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好きを探す ③
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そして翌日。僕は先日と同じようにいつもより早い電車にで学校に向かい、朝一で男女に分かれている下駄箱にいき、黒川さんの下駄箱にラブレターを入れた。
これは僕なりのけじめというか、自分から黒川さんに伝えなくてはならないことがあったから行ったんだ。
姫川さんの時とは違ったドキドキと共に一日を過ごし、今回は指定した場所と時間に現れるだろう黒川さんを待った。
理解を得られたからか高木くんからは「が、頑張れ」と激励の言葉をもらい、誰からの反応もなかったのだが友人たちにも知らせた。
黒川さんは一日を通して姿を見せず、もちろん僕からも近づかなかったから、この日僕たちが顔を合わせたのは放課後になってから。
体育館の裏で初めて会話したのと同じくらいの時間だった。
前とシチュエーションで異なるのは体育館の裏ではなくいつもの場所(実習棟の屋上)に場所が変わり。
僕は黒川さんのことを少しは知り、黒川さんも僕を少しは知り、互いが次のステップを求めていることだ。
「一条くん。こんなものをわざわざ用意して、シチュエーションをきちんと整えて、女の子を呼び出してどうするつもりなのかな?」
僕はいつ黒川さんがきてもわかるようにとドアから正面の位置に立っていて、音も立てずにドアを開けた黒川さんにすぐに気がつくことができた。
せっかく整えたシチュエーションで黒川さんに先に動かれては台無しだし、座って待っていられるほどの余裕もないし、一秒だって早く済ませてしまいたくて僕はそうしたのだろう。
「時間通りに現れたってことは、そのさ。ら、ラブレターは読んでくれたんだよね?」
「うん、名前のところだけかえたら誰にだって出せるビジネスラブレターは全部読んだよ。あーしに向けて書かれたやつをね。 ……これ、昨日帰ってから書いたの?」
「朝までかかったよ……。おかげで腕の筋肉の使いすぎでノートはろくに書けないし、箸を持つのも無理だし、今日は散々だった。でも、同じものを用意したかったんだ。日時と場所を指定したから厳密には同じではないんだけど」
黒川さんにビジネス文書と評価された、姫川さんに出したはずのラブレターを僕は再び、今度はわずか一日で黒川さんのために用意した。
見本はあったから今回は正書するだけだったのだが、一晩では徹夜するしかなくて大変だった……。
だけど、このラブレターから始まったのだから必要で、僕にはこれしか書けないのだから内容も同じだ。
「あーしね。これまでのお付き合いは減点方式でやってきたんだ。持ち点は誰が相手でも十点から始まって、ゼロになると即終了ってふうにね。あーしの裁量でバンバン減点していくから誰も残らなかったの」
「何それ、すごくこわい。減点に怯えながらお付き合いってするの?」
「どうだろう。他の人のことはわからない。でね、これって相手から告白された場合にのみ適用されるんだ」
「……つまり、今回のようなケースだとどうなるの?」
システムとしてはありだと理解できても、自分にも適用されるとなると恐怖でしかない減点方式によるお付き合い。
しかし、黒川さんからお付き合いしたいと言った場合には適用されず。しかし、僕からラブレターを出したことにより適用条件も満たしてしまったという、「よ、余計なことしたかな」と一瞬考えてることになってしまった……。
「わかんない。あーしから付き合いたいなんて人は今までいなかったし。だけど今日になったらラブレターもらっちゃったし。この場合にも減点方式でやった方がいいのかは、わからない。だから考えた」
減点していくということは、きっと相手を好きではないからなんだと僕は思う。
その始まりでは悪いところを見つけるのは簡単でも、悪いところしか見えてないから減点は止まらない。
十点の持ち点はあっという間にゼロになるだろう。
僕は間違ってはいなくても、正しくはないやり方だと思う。
だから黒川さんのこのあとの言葉には驚きと、本来の彼女らしさを感じた。
好きとか嫌いとかが苦手な僕にしてもわかりやすかった。
