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天使のホワイトデー

天使のやらかし

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「さて、容疑者はキミたち2人だ。ポンコツな天使ちゃんと、胡散臭い悪魔執事くん。あのゴミは最初はどんなだった? しっかり思い出せ!」

 場所をプロデューサーとしての俺の部屋に移し、容疑者はたちへの取り調べを開始した。
 お姫様の部屋でこれをやっていた場合、お姫様が帰ってきづらくなると思ってね……。多分すぐには戻ってこないだろうけどね。

「プロデューサー殿。仮にそのゴミが何なのか判明したとして、もう元には戻らないと思うのですが、いかがでしょう?」

「ナナシくんの言う通りだが、それでいいのか? このまま帰るという選択も、お前たちがありというならありだ。天使の目的は達成されているから、もう二度とお姫様からは贈り物はないだろうし、もう二度と遊びに来る必要もないし、もう二度とお姫様に関わらないで生きていける」

「──そんなのイヤ! 嫌いだし……ムカつくけど……こんなのイヤ。一方的に泣かせて、勝ち誇って帰るなんてできない! ………………なんだから」

 天使の言葉の後ろの部分は、声が小さくて聞こえなかったが、だいたいわかってるからいい。

「だ、そうだ。姫がこう言ってるけど執事は帰る? お前は関係ないなら帰っていいよ」

 言われて帰るようなやつなら女子だろうとぶん殴っていたが、俺についてきた時点でアレは意図しない展開だったのだと分かってた。
 さらに事態を解決したいというのなら、手を貸すつもりです。なんだか、自分を見ているようで無視はできないのです。

「うーん。ここで自分だけ帰っては、完全にワルモノになってしまう。ですから姫にお付き合いします」

「よし! なら、このボロッボロの、元が何か分からないゴミが何だったのかを探る。思い出せ。描けるなら絵にしろ。あっ、異世界語はやめてくれよ。人間である俺は読めないからな。日本語で書くか、口頭で説明して」

 何かの袋のようなゴミ。だが、元はカラフルな袋だったようだ。
 天使は可愛らしい包みと言っていた。その可愛らしい包みから、ゴミが出てきたと。
 しかし、お姫様はゴミは送るまい……。

 天使が来たのが2月23日。
 あー、これは現実での日付であり、異世界は2月24日だ。誰かのせいで日付は1日ずれてる。
 誰かのせいでね? ……誰かとは誰かだよ。もう次いくよ?

 なら、これが天使に届いたのは昨日か一昨日くらいだろうか?
 天使の性格を考えると、すぐにでも飛んできそうだからな。配達のシステムが不明だから何とも言えないけど、どうせ何でもありの悪魔たちの仕業だろう。
 そこはそれでいいとして。んっ、そういえば……。

「なぁ、天使はどっから来たんだ?」

「上よ。雲の上」

「ふーん、雲の上からか……──って、上って何!? ここもだいぶ上なんだけど。この城はもう雲より上にあるよ!?」

「じゃあもっと上よ。集中してるんだから邪魔しないで!」

 絵にすることにしたらしい天使は、色鉛筆を上手に使い何かを描いている。
 普通に鉛筆を持って、使いこなしているのが気になるところだが、邪魔して鉛筆で刺されてはたまらないから刺激しないようにしよう。

 それにしても、もっと上。上?
 城から見える上空の範囲には、何もないと思うんだけど……。もしかすると、天国的なところからきたのかな? 天使だし。

「なぁ、ナナシくん。天国はあるのかな?」

「ありますよ。ついでに言うと地獄もありますよ。地面深ーーくに」

「──ストップ! もういいや。続けて続けて」

 あっ、これ聞いたらダメなやつだ! 世界の秘密的な感じだ!
 俺はそういうのに関わらずにいきたいし。生きたい。余計な情報が追加されると、変なフラグが立つんだろ? しってる、しってる。

 なので、──これ以上は聞きません!

 普通が大事なんだよ? ここが異世界だとしても、俺が目指すのは俺たちの世界の普通くらいなんだから。
 十分に普通はスゴいんだから、普通でいいんだ。

 異世界を冒険したりバトルしたりは、そういうのをやりたい人たちがやればいいんだ。
 俺はそんなの『やりたくない!』ので。城と城下町。たまに旅行くらいで満足なので。

「──できた!」

 天使が色鉛筆を置き、描き上げた絵をこちらに見せてくる。
 ちなみに筆記用具は、俺がこの部屋に持ってきていたやつを与えたんだ。普通の鉛筆に色鉛筆と、絵を描くには十分だったはずなんだが……。

「下手くそ。絵心ないな」

「──こんなに上手に描けてるじゃない!」

「見た側から分からないんじゃあ上手くはないだろう。何だそれ。黒い塊とか特になに?」

「──これが包みの中身よ!」

 小さい子供でも、もう少し上手く描けると思うよ。天使は絵心もないと……。
 となると、この天使のはあてにならない。ナナシくんに期待しよう。

「こんな感じでしたね」

「ほら、見てみろ! こういうのを上手いというんだ。自分のと比べてみ?」

「──なんでアタシより上手く描くのよ! アタシに花を持たせないよ!」

 天使は怒るが、下手くそは下手くそとしか言いようがない。執事が姫にやられそうだが、執事と姫のやり取りはどうでもいい。
 暴力天使が執事を折檻しようとしてるだけだからね。俺がお姫様にやられそうでも、誰も助けてはくれないからね。

 ドカッ── バキッ── グシャ──

 また壊してるけど自己責任だから。送られる請求書が増えるだけだし、天使は天使長なる人物に殺されるだけだから。
 もう少し姫らしくおしとやかにできないのかな……。

「んっ……あれっ? これ、どっかで見たな」

 ナナシくんの描いた元の包みの袋。その柄。それを俺は見た覚えがある。
 それもつい最近な気がする。どこだったか……──んっ!?

