推察すると、俺はかけ布団ごと宙を舞ったらしい。

「流石、ルシアちゃん!」
「ルシア、やるわね。アタシも次はそうやろう」

 突然のダメージにすぐには起きられない。
 起こし方への文句とか、謎の歓声への文句とか、同じことされてたまるかへの文句とかあるが、痛いからそれどころではない。

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ……朝から痛い……。俺が何をしたというんだ!」

「もうお昼よ」「起きないから」「そうそう」

「揃いも揃ってなんなんだ! 起こしたいならもっと優しくやれよ。物理にうったえるなよ!」

「「「素直に起きないのが悪いんでしょう」」」

 くそー、3対1ではどうしたって悪者は俺になってしまう。この女子たちは結構理不尽だよね。知ってたけどね。
 こうなれば、ここは事を荒立てずに要件を手早く聞いて、再び睡眠に戻るのが最良だと思われる。

「わかったよ。すいませんでした。それで、何が大変なんだ?」

「そうだ、これだよこれ!」

 勢いよく目の前に突き出されるのは1枚のチラシ。
 初めはスーパーのかと思ったのだが違うようだ。チラシにはオモチャが一面に見えるからだ。

「このオモチャ屋のチラシがなんだというんだ?」

「こないだのカードが売ってる!」

「ああ……」

 確かに見覚えのあるパッケージがチラシにはある。
 商品写真の脇には、『売り切れ続出の中、緊急入荷!』とある。

 絶対嘘じゃん。予め確保してあってチラシで出しただけじゃん。
 しかし、こうして騒ぐやつがいるということは、効果はあるということか……。
 騙されてるよ。と教えてやるべきか。

「なるほど、お一人様何個までだから買うのに付き合えというわけだな」

 人数が多ければ多く買えるというわけか。
 賢いとは思うけど、付き合わされる方にもなってほしいよ。
 特に用もないのにオモチャ屋になんていきたくないよ。はぁ……。

「違う。バラでは売らないらしい。抽選で当たった人が1ボックス買える」

「どうしてそんな売り方を?」

「知らん。だが、チャンスなんだ。れーとも、一緒に抽選に並んで。人数いた方が確率上がるし」

 今時はチマチマ買うより箱で買うが普通なのか?
 子供向けの商品で箱って……。そこはお一人様何個までにしようよ。

「だからすぐに支度して! 抽選券をまずはもらわないとだから!」

「ええーー」

 ──というわけで、半強制的にキリンの看板が特徴的なオモチャ屋に連れてこられた。
 抽選券の配布が14時まで。15時に抽選らしいよ。舐めてるよねー、いろいろと。

 しかし、受け取った抽選券の番号がおかしい。234番だったのだが……。
 これは番号順に配られているんだよね? 前に200人以上いるの? 今日は普通に平日だよ?

「抽選券は手に入った。でも買えるかな?」

「分からん。そもそもいくつ取ってあ……入荷したんだ? あとお姫様たちは?」

「数は書いてないから分からない。ルシアちゃんはミカちゃんが引っ張っていった。時間まで中を見て回るって」

 デパートでオモチャを買い込むつもりだったミカ。
 今日は諭吉さんを持っていないようなので大丈夫だと思うが、不安だ。

「そうか。なら、俺たちも一緒に見て回る……これは?」

「んっ、少し前に出たやつだね。どうした? れーとももっかい始める?」

 抽選はカードゲームのコーナーでやるようで、抽選券を受け取った俺はまだそのコーナーにいる。その俺の視界にある物が入った。
 一愛の好きなカードゲームのデッキというやつだ。
 分からない人に説明すると、『買えばそのまま遊べます』というやつだ(相手がいれば)。

「いや、勝てないからやらない。そうじゃなくて。これじゃね?」

「何が?」

「平和的な争いというやつだよ」


 ※


「──やった! 番号ある!」

「そうか。良かったな」

「──ミカちゃんのも当たってる」

「そ、そうか。良かったな」

「ルシアちゃんのも当たってる!」

「ええっ──、そんなに!? 3人続けて当たってんの。抽選したヤツ大丈夫。番号が張り出されただけだから分からないけど、ちゃんと抽選やったの!?」

 困ったことになった……。
 1人くらい当たればいいだろ。と思っていたのに。
 4人中3人が当たっている。
 さて、当たらなかったのは誰でしょうか!

一愛いちか、そんなに買えんのか? お姫様たちは無一文だぞ。キャンセルするとか、当たらなかった人にあげるとかする……」

「れーと、買って」

「いや、いらないよ。必要ないし。ついてきただけだし」

「一愛が2つは自分で買うからー、1個買ってー。ホワイトデーのお返し、これでいいからーー」

 何を言うんだろう。この子は。
 お返しはもう買ってあるし、そもそもだね……。

 一愛がバレンタインだと言ってくれたのは、チ◯ルチョコだよ。それも1個だよ?
 お返しにお菓子を買った時点で、もらった物の10倍どころか100倍以上の額なんだよ?
 その上、カード1ボックスって。俺はどんだけ妹に甘いんだよ! 

「レート、これ買って。帰ったらお金渡すから!」

「なんだそのぬいぐるみは……」

「ルシアと色違いでお揃いにしたの!」

「「──買って!!」」

 さて問題です。
 この後、俺はどうなったでしょうか?

 正解は……。







 ──結局、全部買った。でした!
 駄々をこねるのが3人もいたら無理だよ……。

 あんなところで泣かれてみ? まあ、実際に泣かれたわけではないけどね。
 もう、いるとかいらかいとかではないんだよ。買うしかないという状況だったんだよ。はぁ……。
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