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きっかけ ⑦
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僕が悲鳴も音も演技だったのだと気がつき、「やられた……」と思った時にはもう遅かった。
逃げられないようにするためだろう首に手を回され、前日と同じくらいの距離まで黒川さんの顔が近づく。
「──ダメだよ。お弁当箱を忘れちゃ」
倒れているし触れられている分、前日よりさらに密着感があり、さらに際どい体勢になっていただろう……。
「は、離して。離れてください!」
「逃げるからダメ!」
「……逃げないので離して」
「ダーメ。でも、質問に答えてくれたら離しましょう。あーしの何がダメなのかな?」
自分にダメなところがあるから僕が逃げるのだと黒川さんは思っていたようで、ダメなところを言ってくれと繰り返し求められた。
しかし、昨日初めて会って話した黒川さんのダメなところなんて見つかるわけがないのだが、何かは言わないと黒川さんは納得しなかったろうし、離れてもらわないと心臓が破裂しそうだったので僕は考えた。
(──彼女が言っていたから姫川さんと比較すると。身長は姫川さんの方が高いが別に問題ない。黒川さんは金髪だけど別に個人の自由だし、僕にこだわりがあるわけでもないし問題ない。制服をゆるく着ているのも目のやり場に困るが自覚しているらしいから特に気にしない。こんなふうに真っ直ぐ気持ちをぶつけてくるのは困るが、別にダメでも嫌でもない?)
頭をフル回転させて考えたけど、やはり何も見つからなかった。こんなふうに積極的すぎるのに問題がある気がするだけで……。
でも女の子が積極的に行動するのがダメな理由もあるわけなくて、ダメなところは特にないと僕は結論を出した。
「ダメなところは特にないです」
「……なら、なんで逃げるの?」
「いや、こんなふうにされたらドキドキして逃げたくなるでしょ!? 昨日だって顔とか近すぎだから!」
「えっ、あー、そういうこと。なになに意外と女の子に耐性ないの?」
一瞬きょとんとした顔をした黒川さんは一人で納得すると、すぐに黒川さんらしさ(からかい)を発揮する。
あろうことが黒川さんは僕の首に回した手を離すのではなく、力を入れて引っ張り僕との上下を逆転させにきた。
そして、少し緩んだ彼女の手に油断し力を抜いていた僕は簡単に上と下を逆転されてしまった……。
「──な、なにするの!?」
「約束通り手を離してあげたんだよ?」
「じゃ、じゃあ今度はどいてください。お願いします」
「嫌です。スキンシップが足りないだけだった一条くんに、ちょーっとお仕置きというかサービスというのかをしようかなぁと思います」
目のやり場に困るどころかお腹のあたりに馬乗りされ、抵抗しようにも女の子のどこにどう触れていいのかもわからず、かといってされるがままではいけないと思った(思っただけ)。
つまり何もできなかったのだ。
これが黒川さんの計算高さと、したたかさにしてやられた結果である。
「あのまま無視することもできたのにちゃんと戻ってきてくれたってことは、まるっきり脈なしというわけでもないんだよね」
「そ、それは自分のせいかもって思って!」
「本当にそれだけー、本当は別な気持ちもあるからじゃないのー」
黒川さんは少しだろうと、わずかだろうと自分に僕の気持ちが向いているのを見透かしていて。
それをわかった上で僕に悪戯な笑みを浮かべていて。
ここで黒川さんは自分が望む返事が僕から出るまで、やめるつもりはなかったのだと思う。
「──おい、今度はどういうこった! 一条、何があったら、なっ、何してんだ。オマエら……」
勢いよく屋上へのドアが開閉する音がしたと思ったら、すぐに陰になっているこの場所に友人Cが顔を出した。
最初は勢いがよかった友人Cは押し倒されている僕と目が合い、次に僕に覆いかぶさる格好の黒川さんを視界に収めて徐々に勢いをなくしていった。
「もう少しだったのに……」
黒川さんは友人Cの方を振り返らず、おそらく僕にしか聞こえなかったくらいの音量でそう言った。
この時、黒川さんの眉はわずかに釣り上がっていて、友人Cの乱入に内心はイラッとしたのだろう。
「い、一条?」
「あーーっ。あーし、次の授業は移動教室だった。もういかなきゃ! またね」
黒川さんはわざとらしく大声でそう言うとその場ですっと立ち上がり、僕にだけ不吉でしかない言葉を残して去っていった。
僕は今のに次があるのかと心底怯え、さらにはバッチリ見えてしまった黒い布のことでさらに心音を跳ね上げ、とてもではないが次は耐えられないと思った。
「おい、一条。大丈夫か!」
「……ありがとう。ありがとう」
「おい、それは何に対する礼だ。オレにか、それとも黒川のスカートの中身にか!」
僕は友人Cに助けられたわけだけど、お前は何を言ってるんだと言いたかった。
黒川さんにもスカートは押さえて立ち上がってくれと言いたかった。
当然だが光景はこの後しばらく脳裏から消えなかった……。
そして、今思えばこの時だったのだと思う。
この時に友人Cがタイミングよく現れたのはおそらくだけど、僕が前日に黒川さんに呼び出されたことを友人Dから聞いた直後だ。
から返事だった僕を心配した友人Dは、昼休みに他の友人たちに前日の話をして。
その結果、適切な人材として現れたのが友人Cだったのだろう。
黒川さんに遭遇した場合にも対応できるだろう友人Cが現れる確率が高いように、僕に何があったのかを学校内で話していれば誰かにそれを聞かれてしまう確率も低くない。
この次の日だ。僕が「姫川さんに告白した」と、どこかから噂が出たのは……。
逃げられないようにするためだろう首に手を回され、前日と同じくらいの距離まで黒川さんの顔が近づく。
「──ダメだよ。お弁当箱を忘れちゃ」
倒れているし触れられている分、前日よりさらに密着感があり、さらに際どい体勢になっていただろう……。
「は、離して。離れてください!」
「逃げるからダメ!」
「……逃げないので離して」
「ダーメ。でも、質問に答えてくれたら離しましょう。あーしの何がダメなのかな?」
自分にダメなところがあるから僕が逃げるのだと黒川さんは思っていたようで、ダメなところを言ってくれと繰り返し求められた。
しかし、昨日初めて会って話した黒川さんのダメなところなんて見つかるわけがないのだが、何かは言わないと黒川さんは納得しなかったろうし、離れてもらわないと心臓が破裂しそうだったので僕は考えた。
(──彼女が言っていたから姫川さんと比較すると。身長は姫川さんの方が高いが別に問題ない。黒川さんは金髪だけど別に個人の自由だし、僕にこだわりがあるわけでもないし問題ない。制服をゆるく着ているのも目のやり場に困るが自覚しているらしいから特に気にしない。こんなふうに真っ直ぐ気持ちをぶつけてくるのは困るが、別にダメでも嫌でもない?)
