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天使のホワイトデー

まるでバトルもののようにたたかう

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♢5♢

 家財道具一式くらいを1人で運んできた女の子。
 荷物が引っかかったから、無理矢理にその荷物を引っ張って、城門を大破させた女の子。

 すさまじい怪力なその女の子の身長は、普通に考えて3メートルくらいあると近づくまで思ってたら、実際にはお姫様と同じくらい。
 わずかに向こうの方が高いというくらいだった。その差は、若干。1、2センチくらいだと思われる。

 お姫様のだいたいの身長と比較して、怪力な女の子はだいたい160センチというところだろう。
 全部だいたいなのはしょうがないよ。身長なんて、だいたいでしか分かんないじゃん? 測ってとも言えないし。体重なんて聞けないじゃん? 死にたくないし。

 あと、みんなが気になるところの話もしておこう。お姫様は控え目だが……──彼女は結構ある! ミルクちゃんまでとはいかないが、ルイよりもある!

 こう、上はシャツにネクタイだけ。下もミニスカートなもんだから、もうヤバイよね。
 どうしても上と下に目がいってしまう。
 しかし、これは男のサガだから仕方ないんだと言っておこう。

 そして、何故いろいろとこんなふうに比較できるかというとね。今現在、彼女たちは顔を向き合わせて睨み合っているからだね。
 もうね。さっきから一触即発な状態なんだ。俺はもう帰りたいなー。

「あー、帰りたいわー」

 おっと、口に出てしまった……。
 だが、誰も反応しなかったところを見ると、みんな彼女たちに夢中だということだろう。

「「…………」」

 ああ、あとな。カチコミに来た女の子は、日焼けなのか焼いているのかは分からないけど色黒。制服みたいな服装も合わさってギャルっぽく見える。
 ギャルがカチコミにはこないだろうから、ヤンキーなのかもしれない。異世界にもヤンキーはいたのか。

「久しぶりね、ルシア。相変わらずどこも成長してないようで安心したわ」

 ──ギャルが仕掛けた。先制パンチだ!
 睨み合いに飽きたのか、はたまたこれが戦争が始まる合図なのか。どちらにせよ、口に出てしまったところで帰るべきだったのは間違いない!

「成長してるでしょう。前に会った時より、5センチも身長が伸びたわよ!」

 ──お姫様が反撃した。しっかり身長測ってた!
 この2人。前に会った時から、それなりに時間が経っているっぽい。だからなんだ! そして誰なんだ!

「えっ、ぜんぜん変わんないじゃない……」

「──あんたも身長伸びてるからでしょ!」

「えっ、そうなの!? アタシも身長伸びてるの。まったく気づかなかった!」

 この2人は知り合いらしい。なら、これは闘わないんじゃないだろうか?
 さっきのは2人なりの挨拶で、2人は本当はとっても仲良し。ということにして俺は帰っていいかな?

 だってさ……5センチ視界が高くなったらさ。普通は気づくよね。普通は。
 それに気づいてないってアホなのかもしれない。俺、アホの子はちょっと……。

 そういうのが可愛いという人もいるけど、俺的にはちょっと。賢い子がいいというわけではないけど、アホな子。しかもギャルはちょっと。

「ふむふむ、身長はお互いに伸びていると。そうよね。ルシアだけならともかく、アタシもそのままなわけないもんね。こんなに成長したし! に対して……そちらはずいぶんとペッタンこよね。ちゃんと食べてるの? それとも、そっちは成長しないの?」

 ア、アホの子だったーー!
 それはアカン。お姫様はかなり気にしてるんだ。それをそんなにストレートに言うなよ。アホめ。

「……戦争よ」

 あーーっ、そして今日は何故だか異常に沸点が低い。そしてついに戦争が始まってしまうらしい。
 に、逃げなくては……。あの怪力に巻き込まれたら死ぬ!

「元よりそのつもりで来たんだから、望むところよ! 身長も胸もアタシの勝ちだし、ルシアを打ち負かしてアタシがさらに勝ち越すわ!」

「調子に乗るな! ちょっと発育がいいからって、──頭は空っぽのくせに!」

「なんですってーー! 誰のことよ!」

「あんたに話してるんだから、あんたにに決まってるでしょ。やっぱりバカ、、なのね!」

 うん、逃げよう。戦争が始まる前に逃げよう。
 バレないうちに撤退するのが一番いい。
 万が一にも巻き込まれたくないし。
 どうせ誰も見ちゃいないんだ。今のうちに……。

「──レイト!」

「──はい、なんでしょうか! 姫殿下!」

 振り返らずに後ろに後ろに下がる途中、こちらを見ることなく、お姫様に呼ばれてしまった。
 に、逃げようとしたのがバレたのか? すでに怒っておられる、お姫様の脅威度は高いのに。

「あんたが審判よ。勝ち負けを判定しなさい」

「嫌です。もう帰りたいです! それに、審判なら他の人にやってもらって? ほら、俺は素人だからさ」

「公平な判断ができる人がいるならいいわよ?」

「えっ、それはいないかもしれない……」

 まず、騒ぎに集まってきた兵士に悪魔。彼らはお姫様の信者。お姫様に超有利な、お姫様判定になってしまうだろう。
 対して向こうのアホの子の後ろにいる男は、アホの子に有利な判定をするだろう。

 というか、またイケメンだと!? ニクス1人でイケメンキャラは足りてると思う!

