連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

KZ

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天使のホワイトデー

そしてホワイトデーへ ④

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 けたたましい音と、目がくらむほどの光。
 その予想外の事態に、思わず目をつぶり耳をふさぎしてしまった。避ける間のない異変というか爆発だった。

「目が、目がーーっ。見えない……ことはないな」

 再び目を開けた時、まず最初に目に飛び込んできたのは、大きすぎる背中。
 一瞬、この背中は誰なのかと考えてしまう。
 膝下の大きさのセバスではない。俺と変わらない身長の二クスも違う。金髪でないからミカエルのおっさんも除外。残るのは……。

「王様」

 俺の前にいたのは、威厳に満ちた男にして威厳がありすぎる王様だった。
 慣れたヤツ以外はいちいち威圧してしまう体質からか無口になりがちな大男。顔も怖いし子供には人気も出なそうな人。しかし、娘にはあまあま~な一面もある。

「耳が、耳が……──大丈夫だった!」

 その王様が俺たち兄妹の前に立っている。
 位置からすると一番近かったのは王様だが、まさか庇ってくれるとは。思わなかったわけではないが意外だ。

「無事か。被害も最小で済んだな。良かった。また庭が壊れなくて……」

「ああ、助かったよ。ありがとう、王様」

「ありがとう。顔の怖いおじさん」

 王様の言うようにすごい爆発だったと思ったのに、テーブルしか壊れていない。『何故?』と視線を動かすとあるものが目に入る。

「4人がかりでこれでは笑えませんね。ねぇ、セバス殿。ミカエル殿もそう思いませんか?」

「何を言う。最初に言ったであろう。アレは強いと。ルシアも流石と言ってやりたいが、結果は予想通りであった」

「単に加減が出来ぬだけではないのか? 下手をすればどうなっていたことか。これだから天使という奴等は……」

 今の爆発を防いだのだろう四方を囲む、王様以外の男たちなど景色の一部となるくらいに目立つ存在。
 セバスとミカエルのおっさんが険悪な感じだが、そんなのどーでもよくなる存在がいる!

「なっ──」

 神々しい4枚の羽根を大きく広げ宙に浮き、全身が光り輝くまさに、ザ・天使の後ろ姿がそこにあった。
 そして、丈夫だったはずのドラゴン装備が大破して、倒れていて動かないお姫様が目に入った。

「──ルシア! 大丈夫か! ミカ、何もこんなになるほど本気でやらなくても……いいじゃないか……」

 倒れているお姫様へと駆け寄り、その身体を抱き起す。次いで、この惨状の犯人であるミカに顔を向けたのだが……。

「──アミカちゃん?」

 そこにいた天使はミカではなくアミカちゃんだった。その人間離れした銀の髪と、ルビー色の瞳は間違いようがない。

「──えっ!? 嘘、いけない。力を集めすぎた! なし。これは無しで!」

「…………」

 紛れもなくミカの声と仕草でアミカちゃんが喋る。
 あまりのことについていけず、俺は開いた口が塞がらなくなった。

「まさか浄化してしまうほど力を使わされるとは……──じゃなかった! 急いで帰る、のは変か。かと言ってこのままでは……──そうだ!」

「…………」

「あーー、なんかきぶんがわるいーー。あたまもいたいーー。ミルクのようにアタシも少し休んでくるわーー」

 今さら手で顔を隠し、今さら棒読みで、今さらバレバレの嘘を言い、ミカはいそいそと立ち去ろうとする。

「待てや、なんだその棒読み! じゃなかった。何がどうなっているのか説明しろや! ……というか、俺はアミカちゃんに何かいろいろと喋ってしまっている? いや、あれはミカだったわけで。いや、結局は言わなくていいこととか。言わなくていいこととか。言わなくていいこととかを、たくさん言っている……」

 アミカちゃんには聞かれたことにはもれなく全部答えたし。聞かれなかったこととかも喋ってしまっている。
 それも思い出すと内容がなかなかによろしくない。

「あわわわわわわわわわっ──」

 幼馴染をどう思っているのかとか。お姫様をどう思っているのかとか。天使ちゃんをどう思っているのかとかが含まれている。
 なんて恥ずかしいことを言ってんだ、俺。

「れーとがバグった!」

「よし、今のうちに──」

「ミカちゃん。もうバレてるし、ルシアちゃんをこのままにしていくの?」

「そ、それは……」

 思わずくらりとしたというか。可愛かったというか。まさかミカと同一人物だとは夢にも思わなかったというか。つまり、何も喋らせるわけにはいかない!