頭をフル回転させて考えたけど、やはり何も見つからなかった。こんなふうに積極的すぎるのに問題がある気がするだけで……。
でも女の子が積極的に行動するのがダメな理由もあるわけなくて、ダメなところは特にないと僕は結論を出した。
「ダメなところは特にないです」
「……なら、なんで逃げるの?」
「いや、こんなふうにされたらドキドキして逃げたくなるでしょ!? 昨日だって顔とか近すぎだから!」
「えっ、あー、そういうこと。なになに意外と女の子に耐性ないの?」
一瞬きょとんとした顔をした黒川さんは一人で納得すると、すぐに黒川さんらしさ(からかい)を発揮する。
あろうことが黒川さんは僕の首に回した手を離すのではなく、力を入れて引っ張り僕との上下を逆転させにきた。
そして、少し緩んだ彼女の手に油断し力を抜いていた僕は簡単に上と下を逆転されてしまった……。
「──な、なにするの!?」
「約束通り手を離してあげたんだよ?」
「じゃ、じゃあ今度はどいてください。お願いします」
「嫌です。スキンシップが足りないだけだった一条くんに、ちょーっとお仕置きというかサービスというのかをしようかなぁと思います」
目のやり場に困るどころかお腹のあたりに馬乗りされ、抵抗しようにも女の子のどこにどう触れていいのかもわからず、かといってされるがままではいけないと思った(思っただけ)。
つまり何もできなかったのだ。
これが黒川さんの計算高さと、したたかさにしてやられた結果である。
「あのまま無視することもできたのにちゃんと戻ってきてくれたってことは、まるっきり脈なしというわけでもないんだよね」
「そ、それは自分のせいかもって思って!」
「本当にそれだけー、本当は別な気持ちもあるからじゃないのー」
黒川さんは少しだろうと、わずかだろうと自分に僕の気持ちが向いているのを見透かしていて。
それをわかった上で僕に悪戯な笑みを浮かべていて。
ここで黒川さんは自分が望む返事が僕から出るまで、やめるつもりはなかったのだと思う。
「──おい、今度はどういうこった! 一条、何があったら、なっ、何してんだ。オマエら……」
勢いよく屋上へのドアが開閉する音がしたと思ったら、すぐに陰になっているこの場所に友人Cが顔を出した。
最初は勢いがよかった友人Cは押し倒されている僕と目が合い、次に僕に覆いかぶさる格好の黒川さんを視界に収めて徐々に勢いをなくしていった。
「もう少しだったのに……」
黒川さんは友人Cの方を振り返らず、おそらく僕にしか聞こえなかったくらいの音量でそう言った。
この時、黒川さんの眉はわずかに釣り上がっていて、友人Cの乱入に内心はイラッとしたのだろう。
「い、一条?」
「あーーっ。あーし、次の授業は移動教室だった。もういかなきゃ! またね」
黒川さんはわざとらしく大声でそう言うとその場ですっと立ち上がり、僕にだけ不吉でしかない言葉を残して去っていった。
僕は今のに次があるのかと心底怯え、さらにはバッチリ見えてしまった黒い布のことでさらに心音を跳ね上げ、とてもではないが次は耐えられないと思った。
「おい、一条。大丈夫か!」
「……ありがとう。ありがとう」
「おい、それは何に対する礼だ。オレにか、それとも黒川のスカートの中身にか!」
僕は友人Cに助けられたわけだけど、お前は何を言ってるんだと言いたかった。
黒川さんにもスカートは押さえて立ち上がってくれと言いたかった。
当然だが光景はこの後しばらく脳裏から消えなかった……。
そして、今思えばこの時だったのだと思う。
この時に友人Cがタイミングよく現れたのはおそらくだけど、僕が前日に黒川さんに呼び出されたことを友人Dから聞いた直後だ。
から返事だった僕を心配した友人Dは、昼休みに他の友人たちに前日の話をして。
その結果、適切な人材として現れたのが友人Cだったのだろう。
黒川さんに遭遇した場合にも対応できるだろう友人Cが現れる確率が高いように、僕に何があったのかを学校内で話していれば誰かにそれを聞かれてしまう確率も低くない。
この次の日だ。僕が「姫川さんに告白した」と、どこかから噂が出たのは……。
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