「──やめ、お前らやめろ! これか!? もしかして袋っていうのはこれか!」

 その袋は俺の目に入る位置にあった。
 中身は取ってしまったけど、俺はこれを額に入れて飾ろうかと思っていたんだ。

「……そうね。そんなやつだったわね」

「ええ、形状は異なりますがその柄でした」

 じゃあ──

「この包みが届いたのはいつだ?」

「2月15日ですね」

 空いた口が塞がらなくなりそうだけど、それならそれで聞くことがある。

「それなのに、ここに来るまで1週間以上時間が空いてるのはなんでだ?」

「姫が普段から何もやられてないので、天使長から遊びに行く許可がおりませんでした。許可が出てすぐにこちらに伺ったしだいでして。いつもは事前にお伝えしてから遊びに来るのですが、今回は急だったのでそれもなく」

「もういいや。天使がさらにポンコツだったと判明しただけだ。天使、俺はそれが何か分かった。お姫様が泣いた理由もだ……」

「えっ、どういうこと? 何なの?」

 この反応を見る限り天使は知らなかった。だが、知らずにやってしまったことは俺でも引く。ドン引きだ。
 俺もなかなかだったが、天使ちゃんもなかなかだ。

「これはチョコレートというお菓子だ」

「……お菓子ってなに?」

「ちょっと待ってろ。今取ってきてやる」

 当日には着かなかったんだろう。翌日に届いただけ大したものだったんだろう。事前に送ることも出来なかったんだろう。
 お姫様はそれを自分1人で作ったらしいからな。
 なんたることか……お姫様が天使に送ったのは、バレンタインのチョコレートだ。


 ※


「この黒い物体がお菓子というやつなの? ……キモいんだけど」

「じゃあ、こっちならどうだ? イチゴのチョコがかかってるやつ」

「これなら見た目綺麗ね。それに甘い匂いがする!」

「そんな興味深々な顔してないで食べろよ。そのために、お姫様のお菓子箱から取ってきたんだ」

 1日1つだけと自ら決めた、お姫様のお菓子箱。中身はお菓子。毎日のおやつが入っているやつだ。
 最近はアンティルールにより中の数を減らしているが、それでもまあまあ入っていたお菓子箱からチョコレートを勝手に拝借してきた。

「──美味しい! 何これ! 何なの!?」

「チョコレートだって言っただろ。そっちの黒いのもチョコレートだからな? むしろそっちが本物だからな」

「ふんふん……匂いは同じ感じね。えいっ──」

「そんなに警戒せんでも……」

 知らない人からするとチョコレートのデザインは怪しく見えるのか、天使はだいぶ警戒しながらチョコレートを食べた。
 最後は『もうどうにでもなれ!』という感じだった。イチゴの色味がなかったら真っ黒だしな。

「これも甘い! こんなのあるなら教えなさいよ!」

 しかし、1つ食べて美味しいと分かれば、あとは止まらずに食べている。すでに3つ、4つ、5つと天使はチョコレートを連続して食べている。
 あっ、最初のイチゴのチョコレートを自分の方に寄せて、これも自分のアピールまで始めた。食べさせておかないみたい。

「教えなさいもなにも、だから教えたんだろ? 届いてたじゃねーか。チョコレート」

「…………あー、でもでも! いきなりあんな物体を送りつけられても、ゴミにしか見えないじゃないの! 真っ黒だし食べ物だなんて思わないって!」

「それも疑問なんだけど……。何も入ってなかったのか?」

「どういう意味?」

「包みの中には手紙とかは入ってなかったのか。と言ったんだ。確かに、いきなり黒い物体が送りつけられたら怪しむだろう。しかし、そんなことはお姫様だって分かってたはずだ。どうなのよ天使ちゃん?」

 天使は何故だか沈黙する。口を閉じ、その顔には冷や汗が出ている。それでやっぱりと判明したが、天使は黙ったままなので、代わりに執事が答えた。

「ありましたね。包みの表に貼り付けてありました」

 やはり手紙は付属していたようだ。
 そりゃあそうだろう。物だけ送りはしないだろう。
 名探偵でない俺にだって、このくらいの推理はできる。

「おい、ポンコツ天使。それはどうしたんだ? 読まずに食べたのか? 無限ループするやつか?」

「……や、破いて捨てた。カッとなってビリビリにした。中は見てない……」

 どうやら、こいつは勢いで生きてるらしい。
 表に付いている手紙を読むことなく中を開け、中身をゴミだと思い込み、手紙もチョコレートもやってしまったと。この子は、マジでアホなのかな。

「黒ヤギさんは読まずに食べすてたと……。仕方がないからお手紙書くのか? さっきの手紙の用事は何と。 ──このポンコツ天使! 順番がおかしい。外に付いてたなら手紙から読めよ! 何で中身を先に出して、読まずに手紙を破る! 頭の中が空っぽと言われてもしょうがないな!」

「うわーーーーん。人間にバカにされてるけど、何も言い返せないーー!」

 バレンタインの手作りチョコをゴミだと言われ、食べるどころか踏みつけられてグチャグチャにされ、おまけにそれを自分の目の前でやられたら、あんな反応をするだろう……。
 バレンタインにやらかすか……。
 なんか自分を見ているようだな。はぁ……。
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