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天使のホワイトデー

裁かれるのか。捌かれるのか。

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 ……こうして続いているということは、俺はまだ生きているということだな。嬉しかったり、嬉しくなかったりだ。
 くそー、気づいたら翌日になってたりとか、なんやかんや上手くいっていたりと、ご都合主義な展開を期待していたのに。

 ──救いなんてありゃしない!
 このままだと天使に裁かれて死ぬ。あー、もう!

 なんてこうしている今も、その審判の時は刻一刻と近づいている。理由は知らないが、このままでは俺に天使の審判が下る。
 パターンとしては天使ビームで消滅。天使ビームで焼却。天使ビームで抹殺。とかだ。

 ……全部ビームじゃないかって?
 だって他に思いつかないし。だってビームだよ。

 それにミカの使う天使ビームを実際見ているし、ヤバい威力も知っている。
 絶対に人体には使ってはいけないヤツだとな!

 あぁあ、指先から発射される天使ビームで、あの地球人のようになる未来しか見えない。
 絶対に『主人公、異世界でビームにより死亡』なんて、そんな最後は嫌だ! とはいえ、どうしたらいいのか……。

「入れ」

 し、審判きたーーーーっ!
 今の聞いたことない声だ。
 あの、顔がおっかないおっさんに違いない。
 つまりモンスターペアレントが呼んでいる!

 先に二クスを行かせてどうなるのか様子を見るか?
 いや、入ったが最後。二度と出てはこないのでは?
 断末魔の悲鳴とか、ビームっぽい効果音とかするだけでは……。

「ほら、大天使様がお呼びだ。いけ──」

 手枷の鎖を握っていた下っ端天使に背中を押され、話し合いが行われていた会議室に、無理やりに押し込まれる。

「座れ」

 お、俺が先!? ふざけやがって、クソ天使が!
 そう後ろに文句言うまでもなく、真正面にモンスターペアレント。その左右に白い服の人たち。
 座れと言われた俺の近くには例の椅子。あれだよ、アレ。冷たーい拷問椅子だよ。

「──はい! その前に一言だけ。すいませんでした!」

 とりあえず謝っておこうと思い、モンスターペアレントに深々と頭を下げ、全力で謝罪を試みる。
 ほら、印象が変わるかもしれないからね。

「いいから座れ。二度同じことを言わせるな、人間」

「すいませんでした! 今座ります!」

 渾身の謝罪も効果なし。それどころか少しイラッとさせたかも。顔が怖いおっさん。モンスターペアレント。たぶん天使。が俺を睨んでいるし。
 野郎に関する情報などこんなところだろう。というか、男の天使とかいらなくない?

「……今のは何に対する謝罪だ?」

「えっ、監督不行届きというか。仲直りさせるはずがこじれたりしたというか。天使にケガさせてしまったからというか。裁かれたくないからというか」

「自己保身が主な理由か」

 今、他に何があるんだよ。状況考えろや!
 空気の読めないモンスターペアレントにそう言いたいところだが、俺がそれだけのやつだと思ってもらいたくはない。

「ケガさせてしまったのを悪かったと思ってる。せっかく遊びに来たのにケンカして、仲直りするどころかケガまでして、終いに強制帰宅ではミカは可哀想だ。もっと、やり方があったんじゃないかと思ってる」

「嘘はないか……」

 顔の怖いおっさんこと、モンスターペアレントなたぶん天使は何かを考えているようだ。
 つーかさぁ、これがミカのパパンなの? ヤクザとかじゃなくて?
 天使の格好してるから天使に見えるけど、ヤクザな格好してたらヤクザに見えるよ。

「ですから言ったでしょう。プロデューサー殿は姫が好きだと。抱き合ってこう、アレしていたと」

「適当なこと言ってんなよ。クソ執事」

 ミカのパパンに白い服の偉そうな天使たち。よくよく見れば、胡散臭い執事もその中にいる。
 執事も偉そうに、自分だけ裁かれないヤツの席に座ってる。ヤツも同罪だと思う。

「いいじゃないですか。アレで姫は尽くすタイプですよ。この機会に交際の許可をもらえば」

「誰がいつ天使を好きだと言った。オマエ頭沸いてんじゃねーのか? まぁ、確かにあのプニプニはすごかったが」

 ──はっ!

「…………」

 モンスターペアレントが俺を睨んでいる。もしや、目からもビームが出たりはしないよね?
 全身から出せるってことは目からも出たりは……しない! よね?

「アレの怪我の経緯は聞いた。話を聞いた限り、貴様は関係あるまい。にも関わらず貴様が謝る訳は何だ? ルシアを庇うつもりか?」

「はぁ? おっさん、アンタ何を言ってんだ。あれは俺の責任だ。あそこは俺の家だし、連れて行ったのも俺。画策し失敗したのも俺。それに庇うも何も、悪いのはだいたいいつも俺だ!」

 ミカはケガしても大丈夫だと言い張った。それは、お姫様にやられたとはしないためだ。
 怪我したのをお姫様のせいにしないためだ。

 そうまでしてミカが何も言わなかったのに、ここで俺がお姫様が悪いという訳にはいかない。この後どうなるとしてもな。
 何も出来なかったんだ。そのくらいはしてやるのが、プロデューサーのせめてもの責任というやつだ。

「ふっ、覚悟はあるらしい。ならばこれ以上の問答は必要あるまい。大天使ミカエルの名において、貴様に裁きをくれてやろう」

 ……おやっ? おやおやー。
 今なんか、変な感じがする名前が聞こえた気がするな。この顔の怖いおっさんはミカエルさんと言うの? 天使のミカエルさん?
 あれーっ、何か超聞いたことある名前のおっさんだね。どこのゲームからきたのかなって感じだね。

「流石はプロデューサー殿。怖いもの知らずですね」

「ねぇ、ナナシくん。このミカエルさんは俺が思ってるミカエルさん?」

「そうですよー。よくあれやこれやに出てくるミカエルさんです。あの有名な大天使のミカエルさんです」

 うわぁ……これは死んだわ。俺が思っていたよりヤバいヤツだった。
 見た目ヤクザなのに超天使だったね。

「規律を重んじるのが天使だ。悪魔のそれと変わらぬ人間に慈悲は無い。欲にまみれたその生を終えよ」

 喋っているおっさんの手に、天使ビームの要領で光が集まり剣の形になる。事前の予想を反しビームではなかったが、より悪質に見える。
 あの形状から察すると首をいかれるらしい。裁くと言っていたし、捌かれるんだろうか?

