連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

KZ

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天使のホワイトデー

バレンタインを教える

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♢11♢

 かなり余計な行動が目立つ天使ちゃん。
 それは嫌というほど分かっていたので、帰宅の際の移動を手を繋いでの移動にした。

 何故なら、すでに夜なのでお姫様は部屋にいらっしゃるし、移動にはどうしたってお姫様の部屋を通らなくてはならないからだ。
 これで天使を野放しにしての移動は、トラブルの匂いしかしないし。

「ルシア、久しぶりね!」

「……」

 しかし、喋るなと言ったのにお姫様に話しかける天使。
 手を繋ぐだけでなく、口にガムテープも必要だったと後悔した。見た感じよろしくないが、プラスして目隠しも必要だったか? とも思う。

「今日もいい天気ね!」

「…………」

 もう夜だよ。とツッコんでやりたかったけど、1秒でも早くこの場を離脱した方がいいと判断し、止まったまま動かない天使を無理矢理に引きずっていく。

「……ううっ……反応がない……」

「──だから諦めろって! 執事が待ってるから行くぞ!」

 両手で天使の右手を掴み、引きずっていこうとするが、──全然動かない! なんなの、足が床にくっついてるの!? と思うくらいです!

「このくらいで負けないわ……──もう一度勝負しなさい!」

「──なんでだ! こないだの破損も相当だったし、それもまだ直ってないし、お前はそのせいで天使長にしばかれるんだろうが!」

 天使長という部分に反応したのか、天使の力が緩んだ。その隙を見逃さずに扉まで引きずっていく。
 この何メートルかでどんだけハラハラさせんだよ!

「おさがわせしました!」

 だが、なんとか天使をお姫様の部屋の外まで引きずることに成功した。
 まったく、俺の話を聞いてないのかこのポンコツ天使はーーっ。俺がどれだけ気を使っていると思っているのか。

「目も合わせてくれなかった……」

 天使は改めて目の当たりにしたわけだが、お姫様は事前にそうすると宣言してたからな。
 お姫様も有言実行するタイプだ。いい方にも悪い方にもね。

「諦めろ。しかし、分かったろう? お姫様は本気だと」

「どうしよう……。ねぇ、どうしよう?」

「謝れ。それが一番の解決への道だ」

「無理よぉ……。そんなの無理」

 こいつも大概だな。素直に謝れないという気持ちは理解できる。
 だが、ここまでくると意地としか思えない。意地っ張りなやつだ。

「じゃあ予定を予定通りに消化しにいく。こんなところに立ってても、どうにもならないからな」

「レート。どうしたら……ううっ……うわぁぁぁぁぁん──」

「ちょ、抱きつかないで! そして泣かないで!」

 泣かれるだけでなんか俺が悪い気になるし、側から見たら俺が悪いみたいに見えるから。
 だいたいこんなところを見られたら、言い訳のしようが……。

「いつのまにそのようなご関係に?」

 急に声がしたのと天使の今の状態が合わさって、ビクッとしながら背後に振り返ると、声の主はすぐそこに立っていた。
 どこから現れたのか天使のとこの執事がいた!

「──何もない! 何もないからな!」

「今の自分の姿を鏡で見てから、おっしゃった方がよろしいですね。しかし、プロデューサー殿が姫とお付き合いされるのなら、それなりの覚悟が必要になりますよ。娘さんを僕にくださいとやらないとダメです」

「違うと言ってんだろ、クソ執事! 天使をなだめろよ。お前の仕事だろ!」

 抱きつかれているし泣いてるしで、まるで説得力はないが、違うものは違うとしか言えない。
 そして本当にやめてほしい。セクハラで死刑にされるから!

「姫、もう夜です。皆さまの迷惑になりますから。ルシア様のことは一時忘れて、プロデューサー殿の部屋に行きましょう。話は後でお聞きしますから」

「うん……」

 執事の言葉に我を取り戻したのか、天使は抱きつくのをやめ、ようやく俺から離れた。というかだ……──このクソ執事。分かってて言ってやがったなーー!

「ささ、行きましょう!」

「俺の部屋に行ってもバレンタインのことなど分からんぞ? 口で説明するのも面倒だしな」

 ここでイライラしてもしょうがない。平常心。平常心。今はバレンタインのことだ。
 そのうち、ナナシくんには仕返ししてやろう。必ずな。必ずだ!

