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天使のホワイトデー

机の中も異世界だったんだよ! ②

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 お姫様にここ数日の間、俺がどこで何をしていたのかを包み隠さずお伝えしました。
 何故なら作戦は『いのちはだいじ』に変更されたからだ。

「──ということがありました」

 その結果。ひな祭りサプライズは消滅し、『お姫様は天使が来ることを事前に知っている』という状況になりました。
 名探偵はあざむけなかったんだ……。

 でも、しょうがなくね。だって、聞かれているうちに答えなかったらどうなっていたことか。
 死なないにしても、死ぬくらいの目にはあっていたかもしれないよ?
 それに頑張りは無駄になったけど、なくなりはしないじゃん。だからいいよね?

「そう。明後日はミカも来るのね。こっちから出向く必要がなくなったわけだけど……」

 言葉を切ったお姫様こと、ルシアさんの視線から怒りがにじみ出ている。気がする。
 なんだか『目が余計なことしやがってー』と目で語っている。気がする。

 なんていうかメッチャこわいです。
 これは喋ったら喋ったで、結局やられるやつなのでは? かなり理不尽だが、姫という生き物は理不尽なものだからね。

「あんた。どんな無茶をしたの? どうやってミカの部屋まで行ったのよ」

「あー、それはね。ちょっと来て。自分で見てもらった方が説明が早い」

 お姫様の部屋のクローゼットを通り自室へ。そこから新たに出来てしまった、ミカの部屋に繋がっている、俺の机のところへ移動する。
 そしてその引き出しを開けて、中をお姫様に見せる。

「天国の門は俺には開かなくて大変だったんだが、俺の誠意が伝わったらしく、こうして天国の門の中へと入れるようになった。ここからミカの部屋に直接繋がっている」

「…………」

「最初は謎空間になっていたんだが、今はちゃんと繋がっていて、階段降りて向こうまで行けばいいだけだ。ちなみに今は一愛いちかとミカがガールズトークしている。あっ、ガールズトークというのはな──」

「──戻るわよ」

 中に入ると言うとは思わなかったけど、そんなに早く戻ると言うとも思わなかった。
 今ので納得したのだろうか? 俺、説明上手かった?

「プロデューサーさん。ひな祭りについて確認するわ」

「んっ? それは構わないが……何で?」

 2人できた道戻ってきて、お姫様はいつもの位置に座った。そしてこっちを真剣な様子で見ながら、妙なことを言い始めた。

「ひな祭りとは、日本という地域において、女子の健やかな成長を祈るお祭り。祭りといいながらも儀式のようなものはない。事前に飾り付けた雛人形。菱餅、ひなあられ、白酒、ちらし寿司なる料理が振舞われる。要は飲食を楽しむ祭りということよね?」

 資料は作成した(学校で。授業中に)。
 お姫様は日本語を読める(なんか覚えてたから)。
 その資料を彼女は見ている。
 OKサインは彼女が出しました。
 頭もいい。なにせ名探偵だし。

「あぁ、おっしゃる通りです。お姫様。しかし、このタイミングでひな祭りについて確認とは? もう明後日のことなんですが?」

 今から大きく内容を変更したいとか、無理を言ってしまうんだろうか。姫だし。
 チョコレート修行でお忙しかったから、無茶を言ってしまうのだろうか。姫だし。
 自らの発案だから妥協したりはしないんだろうな。姫だし。

「雛人形は? あんなのないわよ」

「知ってる。だって、異世界だし」

「あれが重要なんじゃないの?」

「知ってる。だって、ひな祭りだし」

 お姫様が言わんとすることが分かった。
 ひな祭りのメインがなくて、ひな祭りできるのかという心配だったようだ。
 しかし、もちろん抜かりはない。策はある。

「ひな祭りは、ただ飲み食いするだけなの?」

「それは違う。ちょっと外に行こう。これも実際に見た方が早い」

「?」

 目的地は目と鼻の先である城の庭。
 頼んだアレの出来も気になるし、このまま見に行こう。


 ※


 雛人形がないことなど最初から知っていた。
 雛人形を作るのは難しいと思ったので、あるもので代用しようと考えた。そのための準備は万端。
 俺が仕事を任せた人たちの中に、中途半端な仕事をするヤツはいない。
 なにせ、大好きなお姫様のためだからね。みんなマジでやるよね。知ってた。