 ……命乞いはしない。

 上手く立ち回れなかったのは俺が悪い。だから誰のせいにもしやしない。
 それにチョコレートはもらえたし、ルイとも和解した。お姫様にもチョコレートもらえたしな!

 思い残すことは無限にあるけど、終わりは終わりだ。どうしようもないしな。
 こんなところで死ぬとは思ってもいなかったが、別に『長生きしてぇー』と思ったこともないしな。

 お姫様と天使のことは一番気がかりだけど、一愛いちかがなんとかすると思う。なんと言っても俺の妹だし。
 いざ死ぬかもとなるってみたが、大したことないな。もっと泣きわめくものかと思ってたんだけどな。
 死ぬならせめてその瞬間まで、いろいろ考えていよう……。

 ……。
 …………。
 ………………。
 ……………………。

 あー、やっぱり死にたくはないな。せっかくお姫様とか可愛い女の子が現れたし、幼馴染もなんか可愛いし。
 なにより異世界の可愛い女の子たちも沢山いるし。

 少なくとも来年のバレンタインまでは生きていたいなぁ。そして来年も同じことを思うだろうな。
 つまり死にたくない! こんな時こそ、なんか俺の真の力が覚醒したりはしないだろうか?
 時を止めたりとかできるようにならないかな?

「止まれ! 止まらないと、ギャーーーー!」

「と、止まれ! とま、ギャーーーー!」

「ギャー!」「ギャーー!」「ギャーーー!?」

 何だ? 廊下から大量にギャーギャー聞こえる。
 その音はまるで、ズラリと並んでた天使たちの悲鳴のような音だ。

「ちょっとまったーーーー!」

 そんなふうに悲鳴を量産しながら、その犯人は会議室に飛び込んできた。手には俺の手枷を握っていた天使を持っている。
 あっ、投げ捨てた……。ザマァ。

「ルシアか。もう遅い」

 おっさんの手の光の剣が一瞬で5倍くらいの長さになる。あれなら、おっさんの位置からでも十分に俺に届く。ちょっと横に振られたらお終いだ。

「──うるさい! 勝手なことしてんじゃないわよ!」

「──姫、お待ちを!」

 お姫様に次いで、裁かれるの待ちだったイケメンが、天使たちが大量に倒れている廊下から顔を出し、乱入してきたお姫様を止めようとする。
 しかしそれはもう遅く、お姫様は天使の剣を片手で弾き、瞬く間におっさんのところまで行って、飛び蹴りをかました。

「──ぐふぁ!」

 蹴られたモンスターペアレントは、会議室を壁ごと突き抜け、外へと消えていった。
 そして、おっさんが座っていたところにお姫様は華麗に着地した。

 ……なに、これ?

「茶番よ、茶番! これだから天使は──」

 ──ねぇ、なにこれ!?


 ※


『少し話があります。ちょっとこちらに……』

 そう言った『激おこ!』な二クスに引っ張られて連れていかれたナナシくん。
 戻ってきた時には、天使が持ってきたゴミのようになっていたけど、俺は俺で殺す。あの胡散臭い執事は殺す。10回は殺す。

『良い蹴りだった。成長したな、ルシアよ』

 と言っていたモンスターペアレントも殺す。ミカエルだか何だか知らないが殺す!
 あいつらは全部分かっていて猿芝居をしてやがったんだ! どうしてくれよう。この怒りをどう発散するべきか!

「そう怒りを見せるな。フリでも必要な事だったのだ」

「黙れ、このモンスターペアレントが! 心が読めるだぁ? そんな特殊能力知らねーよ! 返せよ、俺のいろいろを返せよ!」

 筒抜けだったんだ。アレとかコレとか。全部!
 今思えば、このおっさんは不自然なところがあった。会話が噛み合ってない部分があった。
 裁かれる恐怖で気づかなかった……。

「ふっ、中々に根性が座っているな。あの状況でああも──」

「──その事は忘れろ! 口にしたらブッ殺すぞ!」

 お前たちも全て忘れろ! いいな?
 その事に少しでも触れたら殺す。もう本当にコロス。

「ミカなんて可愛いものよ。ずっとこんなんよ?」

「あぁ、あいつはイイヤツだった。こんなに性根がねじ曲がった天使ではなかった!」

 ミカにポンコツとか言って申し訳なかった。親がこんなんで、よくまともに育った。
 きっと天使長なる人物のおかげだろう。まじリスペクトします。

「……その件でここへ来たのは本当だ。形式としてという意味合いもあるが、父親として、オマエたちを幼い頃より見てきたものとして、ここに来たのだ」

「……むっ」

「何があったのだ? それを教えてはくれまいか?」

 そう言われてしまっては無視もできない。ミカエルのおっさんたちの目論見通りにお姫様もここにいる。
 クソ天使! と内心思っているけど、モンスターペアレントがお姫様を動かしたのも事実だ。
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