連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

KZ

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天使のホワイトデー

机の中も異世界

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 弁明しながら2階の自室から1階まで下りてきてしまった。この間、必死の弁明の効果はまったくない。
 このままでは妹にアレなヤツだと思われてしまう。中々のピンチだ。

「違うぞ。本当に違う。何もかも違うんだ!」

 どう違う。こう違うとかは言い尽くした。もう長い台詞を言うのにもつかれた。
 だが、ちがうものは違うと言うしかないのだ。

「いちかは、りかいがあるからだいじょうぶだよ。ヒメだけでなく、オトコもすきなんだとしてもね」

「いつもそこまで平仮名じゃないでしょ!? ぜんぜん大丈夫じゃないじゃない!」

 起きたことを簡単に説明すると、帰ろうとするクソ執事ことナナシくんの下半身に、背後から抱きついている場面を妹に見られた。
 いや、それも抱きついていたわけではないんだ。机から一度引っ張りだしたかっただけなんだ。

 詳しく知りたい人。よく分からない人は前の話を読み返してくれ。
 あれは必要なことだったんだと理解してもらえるはずだ。

「クローゼットに続き、机まで異世界に繋がってしまったんだよ! その事であの執事をシメようとしただけなんだよーー。信じてよーー」

「……執事趣味」

 ありのままを伝えたのに、伝えたいことが伝わらずに歪曲するんだ。
 こんな場合、お、俺はいったいどうしたらいいのよ?

「そんな特殊な人ではないよー。普通に女の子が好きだよー」

「妹に向かって女好きだと言うとか。とんだヘンタイヤロウだな! ──近寄るな変態!」

 この調子ではどう言ってもダメか。一度こうなると一愛いちかはダメだ……。
 誰に似たのか、まるで話を聞かないんだ。逆ギレして暴れ始める前に諦めよう。
 男好きの変態野郎という不名誉を受け取ろう……。

「わかった。もうなんでもいいです。俺は執事が繋げたところからミカのところへ行ってくる。もしお姫様が来て俺が、どこ行ったか聞かれたら、上手く誤魔化しておいてくれ」

「ミカちゃんのところにいくの?」

「そういった。そう言ったよ? さっきの人はそのためにやって来て、勝手に作業して、勝手に帰っていこうとしたんだって」

 それは弁明の中にあったよ。必死だったけど俺は言ったの覚えてる。
 文章として存在してないだけで言ったんだよ。

「一愛もいく」

「はぁ?」

 行きたいなんて言うとは思っていなかったから、妹が一瞬、何を言ってるのか分からなかった。

「ミカちゃんのところにいくなら、一愛もいく。着替えてくるから部屋で待ってろ」

「おぉ……」

 帰って来てそのまま俺の部屋にきた一愛は、制服にカバンを持っている。部屋に帰って着替えてくるらしい。
 そして待ってろと言われては、俺は待ってるしかない。無視して1人だけ先に行こうものなら、それこそ何を言われるか分からないしね。


 ※


「──よしいこう!」

 手早く部屋着へと着替えて、一愛いちかが俺の部屋にやってきた。準備は万端らしい。
 行く気満々な一愛が言うように、行くのは行くんだけどね。執事は勝手に帰ったっぽいし、これについてなんの説明も受けてないんだけど……。

「さっき頭から入っていこうとする執事をおかしいと言ったんだが、足からは入れないな」

 開けた机の引き出しの中は真っ暗。
 どうやら仕組みは、お姫様の方のクローゼットと同じようだが、この真っ暗闇に足から行くのは勇気がいる。

「机に上って飛び込んだら?」

「そういう意味じゃない。そして謎空間にそんなことする勇気はない。だってこれ、向こうはどうなってるのよ……」

 この異世界と繋がる仕組みを参考までに教えると、同じもの同士が繋がっているらしい。
 クローゼットならクローゼット。机なら机というわけだな。

 クローゼットと違い机の場合、向こうが閉まっていたらどうなるんでしょう?
 エモン的に逆から開けられる仕様なのか? それとも、向こうから開けてもらわないとダメなのか?

「れーと、先に入って様子を見てきて」

「先に行けとは言わないが、あからさまだね。一愛ちゃん」

 一愛にやらせはしないが、かなり勇気がいるね。
 執事が帰るところを見ておきたかった。しかし、先ほど執事は頭から入っていこうとしていたよな。

「大丈夫だって。れーとは」

「俺が大丈夫という、なんの根拠もない意見をありがとう」

 どのみち入るしかないんだ。探り探りいこう。
 まずは、ちょっと覗いてみる。真っ暗。
 つぎは、ちょっと触ってみる。特に何もなし。

「どう?」「──わからん!」

 ちょっと手を入れてみる。何にも触らない。
 少し深く手を入れてみる。何にも触らない。
 右手を全部入れてみる。何にも触らない。
 ──って、深くない? 机にしては底が深くない?

「おい、深い。謎空間は深いぞ!」

 お姫様のクローゼットとは深さも向きも違うから、これでは全容を確かめられないな。
 めっちゃイヤだけどここはクソ執事のように、頭を入れて中を直接見てみるか。

「押すなよ、押すなよ! これはフリではなく本気で言っているん──」

「──まどろっこしいな。さっさといけや!」

 引き出しに頭を入れ、真っ暗闇な中を覗き見る体勢だった俺は、背後からの妹の一撃によりバランスを崩した。
 具体的に言うと背後から押され、重心が前にかかった。つまり、真っ暗闇に頭からダイブするかたちに──

「──ふざけんな!? 何故こんな無茶をす、あっ、あぁぁぁぁぁぁぁ────」

「あっ──」

 あとはもう真っ逆さまだ。
 真っ暗闇に真っ逆さまに落ちていくーーーー!

「…………」

 ──パタン

「閉めた!? 今、引き出しが閉まる音が聞こえた!」

 俺を謎空間に落とした犯人は、証拠隠滅のため引き出しを閉めたーーーーーーっ!

 たーーーーっ!
 たーーっ!
 た……。

 そして俺は真っ暗闇に浮いている。もう上も下も分からない。
 これはアレかもしれない。『いしのなかにいる』なんてね。まさかね!?

「一愛のやつ。なにもさ。閉めることはないと思うんだ……」

 漂っている謎空間は途方もないくらいに広い。
 これはお姫様のとこと同じように、向こうが開いてないとダメだったらしい。
 開いてなかった場合も、自分の側の引き出しは開いているはずだから、通常は戻れたのだろう。もちろん『一愛が引き出しを閉めなかったら!』の話だけど。

「どうしよう、いしのなかにいるエンドで終了……」










「──なんて諦める俺ではない!」

 普通に空気もあるし、俺がいないことに気づいた人が探しにきてくれるかもしれない!
 あっ……一愛に上手く誤魔化してって言ってあるし、ヤツは知らぬ存ぜぬを通すだろう。

 実は携帯電話を持っている! これで一愛に電話して助けてもらえばいいじゃない!
 あっ……俺……妹の番号知らないや……。
 そして電波もない。詰んでない。これは詰んでないかな?

「いや、天使の裁きでさえ死ななかったのだ! こんなんで死んでたまるかーー! 助けてがないなら、自力でなんとかしなくてはーー!」

 しかし、そのあともどうにもならず、唯一の明かりである携帯の充電も減っていくという状況になりました。だれかたすけてください。
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