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天使のホワイトデー 後編

これは明確な目的があってのことであり、決していかがわしい気持ちとかは存在しない。よってこれはデートではない!

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♢6♢

 今日は3月5日。週の中で1番パッピーな日である日曜日。
 俺は日曜日のために、他の日を頑張っていると言っても過言ではない。土曜日もいちおう休みにはなっているが、いまいち休んでる感がないからな。

 まあ、今日は日曜日なのだ! やったぜ!
 ……しかし、バイト。しかし、午前中だけ。
 その代わり朝が早かった。まったくマコちゃんも無理を言うぜ。

 そのバイト後は一目散に帰宅。油にまみれたため入浴。あと着替え。可能な限りのオシャレ装備に変身。と、ここまでで13時。
 俺の立てた予定としては、13時の電車かバスには乗りたい。だが、今だに姿が見えない。
 部屋で待ってろとあれほど伝えてあったはずなのにだ。

 ここで余裕で待てるだけの精神力とかが足りないので、急ぎ様子を見に行くことにします。
 昨日に続きもう痛い思いはしたくないので、同じ失敗を繰り返さないようにね。
 どこに様子を見に行くのかというと、自室の机の引き出しの中にだよ! タイムマシンはないが謎の通路はあるんでね!
 これを思い出すたび冷静ではいられないんだよ!

 ──という間に目的地に到着。
 お着替え中に遭遇しないように、まずはちょっとだけ開けて、覗かずに声だけをかけます。

「ミカ、お前は何をやっている。時間なんてすぐなくなるんだから、用意して部屋で待っていてと伝えてあったはずだぞ!」

「おかえりー。だって、レートの部屋が狭くて。荷物は置けないし、服は引っかかるし。このくらいは広さに余裕がないと無理よ。なので、ここでワクワクしていたわ!」

 反応から察するに大丈夫なのようなので、引き出しから頭を出して、ようやくミカの部屋が視界に入る。
 1回これで失敗してるからさ、慎重になるんだ。
 それにあの時とは違ってアミカちゃんモードだしさ。気を使うんだよ。

「姫の部屋と比べんなよ。こっちはごく普通の二階建ての家なんだよ。それを、ひろーい、たかーい部屋と比べられてもね……って、その大荷物はなんだ。引越しでもするのか?」

「何言ってんのよ。出かけるなら、これくらいは必要でしょう?」

「──必要なわけねーだろ。どこに何しにいくんだよ! そんな荷物持ってたらどこも入れねーからな! あと、服装。姫らしい格好はNGだ。ただでさえ見た目で目立つんだから、服装くらいは普通にしてくれ 」

「えぇ!?」

 みんなには順番に説明するからちょっと待って。まずは早急にやる事があるんだ。

「ナナシくん、すぐにきてーーーー!」

『てーー! てーー! てーー!』と3回くらいエコーしたところで、天使の保護者の悪魔執事が、どこかから現れた。
 忙しいため何もツッコまない。スルーする。

「これはこれはプロデューサー殿。私、昨日はスタンバってたのに出番がなく悲しかったです……。それで、今日はいかがしましたか?」

「出かけるから、ちょっと姫を普通くらいに着替えさせて。あと荷物もうんと少なくして」

「おや、いつの間にそのような関係に? これは、デー──」「──違う! ホワイトデーに必要な事柄なだけだ。早急に頼むよ。俺は自分の部屋で待ってるから」

 言わせてしまうとそうなってしまうので、違う! と言っておく。
 お前たちにも言っておくが、断じて違うからな!

 で、あれだ。説明しないとだな。
 この発端はミカと話した夜の事だ。

 アミカちゃんモードのミカにひとしきりイジられた俺は、やられっぱなしなのを誤魔化すためホワイトデーの話で切り返しをはかった。
 姫祭りのバトル後、お姫様から日にちは大分過ぎてしまったがミカはチョコを貰ったわけだし、ホワイトデーはどうするつもりなのかと?

『そう、それよ! 聞こうと思ってたの。ホワイトデーとは?』

 と、ホワイトデーが何かから説明し、一般的なお返しの品をタブレットで検索して見せたり、さらに説明したりした。

『ふむふむ。なるほどなるほど……で、アタシはどうしたらいいの?』

 ふむふむ言ってたのは何だよ! とツッコミ。
 分かったフリをしやがってー。とツッコミ。

『だって、どれも実際見たことないしー。分かんないしーー』

 実際にその通りなことを言われてしまった。だから、言ってみた。『じゃあ実際に見に行ってみるか?』と。
 ここまでで分かってくれただろう?
 これはいわばホワイトデーの視察であり、ちゃんとやらせるために必要な事柄であり、デー……とかではない。

『見に行く。つまり出かける。ということは遊べる。 ──行きましょう。今から行きましょう!』

 この日はハシャグ姫をなだめ、明日は無理だから日曜日にしようと提案して今日に至った。以上だ。
 よって、これよりミカとホワイトデーのために出かける。


 ※


「服を選ぶの頑張ったのに制服になってしまった……」

「あれは頑張り過ぎだ。一愛いちかがあんな格好してたか? ルイがフリフリのドレスを着ていたか?」

「着てなかったです」

 姫の部屋に普通くらいの服は無かったらしく、ミカは初めて会った時の天使の学校の制服になった。
 あの時は色黒だったからギャルっぽかったが、今は色白なので清楚な感じ。いや、髪と目の色のせいでコスプレみたいになっている。

 しかし、これを誤魔化すアイテムは俺の手持ちにはなかったんだ。
 どこかに寄って帽子くらいは買わないといけないな。

「分かったならよろしい。注意事項は予め説明した通りな。俺からあまり離れるな。勝手な行動をするな。これさえ守っていれば……──っていきなりどこに行く! 今、注意事項を確認しているんだけど?!」

 俺の話を聞いていないのか、ミカはダッシュで一目散に何かに向かっていく。

「レート。猫よ、猫! 猫が歩ってる!」

「猫? いや、勝手な行動を……」

 確かに、近所でよく見る野良の三毛猫が歩いている。塀の上を。我が家とお隣との塀の上をだ……。

「「…………」」

 塀の上の猫。その猫にハシャグ銀髪の姫。それを背後から静止しようと腕を掴んだ俺。俺の正面には庭の花に水をかけているお隣のおばちゃん(ルイの母)。
 ミカは猫と。俺はおばちゃんと、それぞれ目が合っている。

「れいちゃん。それはデート? また、新しい女の子? というか三股?」

「チガウヨ。ドレモチガウ」

「あっ、証拠写真撮ってルイに見せなきゃ」

「写真を撮って脅すなんて最低だぞ! やめて!」

 ブーメラン? ちょっとなんのことだかわからない。なんてやってる場合じゃない! この女はやる!
 絶対に止めないと、ルイどころか近隣全てにに拡散してしまう。

「冗談よ。姫宮ひめみやさん。こんにちは」

「こんにちは、おばさま。お菓子美味しかったです」

「あら、ありがとう。今日はお出かけかしら?」

「はい。ホワイトデーのお返しを見に行くんです」

 ──普通に会話している!? それも親しげにだ。
 なんでミカが……。いや、おばちゃんが。いや、どっちもだ。

 いったい何がどうなっているのよ。
 あと姫宮さん? これはどういう……。
 お前、分かるか? 猫よ。

「ニャ!」

 知らないか……。だよな、猫だもんな。
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