「ミカエラーー! 俺が喋ったことを1つでも口外してみろ。必ず後悔することになるからな! マジだぞ! もう本当にだからな!」

「れーと、顔。なんの説得力もない。お前、どんだけミカちゃんにまいってんだよ」

「こ、これは、その……」

 内心は怒っているんだがそれが顔にまで出ない。
 だって俺はこの美少女とお友達なんだよ? 超可愛いんだよ? あんまり酷いことも言えないし、出来ないよ。

「うっ……耳元でうるさい」

 まったく動かなかったお姫様が顔を上げた。
 抱き寄せているのを思わず忘れて、激しく揺らしてしまったからか? 怪我人になんてことを。

「ルシア! 大丈夫かお前!? 誰でもいい。医療班。医療班を呼んでこい!」

「いらないわ。自分で立てるし」

 ドラゴン装備によりダメージは減っているとはいえ、今まで起き上がらなかったのは事実だ。
 弱っているお姫様を見ること自体も初めてだし、用心というか念のためというか、医療班の到着を待ち、大人しく搬送されてほしい。
 一応言っておくが、決して心配しているわけじゃないんだからね!

「いや、無理すんなよ。医療班が到着するまで黙って寝てなさい」

「大丈夫よ。それよりアレを出して」

「言うことを聞いて。ほら、俺が責任者だから。そういうのも含まれてるから。それに1日2日経ったって大丈夫だって。悪くならないようにしておくし。だから──」

「──お願い。今日、渡したいのよ」

 ……痩せ我慢しやがって。

 お姫様は明らかに無理して立っていると誰が見ても分かる。険悪な雰囲気だった大人たちさえ、口を閉じこちらの様子を黙って見ている。

 どちからが正しい。

 見守るのか。止めるのか……──なんて考える時間も惜しい! パパッと終わらさせて搬送するのが一番いいに決まってる。

「ほれ、渡したら大人しく搬送されろよ。痩せ我慢は身体に良くないからな」

「ありがとう」

「ミカ、お姫様がお呼びだ。その羽根をしまって彼女の前に。医療班も急がせろ。タンカだタンカを持ってこい!」


 ※


 バレンタインから日が経ってしまったが、これが本来の姿であり、本当にあるべき様子だったのだろう。
 片方はフラフラで立っているのもやっとで、片方はこれから何をされるのかとドキドキしている。ドキドキに限ってはどちらもかもしれないけどな。

「な、何用でしょうか? 思ったより痛かったから、お、怒っていたりしますでしょうか? ……だったら一思いにやって!」

 殴られると思っているのか、銀色のお姫様は目をぎゅーっとつぶり顔を下げる。

「違うわよ。ミカ、ごめんなさい。そしてありがとう。これ、遅くなってしまったけど、受け取ってくれる?」

 それに金色のお姫様は笑って答え、俺から回収したものを差し出す。
 ここまで大分時間と手間を要したが、この瞬間を見れたのは良かったと思う。

「本当は直接渡しに行きたかった。でも、あたしが急に押しかけて嫌な顔されたらって頭の中をよぎったら、直接ではなく手紙と物だけ送ってた」

「ルシア」

 お姫様が天使に送ったバレンタインのチョコレートの手紙には、仲直りしたい旨が書かれていたのではないかと考えている。
 今日まで知り得た2人の関係性を鑑みるに、かなり確率のある考察ではないかと自分で思っています。

「この包み……」

 いつぞや自分が破壊したのと同じものが目の前にある。『わぁーーって』やって見る影もなくなり、二度と手元にくるはずがなかったものがだ。

「今度はぐちゃぐちゃにしちゃダメよ。あと、ちゃんとお返しもくれなきゃダメ。わかった?」

「うん」

「なら、いいわ」

 痩せ我慢も限界だったのだろう。
 お姫様は力が抜けたようにふらりと倒れる。

「──よっと。タンカはまだか! 用意しておけと言っただろうが!」

零斗れいと!」

「ミカ、バレンタインにチョコレートを貰ったからにはホワイトデーにお返ししなくてはならない。これはルールだ。まあ、なんだ……その……分からない事があったら聞きにこい」


 ※


 姫祭りはこれで終わりだが、次回から、突然ホワイトデーになったりはしない。
 準備とか。用意とかが必要になるのだ!

 とりあえずは天使たちに、飲み食いしてセクハラして。した分を取り立てる。ついでに、いろいろと解決する予定だ。乞うご期待!
 ……Zzz……Zzz……Zzz……。
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