 無駄に身長が高いし、無駄にイケメンだし。
 なんか執事っぽい格好もきまっていて、なんかムカつくな。あれなら始末してもいいな。むしろやられないかな。

「……そいつ人間。ルシア、どういうこと? 生きた人間がどうしているの?」

 このアホの子は何を言いだすんだろう。
 生きてない人間はいないと思う。だって、生きてないってことは死んでんじゃん。
 俺は生きてるし、やはりアホの中のアホの子なのか?

「ルシア、どういうこと。黙って見過ごせないわよ」

「この場での質問には答えません。聞きたいことがあるのでしたら正式に書面で、──正式に許可を得てからお願いします!」

 アホの子は目線だけは俺を見ていた。そこに、お姫様が喋っている途中で殴りかかった! 審判をやるって言ってないのに始めやがった!
 それも不意打ち……。あまり褒められた行動ではないと思う。

「不意打ちとは卑怯ね。アタシに正面からぶつかったら、勝てないってのはわかるけど──」

 しかし、『パシッ』と音がして、お姫様の不意打ち殺人パンチは、簡単に受け止められている。近くにいる俺まで風圧がきてる威力のね。
 どうなってんだよ、どっちも。これが異世界のスタンダードなのかよ。

「おりゃーーーーっ!」

「「──えっ?!」」

 お姫様の不意打ちは片手で止められた。だが、アホの子がカッコつけて喋っている間に、お姫様はもう片方の手で掴まれた手を捕まえて、アホの子をぶん投げた!
 俺は柔道に詳しくないが今のは分かる。一本背負いだね。ちょっと無理矢理だけど、力でもっていった形ですね。

「きゃーーーーーーーーーーーーーーっ」

 そして、あれは間違いなく落ちる。この宙に浮いてる城から。そのくらいの勢いに見えるし、どんどんアホの子が遠ざかっていく。
 残念ながら……見えない。なんでもないです。

「つーか、大丈夫なのアレは!? 落ちたら死ぬよ!? 忘れてるのかもしれないけど、ここ天空だよ!?」

「大丈夫よ。あのくらいじゃ死なないわよ。それより、あたしから離れなさい。あんたの方が死ぬわよ」

 何を言って……。

「──卑怯よ。いきなり投げるなんて!」

 ……………………えっ? はっ!?

「ふん、戦争に卑怯も何もないわ。勝った方が正義。勝ったやつが正しいのよ!」

 いや、そんなこと言うのは悪役……──じゃなくて! 飛んでんだけど……。

 アホの子の背中に羽が生えているように見える。まるで天使のような羽があって、羽ばたきもせずに飛んでるように見える。

「悪魔らしい理屈を言ってーーっ。もう、本気でやるわよ!」

「自分こそ。まるで天使みたいよ? 羽生やして」

「──アタシは天使よ! 生まれた時からずっとね!」

 えっ、天使もいるの?
 いや、悪魔がいるんだから天使もいるのか。
 あと、お姫様に向かって悪魔らしいって言った?

 ……悪魔なの?

 セバスとかニクスのように、ツノがあるわけでも、鼻が長いわけでもないけど……彼女も悪魔なの?

「──集束。天使の光!」

 何か技名を叫んだ気がする。アホの子こと天使。だが、『悪魔なの?』が衝撃的すぎて、ただただ呆然としてしまう。

「──あんた本当に死ぬわよ。呆けてないで退がりなさい!」

「ぐはっ──」

 そんな俺は邪魔だとばかりに蹴り飛ばされた……。痛い、ちょーいたい。
 そして、再び前を向いた時、天使の指先から光が放たれる。『ビームじゃん』そう思った。

「ビームだと? バカな。そんなバトルもののようなことが……」

 ビームで驚いている最中、お姫様は飛んできた天使のビームを拳で受ける。詳しく言うと殴り飛ばした。『脳筋じゃん』そう思った。

「「──こざかしい!!」」

 2人の同じセリフの直後、弾かれたビームは爆発し、城の庭の一部は(王様の趣味)は大破した。
 飛んでる天使は蹴りの体勢で急降下し、お姫様も回し蹴りで迎え撃つ。

「「ウォォォォォォォォーーーーッ!」」

 始まってしまった戦争に、見物人と化した兵士たちはボルテージを上げる。2人の戦いにだか、おもいっきり見えてしまっているものにだかは分からない。

「いや、誰か止めろよ……。あっ、審判は俺だった」
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