「減点じゃなくて加点でやってみようかなって。これなら点がなくならないからいいかと思って。どう?」
「正直、減点方式は耐えられないと思うからありがたいです。でも、加点って何? どうするの?」
「好きを探すんだよ。ビジネスラブレターしか書けない一条はもちろん、減点しかしてこなかったあーしも。相手のいいところを探して、いいなぁって思ったら加点すんの」
「好きを探す……」
僕は人のいいところを見つけるのは得意だと言える。常々、どうして誰もそれをしないのかと思っているくらいだ。
黒川さんの言葉はこんなふうに考える僕にピタリとはまり、僕はやっぱり黒川さんと付き合うという選択は間違いではなかったと確信した。
「当然ながらビジネスラブレターに則ってもいくので、学生らしいお付き合いをするのが前提。エッチなことは基本的にNGになります。しかしそれも点数によっては認めていくことになるでしょう」
「うんうん」
「加えて、それでは面白くないのであーしからはいろいろと仕掛けていきたいと思います。これは引っかかるとバンバン減点されてしまうので、一条くんがいやらしいことをしたいなら点数を減らさずに加点を続ける努力をしてください」
「うんう……えっ、今なんか変なこと言わなかった?」
真面目なままで黒川さんが喋るもんだから頷いていたが、「面白くないので」とか「減点されてしまう」とか聞こえた気がした。
そしてそれに間違いはなかったらしく悪戯な(邪悪かもしれない)顔の黒川さんは、さっそく行動に出てきた。
「とりあえず一条にスキンシップへの苦手意識があるうちはいやらしいことはムリだと思うから、その辺りの耐性もつけていこうね。今日は彼女のために頑張ったその筋肉痛な腕を、優しく揉みほぐしてあげるよ」
「い、いや、遠慮するよ。そんなことより僕からも言うことがあるんだ。聞いてほしいなーー……」
「もう捕まえちゃったし、あとで聞くにゃん♪」
片腕の自由が二重に効かないのでは抵抗するのも難しく、黒川さんが満足するまでスキンシップをされ、僕は言うべきことも言えぬまま黒川さんにいじり倒された。
彼女と付き合うということはこれ(悪戯やからかい)とも付き合うということで、付き合うとなったら彼女はどんどん遠慮がなくなっていくのも当然で、その度にドキドキして大変だったりする。
これは僕なりのけじめというか、自分から黒川さんに伝えなくてはならないことがあったから行ったんだ。
姫川さんの時とは違ったドキドキと共に一日を過ごし、今回は指定した場所と時間に現れるだろう黒川さんを待った。
理解を得られたからか高木くんからは「が、頑張れ」と激励の言葉をもらい、誰からの反応もなかったのだが友人たちにも知らせた。
黒川さんは一日を通して姿を見せず、もちろん僕からも近づかなかったから、この日僕たちが顔を合わせたのは放課後になってから。
体育館の裏で初めて会話したのと同じくらいの時間だった。
前とシチュエーションで異なるのは体育館の裏ではなくいつもの場所(実習棟の屋上)に場所が変わり。
僕は黒川さんのことを少しは知り、黒川さんも僕を少しは知り、互いが次のステップを求めていることだ。
「一条くん。こんなものをわざわざ用意して、シチュエーションをきちんと整えて、女の子を呼び出してどうするつもりなのかな?」
僕はいつ黒川さんがきてもわかるようにとドアから正面の位置に立っていて、音も立てずにドアを開けた黒川さんにすぐに気がつくことができた。
せっかく整えたシチュエーションで黒川さんに先に動かれては台無しだし、座って待っていられるほどの余裕もないし、一秒だって早く済ませてしまいたくて僕はそうしたのだろう。
「時間通りに現れたってことは、そのさ。ら、ラブレターは読んでくれたんだよね?」
「うん、名前のところだけかえたら誰にだって出せるビジネスラブレターは全部読んだよ。あーしに向けて書かれたやつをね。 ……これ、昨日帰ってから書いたの?」
「朝までかかったよ……。おかげで腕の筋肉の使いすぎでノートはろくに書けないし、箸を持つのも無理だし、今日は散々だった。でも、同じものを用意したかったんだ。日時と場所を指定したから厳密には同じではないんだけど」
黒川さんにビジネス文書と評価された、姫川さんに出したはずのラブレターを僕は再び、今度はわずか一日で黒川さんのために用意した。
