連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

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天使のホワイトデー

こうして天使がくることになった

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 異世界側での日付で2月15日まで話は戻る。これはバレンタインこと、『みんなで仲良くチョコレート食べよう!』会の翌日の話だ。

 この話は後日、本人たちに直接聞いたから間違いはないと思われる。
 しかし、着色等があるかまでは分からないな。あくまで必要だから聞いただけだから。

 特に真偽をどうこうしてもいないし。口裏合わせたりしたらあれだけど、そんなことしないだろうし。

 ああ、語りは俺がやるよ。こういうのを代わりにやってくれる人はいないからな……。
 それじゃあ始めます。



♢3♢

 何をどうしたのか。何をどういうふうにしたら、そうなるのかは知らないが。というか、知りたくないが。
 その日、天使宅に小包が1つ届いた。それは、とても綺麗にラッピングされた小包だった。

「姫、ルシア様から小包が届いております」

 そう天使に伝えたのは執事ふうの男。そう……イケメンである。
 鼻も長くなければ、膝くらいの大きさの悪魔でもないが、ルシアのところのセバスと同じポジション。同じ役割のヤツだ。

「…………」

 そして、それを聞いただけで不機嫌なのが天使。
 本人はそんなことないと言っていたが、執事からはそれはそれはヒドい顔をしていたと聞いた。

 ヤツは嘘を言わないと俺は思う。だから、天使は苦虫を噛み潰したような表情をしていたんだろう。

「お開けにならないので?」

「──捨てて!」

 お昼休みに自分の部屋でダラダラ、ゴロゴロしていた体勢から、まったく動くことなく。
 執事の方をいっさい見ることもなく、こんなことを平気で言うのが天使。流石だわー。

「聞こえないの! 捨ててって言ってるでしょ! す、て、て、き、てーーっ!」

 天使さん『て』が多い。今のとこ、7回も『て』って言ってる。『で』も合わせると8回。
 ああ、これに特に意味はない。暇だから数えてみただけだ。話に戻ろう。

「分かりました。中身も見ずに捨ててしまってよろしいのですね?」

「いいから早く。今すぐ。光速で!」

「何か贈り物かと思ったのですが……。姫がいらないとおっしゃる以上は捨てますね。跡形も残らぬように焼却しておきますので」

「えっ、それはちょっと……」

 ここで急に冷静になる天使。
 この時、天使は内心『流石に可哀想かな?』『酷いかな?』とか思ってる。
 根は悪いヤツではないんだ。ほら、天使だからさ。

「姫は午後もしっかりと勉学に励まれますように。私は姫のお戻りまでに、これを跡形も無くしておきますから。では、失礼します」

 主従の付き合いが長く、ひじょうに天使の扱いの分かっている執事は、天使に対してわざとこう言う。
 これは仕方がないこと。けど、ここが最初の分岐点だったのだろう。

 ここでもし跡形もなく焼却されていれば、ああはならなかったと思うからだ。

「──まって! 中身くらい見てからでも遅くはないと思わなくもなくもない気がしなくもなくもないような気もするようなしないような……だと思うの」

 な、長い……。よく舌を噛まないな。
 それに結局どっち? みんなはわかった?
 まあ、俺はどっちでもいいかな。天使は結局は中を見るんだからさ。

「左様で。でしたら、はい!」

 執事は笑いながら素直じゃない天使に、ルシアかの小包を手渡す。
 綺麗にラッピングされた小包を受け取った天使は、『ゴクリ』と喉を鳴らし、長年の宿敵からの小包を恐る恐る開ける。

 あー、宿敵というのは天使いわくだ。お姫様側に宿敵とかという感じはない。宿敵とは違うんだ。
 天使が勝手に言って、思ってるだけだ。話に戻ろう。

「こ、これは──」

 リボンをほどき現れたものを見て、天使はこう口にした。その顔は『何これ?』が80パーセント。
 ほぼほぼ『何これ?』、じゃっかん『ガッカリ』というところだろう。

「……なにこれ?」

 ……あれっ? 本人、何これって言ってたわ。悪い、余計だった。
 小包の中身は天使が見たことないもの。思わず、何これってなるものだったんだ。
 この時点では綺麗に包装を解いて、開けていたらしい。

