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天使のホワイトデー

ひな祭りの用意。異世界編

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♢15♢

 お姫様のお願いというのは他でもない。異世界でもひな祭りをやりたいらしい。
 我らが姫にプロデューサーとしてお願いされてしまったからには、誠心誠意力一杯頑張らせていただく所存であります! ……であります……。

 そんなわけで、ひな祭りの用意は異世界編へと突入した。そのためにまず最初に俺がやる事は、そのための各方面への協力依頼だ。
 これは俺の仕事なので、その間にお姫様はルイのところにチョコレート修行にいかれた。
 きっと今より強くなって、お姫様は帰ってくるはずだ!

 ──と冗談はさておき、まずは近場から行こう。

「城門の修繕は一旦中止だ。これを作ってくれ」

 まずは一番近くのところからだ。
 城門の修繕をしている大工集団ゴリラ組に、あるものの建設を頼む。
 図面は用意してきたので、あとはお願いするだけだ。

「急にそんなこと言われてもなぁ……。こっちも職人なんで、中途半端な仕事はできんのですよ」

 それはそうか。『はいそうですか』とはいかないか。
 職人気質はいい事だし大事なんだろうが、今は必要ない。これは姫からの、お願いとは名ばかりの命令なんだから。

「これはお姫様直々の依頼なんだけどなーー。しかし、ニックさんが嫌だと言うなら仕方がない、他所に頼むよ。邪魔したね。チミたちは城門の修繕を、予定通りに進めてくれたまへ。仕方がないね。こればかりは職人気質というやつだからね。とはいえ急ぎだし、姫からの直々のお願いだし。ガチで嫌だけど悪魔な業者に頼むかなーー」

 なので、俺は『うん』と言わせないといけない。従わせなくてはいけない。
 まあ、姫の威光があれば簡単なんだけどね。見てろ。

「──待ってくれ!」

 にやり──

「おや、まだ何か? 私は悪魔な業者にこれを依頼しに行かなくてはいけないのだが?」

「──やらせてください! お願いします!」

「最初からそう言ってよー。アンチたちも信者だけど、ニックさんたちもお姫様好きだよねー。知ってた」

 信者は皆チョロい。ありがとうございます!
 大工集なら問題なく仕上げてくれるな。
 よし、台はこれでいい。次は小物関係か。


 ※


「いらっしゃいませ! 玩具とご一緒に玩具はいかがですか!」

「うーん、なんか違うから、もう1回お願いします」

 ……今のでもダメなの?
 これ、もうかなりの回数やってるよ。
 やっぱり一周回って何がダメなのかわからないよ。なにより今じゃなくてはいけないのかな、これ。
 つーか、俺はコンビニで働くの?

「いや、ミルクちゃん。俺は接客の練習しに来たわけじゃないんだよ?」

 次は、ひな祭りの小物関係と衣装関係をミルクちゃんに頼みにきた。
 そしたらミルクちゃんのコンビニは、中はもう出来上がっていて、品物も納得の配置となっている。流石だわ。

 でだ。『これは今日は手伝うことはないなー、やったぜ!』って思ったら、なぜだがコンビニ店員的な挨拶練習をさせられている。

「たまにしか手伝いに来ないくせに口ごたえですか? ……はぁ……」

「お姫様のお願いなんだよ。コンビニはまた後日ということで! こっちを何とかお願いします!」

「わかりました。姫様のお願いなら断れないです。似たようなものでよければ期日までにご用意しますと、そうお伝えください」

 これも何故だか、悪魔にボラれないミルクちゃん。
 彼女なら悪魔たちにも上手に交渉できるんだろうし、そのルートがあれば、急ぎの今回も品物を用意してくれるだろう。

 それがなくても商売人として優秀だし。
 最悪、似たものだろうとあればいいんだ。あれば!
 そうなっても、ないものはあるものを使えばいいし、その方が異世界らしいし。
 ひな祭りっぽい雰囲気が出ればいいんだ。なんでも!

「それとミルクちゃんも参加な! お姫様が呼んでるからね。着の身着のままでいいので3月3日にゴンドラのところに集合ね。時間は決まったら、また連絡するから!」

「はぁ……。ところでプロデューサーさん。ひな祭りとは何なんですか?」

「姫のための祭だ。姫による姫のための祭だ」

 これで、ひな祭りをするためのお願いは完了と。
 細かいところはイケメンがやるというか、俺は忙しいのだ。細かいことは全部、イケメンに押し付ける!


 ※


 さて、ここからはお姫様には頼まれてはいない。俺の独断で勝手にやる。
 しかし、今回の主役は姫だからさ。そして姫は2人いるし、どうせならダブルでお雛様してもらおうというわけだ。だから、お節介を焼く。

『天使のところに行きたい。どうすりゃいい?』

 俺の考えるひな祭りには、ミカにも連絡つけなくてはならない。だが、直接ミカのところに行こうにも何も分からないので、暇そうな方の悪魔に聞いてみた。

『小僧。貴様は自分の立場を理解しているのか? 此度の件、天使の側に小僧の味方はいない。のこのこ出て行くのは勝手だが、命の保証は無いぞ』

『セバスに言われなくてもそのくらい分かってますー。だがね、何も使いとして行くわけじゃない。友達として怪我のお見舞いに行くだけだ!』

『その理屈が通じればいいがな。それに、人間を天使たちが自分たちの領地に入れるかも分からんぞ。門の前で射殺という可能性も大いにある』

 この悪魔執事は仰々しく考えすぎなんだ。いくら何でも射殺とかないわー。
 そんなん天使じゃないじゃん! そして門って!
 天国への門があるとでも言うのかい? 笑っちゃうわ。はっはっは──

