連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

KZ

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天使のホワイトデー

写真撮影 ③

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♢22♢

 今日の最大の目的であった、姫祭りの写真撮影は何事もなく、無事に終了しました。
 撮れ高は十分あったので、来年に向けての姫祭りの布教活動に大いに役立つことでしょう。
 あとは我が家のプリンターが火を噴くだけです。

 ならここからは、私プロデューサーも姫祭りに参加し、ハッチャケたらいいんじゃない?
 皆様そう思いがちでしょうが、そうはならないのです。

 ここからは異世界のプロデューサーとしてではなく、白夜はくや 零斗れいととしての仕事があるのです。
 どちらもプロデューサーであることに変わりはないですが、──これは俺が個人的にやることだからな! ……なのです。

 苦情などは全て俺が……私が負う所存であり、いかなる場合も逃げないことをここに誓います。
 ──では、始めます。

「おじさん。一愛いちかぁ、お酒は飲めないからぁ、あの超高級フルーツが食べたいなぁ。頼んでいい?」

「あ、あぁ……──じゃんじゃん頼みなさい! おい、そこの! 貴様だ、貴様。早くフルーツを持ってこい!」

 別に高級ではないフルーツの盛り合わせを、法外な価格設定で提供する。
 支払いはもちろんしてもらう。後日、まとめて、絶対に。

「ありがとうー。あっ、お酒が空になってるね。注いであげるよ」

「すまないな。それにしてもこんなサービスまであるとは……ぬふふふ……」

 色気など皆無な我が妹は、自らに無いものには頼らず、持ち前の愛らしさを全身からふりまいて、天使のおじさんを虜にしている。
 こうなると、どちらが天使なのかは不明だ。

 あと、様になりすぎている。
 もう完全にそういう職業の人にしか見えない。
 頼んでおいてあれだけど、お兄ちゃん心配です。

「はい、高級フルーツ盛り合わせです! お客様、女の子にはお手を触れぬようお願いいたします!」

「わ、分かっているわ! 私は所帯のある身……あ、危なかった……」

「女の子へのお触りは禁止です。当店は、そういうサービスは行っておりません」

 ──んっ? まあ、そうだよな。お前はいったい何をしているのか……か。
 しかし、分からないか? 女の子を使って、もてなしているんだ。自称えらーい天使さんたちを。

 おもてなしってのはこういうことだろう?
 これは違うとか、お前は間違ってるとか言えるなら、キミは聖人か何かだ。
 普通、おもてなしってのはこういうのなんだよ。
 野朗なら女の子を。女子ならイケメンを。
 これに勝る、おもてなしなど存在しないんだよ。

「おじさん。いい飲みっぷりだよー。でもぅ、タダなんだからもっと飲まないと。じゃんじゃん注いであげるよ」

「おい、イチカチャン。そんなに注いではこぼれてしまうぞ!」

「さあ、飲んで。おじさんのかっこいいところを、一愛に、み・せ・て」

 ちなみに、やり取りの全部は一愛のアドリブだ。
 ただ、えらーい天使たちに酒を注いでくれれば良かったんだが、そこまで求めたわけではないが、なんか妹は楽しんで、進んでやっている。
 そうだな。『お兄ちゃん心配です』以外に俺から言えるのは1つだけだ。『いもうとこわい』。以上です。

「お、お注ぎします!」

 こっちは逆に不慣れな感がウケている。
 男の目線を必ず奪う、胸元開きすぎのドレス装備も合わさって、スゴい破壊力だと思う。
 正直に言うと俺もあっちに……いやいや、そんなわけにはいかない。

「ミルクチャンは何やら店をやっていると聞いたよ。私で力になれる事があれば遠慮なく言ってくれ。だから……」

「本当ですか? 嬉しいです」

「本当だとも。嘘など言わんさ。だからそのむ──」

「──女の子にはお手を触れぬようにお願いします!」

 油断も隙もありゃしない! このエロ天使共が!
 妹はそれほど心配いらないが、ミルクちゃんは心配してやらなくてはいけない。
 彼女は上手いこと言われたら、ころっと騙されてしまうかもしれない。
 そしてお触りさせてしまうかもしれない。

 責任者としてしっかりガードしなくてはーー。
 危ないことをしているのは分かっている。か弱い女の子へのガードは俺の仕事だ。

「なっ、貴様」

「文句がおありでしたら、姫を呼びますが?」

「いや、それは勘弁してほしいかなー」

(お客様。見るだけなら許されます)

(そうだな……)

 断っておくが、これは姫の許可のもと行っており、何も法には触れていません。そもそも異世界だし。
 それに姫がいいと言えば、だいたいはいいんだ! 覚えとけ!
 まぁ、たとえ姫がいいと言っても許されないところもあると思うけどねーー。

「気になっていたんだが、貴様はずっと何をしているんだ?」

 なんか急に知らない人に話しかけられた。
 誰、このデブの人……。えらーい天使たちと同じところにいはするが、はて? こんな人いたかな?