「可愛らしい包みでしたのに。中身はそれですか?」

「……ねぇ、なにこれ?」

「さぁ、分かり兼ねます」

 うん、嘘だね。この執事嘘ついてたわ!
 こいつは小包の中身の正体は知ってる。だが、何故それが送られてきたのかまでは分からないから、『分かり兼ねます」って言ってる。
 こういうヤツだね。この執事は。

「これ……どう見てもゴミよね。他には何にも見えない!」

「いえ、それは──」

 もう、遅いよねー。執事遅い。
 余計なことしないで、最初から素直に教えてやれば良かったんだ!
 俺、分かった。犯人はこの執事だ! 死刑だ死刑!

「ルシアめーーっ! わざわざゴミを送りつけてくるとか! 嫌がらせを通り越して戦線布告と受け取った! 顔も見たくないんだけど、とっちめなくては気がすまない────」

 そう言いながら、天使は午後のお勉強へと走り去る。何故なら遅刻はいけないからだ。しようものなら、もれなくデスる。
 で、こんなヤツが天使だ。ヤツは勢いと、勘違いでできてるヤツなんだ。

「姫それは……もういない。これはマズいかな?」

 うん。ひじょーーにマズい。
 しかも次に天使が戻ってきたとき、綺麗なラッピングは中身共々、ゴミのようになっている。

 天使いわく、めちゃくちゃに踏んづけたり、手でこう『わぁーー』ってやったらしい。
 その有様を見て、流石の執事も何も言えなかったらしいな。

 そのあとも天使は怒り狂っているし、普段なら勉強など進んでやらない天使は、ルシアに会いにくるために頑張った。
 来る日も来る日も溜まっていた勉強に、公務にいそしみ、その日遂にお許しが出た。遊びに行ってもいいと。

 そして2月23日。
 その日、天使がやって来た……。


 ※


 頑張った天使は珍しく褒められた。遊びに行ってもいいとお許しも貰った。
 嬉しさ半分。憎さ半分。そんな精神状態だったのだと思う。

「ようやくお許しが出た……」

「普段からちゃんとなされてないから、いざとなった時に遊びに行く許可すら出ないんです。しかし、この1週間よく頑張りました。溜まっていた勉強も消化し、溜まっていた公務も消化し、溜まっていた片付けもちゃんとやり、溜まっていた──」

「──どんだけ言うの!? アタシが普段から何もやってないみたいだからやめてくれないかしら!?」

 実際、天使は何もやってない。できるくせに……できるからこそやらない。
 普段からそんなだから、許しが出なかったんだ。

「それで、いつ伺いましょう?」

「決まってんでしょ、今すぐ行くわよ! この1週間。アタシはルシアへの憎しみだけで頑張ったのよ。1秒だって早くこれを叩き返すのよ!」

 あれから更にボロボロになった元小包だったもの。
 ラッピングには穴が空き、中身はすでになく、なんとか側だけが残る状態のそれを握りしめる、怒れる天使。

「それは置いていかれた方が……」

「──ふざけないで! 形が残っているのは奇跡よ。天使の奇跡。奇跡をあげるんだから、さぞルシアは喜ぶでしょうよ。こんなゴミ!」

 怒れる天使は大事にゴミを持って、出掛けてる支度を整える。まるで、『お前ここに住むの?』と聞きたくなるくらいの荷物を用意して天使は出掛ける。

 幼い頃から喧嘩ばかりで、仲の悪い幼馴染である、ルシアの元へ。

 これが天使のやってくるきっかけにして、今回のやらかしの1つ目だ。
 天使はどこか俺に似てる。やらかす辺りが特に。

 しかし、ヤツはポンコツ。俺は違う。そこが俺たちの完全な、明確な違いである。
 次は天使が来た日から始まる。
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