見本はあったから今回は正書するだけだったのだが、一晩では徹夜するしかなくて大変だった……。
だけど、このラブレターから始まったのだから必要で、僕にはこれしか書けないのだから内容も同じだ。
「あーしね。これまでのお付き合いは減点方式でやってきたんだ。持ち点は誰が相手でも十点から始まって、ゼロになると即終了ってふうにね。あーしの裁量でバンバン減点していくから誰も残らなかったの」
「何それ、すごくこわい。減点に怯えながらお付き合いってするの?」
「どうだろう。他の人のことはわからない。でね、これって相手から告白された場合にのみ適用されるんだ」
「……つまり、今回のようなケースだとどうなるの?」
システムとしてはありだと理解できても、自分にも適用されるとなると恐怖でしかない減点方式によるお付き合い。
しかし、黒川さんからお付き合いしたいと言った場合には適用されず。しかし、僕からラブレターを出したことにより適用条件も満たしてしまったという、「よ、余計なことしたかな」と一瞬考えてることになってしまった……。
「わかんない。あーしから付き合いたいなんて人は今までいなかったし。だけど今日になったらラブレターもらっちゃったし。この場合にも減点方式でやった方がいいのかは、わからない。だから考えた」
減点していくということは、きっと相手を好きではないからなんだと僕は思う。
その始まりでは悪いところを見つけるのは簡単でも、悪いところしか見えてないから減点は止まらない。
十点の持ち点はあっという間にゼロになるだろう。
僕は間違ってはいなくても、正しくはないやり方だと思う。
だから黒川さんのこのあとの言葉には驚きと、本来の彼女らしさを感じた。
好きとか嫌いとかが苦手な僕にしてもわかりやすかった。
「減点じゃなくて加点でやってみようかなって。これなら点がなくならないからいいかと思って。どう?」
「正直、減点方式は耐えられないと思うからありがたいです。でも、加点って何? どうするの?」
「好きを探すんだよ。ビジネスラブレターしか書けない一条はもちろん、減点しかしてこなかったあーしも。相手のいいところを探して、いいなぁって思ったら加点すんの」
「好きを探す……」
僕は人のいいところを見つけるのは得意だと言える。常々、どうして誰もそれをしないのかと思っているくらいだ。
黒川さんの言葉はこんなふうに考える僕にピタリとはまり、僕はやっぱり黒川さんと付き合うという選択は間違いではなかったと確信した。
「当然ながらビジネスラブレターに則ってもいくので、学生らしいお付き合いをするのが前提。エッチなことは基本的にNGになります。しかしそれも点数によっては認めていくことになるでしょう」
「うんうん」
「加えて、それでは面白くないのであーしからはいろいろと仕掛けていきたいと思います。これは引っかかるとバンバン減点されてしまうので、一条くんがいやらしいことをしたいなら点数を減らさずに加点を続ける努力をしてください」
「うんう……えっ、今なんか変なこと言わなかった?」
真面目なままで黒川さんが喋るもんだから頷いていたが、「面白くないので」とか「減点されてしまう」とか聞こえた気がした。
そしてそれに間違いはなかったらしく悪戯な(邪悪かもしれない)顔の黒川さんは、さっそく行動に出てきた。
「とりあえず一条にスキンシップへの苦手意識があるうちはいやらしいことはムリだと思うから、その辺りの耐性もつけていこうね。今日は彼女のために頑張ったその筋肉痛な腕を、優しく揉みほぐしてあげるよ」
「い、いや、遠慮するよ。そんなことより僕からも言うことがあるんだ。聞いてほしいなーー……」
「もう捕まえちゃったし、あとで聞くにゃん♪」
片腕の自由が二重に効かないのでは抵抗するのも難しく、黒川さんが満足するまでスキンシップをされ、僕は言うべきことも言えぬまま黒川さんにいじり倒された。
彼女と付き合うということはこれ(悪戯やからかい)とも付き合うということで、付き合うとなったら彼女はどんどん遠慮がなくなっていくのも当然で、その度にドキドキして大変だったりする。
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