「止まれ! それ以上一歩でも進めば撃つ。ここがどこだか分かっているのか……人間」

 少なく見積もっても100人くらい。それだけの数の天使による、天使ビームが俺を狙っている。
 フラグを自ら作り、回収するということをしてしまったらしい。

 ないと思った天国への門は目の前にあるし、ないと思ってたのに今にも撃ち殺されそう。
 セバスの言ったように命の保証は無かった。そして天国への門はあった……。

「貴様、どこから来た。迷い込んだなどとは言うまい」

「間違えました。お騒がせして申し訳なかったです。ボク、──帰ります!」

 撤退! 即ゴンドラまで撤退!

 実は、城から下にいくゴンドラは上にもいけたんだ。セバスに教えてもらったように、ゴンドラの上へのボタンを押して着いた先はここ。
 謎の巨大な門の前だった。きっとあの向こうは天国に違いない。そんな気がします!

「──動くな!」

 撤退のために一歩踏み出したところに、ピンポイントで天使ビームが飛んできて、雲のような足場を貫通したーー! ギャーーッ!

「あぶねーな、当たったら死ぬぞ! というか、一歩も前に進んでないのに撃ちやがったな。嘘つき! 天使の嘘つき!」

「みすみす逃すわけがあるまい。捕らえろ! ここへ来た方法を聞き出す。その後は審判を仰ぐ」

「また審判だとぅ!? ふざけんなよ。2日続けてそんなことされてたまるか! モンスターペアレントじゃなくて……おっさんじゃなくて……何かよくゲームに出てきそうな名前の……──ミカエルだ! ミカエルさんを呼べ!」

 とっさに名前が出てこなかった。
 俺は自分で思ってる以上に、かなりギリギリの状態だからだろうね。かなりテンパってるね。

「……大天使様だと。ますます怪しい! やはりこの場で射殺しろ!」

「──なんでだよ! 話くらい通せよ。聞くだけ聞いてよーー。ミカエラさんのお友達の零斗れいとくんが遊びにきています。って言ってきてよーー」

「姫の友達だと? よくもまあ、ぬけぬけとそんな嘘をつくものだ。構わん。射殺を許可する。この場で始末しろ」

 なぜだーー! どうしてこの天使は何一つ信用しない!
 警備がキツすぎる。もれなく全員射殺してんじゃねーの!? 最初の捕らえろは嘘なんだったのか!?

『お待ちなさい』

 ここが天国だからだろうか。天から女の人の声がする。
 空を見上げても誰もおらず、だが全員に声は届いているようだ。完全に空から聞こえてきている。

「ガブリエル様……」

 うわぁ……。
 また聞いたことある天使な名前だ。
 天使はだいたい、なんとかエルって付くよね。

『その場での殺害など認められません。おやめなさい』

 マジ天使。どんな人か知らないが、ガブリエルさんマジ天使だ。俺を助けてくださるらしい。
 この頭固い天使とは比べられないくらいに天使。

「──しかしですね。明らかな不審者! 第一、人間がこんな場所に至る経緯が不明です。人間が大天使様の名前と姫様の名前も知っているなどありえない。あまつさえ友達などと。この場を預かる者としては──」

 ──そこで食い下がんなよ! ガブリエルさんの言うこと素直に聞けよ!
 なんなんだこの野郎は。羽生えてれば偉いのか? よく見ればイケメンだし。死ねばいいのに。

『新参者のわたくしの言うことなど聞けないというわけですね』

「──け、決してそのようなことは!」

 ……新参者? 超聞いたことある天使なのに? もしかすると2代目とか3代目とか付くのか?
 あるいはガブリエルという天使は、この世界では若い人なのか? 若い女の人の声だし。

『なら、やめなさい。貴方は優秀な生徒でしたよ。真面目で誠実な。しかし、いかんせん頭が固い。人間が何の理由も無しにこんな場所にはこない。これない。ミカエラを敬愛する気持ちは分かりますが、それで物事を決めつけてはいけません。分かりましたか?』

「申し訳ありませんでした。天使長様」

 なに、天使長だと……。
 ガブリエルさんが天使長。
 ミカが恐れていた方だろうか?
 それとも天使長は複数いるのか?

白夜はくや 零斗れいと。この門は貴方のためには絶対に開きません。門から中へは絶対に入れない。分かりましたね? では帰りなさい』

「……なんで……俺の名前……」

 疑問とかが一瞬で、なんで名前を知られているのかに切り替わる。で、完全にフリーズする。
 だっておかしいだろ。俺は名乗ってない。

『おかしなことを言いますね。先ほど自分で名乗っていたではありませんか。話は終わりです。私は授業がありますので失礼します』

 いや、警備天使とのくだりで名乗っていたのか?
 テンパっていて確信がないが、そうとしか思えないもんな。そうだとしよう。

「じゃあ、ガブリエルさん。ミカエルさんかミカエラさんに取り次いでもらえますか? ………………。」

 そう言ってみても、天から声が聞こえてくることはなかった。何度言っても、何を言ってもだ。
 門の前に残る融通が利かない警備の天使では話にならないので、この日は諦め一時撤退することにした。
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