「おおー、出来てる出来てる。会場としては上々」

 場所は城門の近く。お姫様と天使がバトルをした、王様の趣味の庭の破壊跡だ。
 城門の修繕を一旦止め、これを作ってもらった。
 赤い布も敷かれていて、見栄えはもうひな祭りと言っていいでしょう。

「これ──」

「ふふふふ、気づかなかったろう? 出来上がる前まではただの木の台だからな。修繕の足場にでも見えただろう? しかし、赤い布により何か分かったはずだ。そうこれは、雛人形の飾り台だ!」

「……大きくない?」

「大きくない。飾るのは人形ではないから。ほれ」

 先に台に登って優しい俺は、お姫様に向けて手を差し出す。なにせ相手は姫だし、プロデューサーという俺は部下。
 こういう場合はエスコートしなくてはならない。決して、手を繋ぎたいから手を出したわけではない!

「ありがとう」

 ほら、お姫様も大人しく従うし。間違いはないんだよ。
 これを繰り返し、一番上まで登っていきます。

「ここまで登ると案外高いな。気分はどうだね、お雛様?」

「あぁ、そういうことね。あたしがお雛様なわけね」

 今ので感のいいお姫様は分かったようだ。
 ニックさんたち大工衆に作ってもらった飾り台。ミルクちゃんに頼んだ赤い布に小物。食い物は城のシェフ~たちに頼んだ。

 菱餅とひなあられは俺が買ってある。できてるものを一定量買い占めたから、店員さんに『業者?』って思われたかもしれない。
 酒は流石に買えないから、アンチたちが用意することになっている。お姫様たちには甘酒を用意した。
 今はインスタントのやつがあるんだよ? 買うまで知らなかったわー。

「そう。人形はないので人間で代用ということで。そして名称も、ひな祭りから姫祭りに変更で。姫のための祭りだからみんな喜ぶぜ。今年は城の中だけでやるけど、来年は大々的にやろうと思う」

「姫祭り。あたしたちの健やかな成長を祈る、お祭りってこと?」

「それもある……というか流石は名探偵。ミカも含まれてることに気づくとは」

 姫は2人いるんだ。2人ともにここに載ってもらう。
 あとは写真があれば、あとで拡散できる。

「だが、それだけではない。これは上手くいった場合の話だがな──」

 お姫様には姫祭りが上手くいった場合の話をしておく。もうサプライズじゃないし、片方が事前に知っていれば、おかしなことにはならないからね!
 本当はナイショにして、ことを運ぶつもりだったんだが、バレてしまっているので、バレているのを頭に入れて行動します。

「そんなことまで考えていたのね」

「俺は転んでもただでは起きない。失敗し失ったとしても、立ち上がり倍以上を得る。それに、こないだとは違う。ミカエルさんに聞いた事もある」

「本当に世話焼きね……でも、ありがとう」

 急にそんなしおらしい反応をされると、対応に困る。
 なんかドキドキするし、どう返したらいいのか分からないです。困っちゃいます。

「お礼にあたしからも1つ教えてあげる。あんたが言う天国に夜はないわよ?」

「はっ? おっしゃる意味が分からないんですが」

「寒いから部屋に戻る」

 そう言って、お姫様は飾り台の5段目から飛び降り、何ごともなかったように着地する。
 だからーー、この高さ! 普通の人間には適当に無視できないからね。ミカじゃないけど骨折れるからね! 普通はね!

「ちょっと! 置いてけぼりっすか? ねぇ、お姫様。ねぇってば!」

 い、行ってしまった……。振り返りもしない。
 だけど、今のお姫様の言葉が引っかかるな。
 天国に夜はない? でも、ミカの部屋は真っ暗だったよな。
 夜なんだから、暗いのが当たり前なんじゃないのか?

 けど、夜が本当にないなら、部屋が暗かったのは寝ていたからじゃないのか? お姫様の言い方からすると別に理由があるってことだろうか?

「ここにいても仕方ない。寒いから俺も城に戻ろう。そして二クスを叩き起こして進捗を確認しよう。シェフ~たちからもか。徹夜にならないようにしなくてはな」
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