「……誰だ。お前は?」

「ええ、その対応の違いは何!? 私も偉いんだぞ! というか、私ももてなしてくれ!」

「あん、しょうがねーな。ほら、酒を注いでやる。ありがたく飲め。そして酔い潰れろ」

 女の子の数が足りないので、必然的に接待からあぶれる人が現れる。こんなやつがいたのかは知らないが。
 しょうがないので俺がフォローしよう。女子をガードしつつの写真撮影で、俺も忙しいんだけどなーー。

「いや、私も女の子に……」

 ちっ、めんどくせえなあ……。
 俺が覚えてないってことは、こいつはどうでもいいんだけどな。独り身のやつに用はないんだ。
 重要なやつらは所帯がある、えらーい天使たちなんだよ。

 だが、どっちみち同罪だからな。
 最後は同じ目に合うんだから、同じように扱ってやらないと可哀想か。
 女の子だろう。ご要望通りに呼んであげましょう。

「では、女の子をお呼びしましょう。ミカエラさん。こちらの方についてください」

「えっ……」

「はいはいー、ミカエラちゃんでーす」

 こちらも一愛とは違った意味で、進んでお酌をしてくれている天使ちゃんです。
 2人がどう違うかと言うとな、こう……俺に騙されてやっている。
 今、詳しくは説明しない。許してくれたまえ。

「えっ、ちょっと待って! ねぇ、ちょっと──」

 ご要望通りの女の子も呼んであげたし、これで良し。
 まったく、余計な手間をかけさせやがって。
 そんなに女の子がいいなら、自分のとこの姫に酒を注いでもらうんだな。

「何よ。アタシの酒は飲めないって言うの?」

「いや、そんなことは……」

 あとはミカとは逆から酒を注いでいっているお姫様か……それにしても遅いな。
 ミカと同時に、逆から注いで周ってをしているはずなんだから、もう一周はしていいはずなのに。

 何かトラブルか。どこかで止まっているのか?
 心配だから様子を見に行こう。


 ※


「まさか、あのルシアにこうして酒を注いでもらえる日が来るとはな。感慨深いものがあるな。おかわり」

 お姫様がどうしたのかと思ったら、なんだ、ミカエルのおっさんのところで止まってるのか。
 エロ天使たちの被害合われているのかと、心配して急いできて損した。

「いや、1人目じゃん!? おっさん。いつまで、お姫様を止めておくんだ!」

「あんた、いいところに来たわ。助けてちょうだい! おじさま、全然進ませてくれないのよ!」

「おっさん。王様にも気を使えよ! 見てみろ。娘から釈してもらえると期待していたのに、スタート位置から全然進まなくてションボリしてるよ? おっさんだよ。お姫様と天使のスタート位置を変更したの!」

 本当はそれぞれのパパンから始まるはずだったのに、ミカエルのおっさんが逆にしろと言い始めた。
 無視しようかと思ったのだが、やかましかったので、その通りにしてやったんだ。
 だが、これは予想外の展開だ。このおっさんはーーっ!

「しかし、注がれては飲むしかあるまい」

「お前が注がせてんだろーが! もういい、俺が代わる。お姫様は予定通りに頼む」

「助かったわ、ありがとう」

 このおっさん、ぐびぐび飲んでいるのに全然酔ってる様子がない。バケモノか。
 ミカエルのおっさんは諦めて、他に集中するべきか……。

「何を企んでいる?」

「お得意の読心術を使ったら?」

「ふん、この雑多なところでは不可能だ。あれはあくまで、裁かれる者の本音を引き出すものであり、通常の心は読めん」

 なるほど。チートスキルではないというわけだ。
 心を読まれるといろいろ筒抜けになるから、今日はおっさんに近づかない予定だったんだが、その必要はなかったらしい。

「祭りという催しを開き、こうして我らを集め、もてなし、なんとする。若き変革者よ」

「うそ……何それ。変革者とかかっこいい。プロデューサーをやめて、名称を変革者にしてもらおうかな。タイトルも変革者 白夜はくや零斗れいとの異世界生活。とかにしてもらおうかな」

「そうやって惚けてみせる様は流石よな。変革を望む者よ」

「それもいいね。変革を望む者 白夜零斗の──」

「貴様、それは素か? 素でやっているか?」

 概ね、マジでやってるよ。あとはツッコミたくなかったからだね。
 祭りは開催したが、おっさんたちなど集めてねーし、始めから呼んでねーし、実はもてなしてもねーし。言わないけどね。

「れーと。一周してきたよ」

 ちょうどいいところに妹が来た。
 案外時間がかかっていたが終わったのかな?

「首尾は?」「上々」

 問題なく終わったらしい。
 どうらや楽しんでやっていたから遅くなったようだ。

「俺は仕上げがある。このおっさんを頼む」

「了解でーす。おじさんさぁ──」

 一愛いちかにおっさんは任せて、俺は仕上げといかなくては!
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