「……ではどちらに?」

「城下に行く。ちょうどいいところがあるんだ」

 そういえば初めてだな。夜に城の外に出るのは。


 ※


 目的地はバレンタインを行なった場所。もうすぐオープン予定のコンビニの前だ。
 実はあそこ、まだ片付けてないんだ……。
 バレンタインこと『みんなで仲良くチョコレートを食べよう会!』をやった時のままになっている。

「これは……コンビニですか」

「んっ? ナナシくんもコンビニだと分かるのか。じゃあ1つ聞きたいんだけど。何でコンビニなんだ?」

 ずっと疑問だったんだ。何故、異世界にコンビニなのかが。
 ちょうどいいやつが、ちょうどいいぐあいにいたから聞いてみよう。別に他の悪魔でもいいが、ちょうどいいぐあいにはいないから。

「展開するならスーパーよりコンビニだからじゃないですか? オーナーは地域の人になりますし、事前投資だけであとは上前をはね放題。ダメならダメで、投資分を回収する手段には困らないのが悪魔です。契約と金勘定は悪魔の専売特許ですからね」

「悪魔がマジ悪魔なのは理解してるから大丈夫だ。それよりだ。スーパーもあるの? 悪魔が経営するスーパーマーケット? 嘘だよね?」

「その名もアクマート。地域密着型にして、様々な客に対応するお店。手に入らないものはないと言われるスーパーなマーケットです。興味あるのでしたら今度行きますか? ご案内しますよ」

「うん、大丈夫。そんなところ絶対にいかないよ」

 悪魔的な価格設定そうだし、手に入らないものはないとか怖すぎる。
 アクマートか。覚えておこう。絶対に近づかないためにね。

「ねぇ、早く行きましょうよ。寒いわ」

 それは、キミが着ている服が薄いからじゃないすかね。
 お姫様の前ではカッコつけたいらしく天使の服は薄い。寝巻きすら薄い。
 季節感が逆だと思う。その格好は夏にすべきだと思うが、それは言わないでおく。どこ見てんだよと言われたら困るからだ。

「そうだな。こっちだ」

「あの建物に行くんじゃないの?」

「コンビニに行ってもしょうがないだろう。電気付いてるから、まだいるようだけどな」

 下手に顔を出したらまた手伝わされそうだし。ミルクちゃんは結構、人使いが荒いのだ。
 あと、夜にいるってことは悪魔な業者もいるのかもしれないし。これ以上は近づきたくない。

「目的地はこっちのプレハブ小屋だ。いらなくなったのを借りた。中はバレンタイン関連のものが押し込められている」

 元は、今はコンビニの中に入っている物を保管してあったらしい。それらはもう全部運び出したので、プレハブ小屋だけが残ったというわけだ。
 ゆくゆくは悪魔に返却するらしいが、開店するまではあるらしいので物置として借りたんだ。

「椅子はないから、その辺の箱にでも座れ。バレンタインの資料を出してやろう」

「狭いし、椅子もないなんて……」

「こんな時だけ姫ぶるな。あった、これとコレだ」

 執事は読めるだろうが天使は読めさそうなので、翻訳されている資料を渡す。
 この資料の完全版であるバレンタインの書もあるが、あれは使わない。汚されそうだし。作るの苦労したし。

「まずはこれを読め。それで分からなければ質問してくれ。俺は暇だから、そこら辺を片付けしているから」

「では拝見します」「えっ、アタシも?」

「もちろん、お前もだ。読んで、どうして自分にチョコレートが届いたのかを考えろ!」

 黙々と資料を読みふける執事。
 渋々、嫌々目を通すポンコツ姫。
 そのあとしばらくしてだ。

 ナナシくんはずっと無だったが、あるところで天使の方に異変が起きる。
 最初の症状は口が塞がらなくなり、次の症状は顔を赤くする。最後には、プルプル震えだし口をパクパクし出した。

「──どうした!? むずかしかったか。天使ちゃんには難しかったのか!?」

「──ち、違うわよ! そうじゃなくて、こ、これ本当!?」

「書いてあることに間違いはないぞ。調べたし、毎年やってきてんだからな」

 俺たちの世界では毎年行われているイベント。まぁ、資料には近年の風潮も含まれてはいるが……。

「──っ! そ、そんなことが……」

 ミカはどうしたというんだろう?
 そんなに頬を染め上気させて。放っておいたら湯気とかでそうだけど。

「──ルシアはアタシを好きなの?! そんなの困るわ!」

 どうしてそんな結論に至ったのだろう。
 今の反応はその結論の結果だったのか、ポンコツ天使め。

「そこじゃないし、そうじゃない。その結論は間違ってる」

「あー、それではこちらで?」

 天使は不正解だが執事は正解を見つけたらしい。だけど、なんか……こいつも様子がおかしい気がする。

「ナナシくんが正解。しかし、お前も様子がおかしいぞ?」

「そ、そんなことはありませんよ。決して」

 いや、おかしいだろ?
 明らかにおかしい。これは追求が必要だな。
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