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花火大会 ②
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「じゃあ、ちょっとだけ……(ゴクリ)」
僕に自分から、それも「触る」としっかり意識して女の子の肌に触れるなんて経験はなく。まして触れる先が胸元となれば指先が震えるのも致し方ない。
しかし彼女からの許しがあって(重要)。僕には彼氏として彼女の言うことの真偽を確かめなくてはならないという義務があるのだ(重要)。
だから、これは僕がやるしかないことなのだ(重要)。
「一条くん。こ、ん、ば、ん、は」
「うわぁ!? ひ、姫川さん。なんでこんなところに!?」
もう周りには誰もいないと思ったら薄暗い方から声がして、こんなところにいるわけがない人物が目の前に現れた。
彼女。姫川さんは僕より高い身長で黒髪のロング。そこに彼女の大人びた雰囲気も合わさって、普段から同い年には思えないのだが、今日は浴衣を着ているからか余計にそう見える。
いや、そうじゃない! 彼女がどうしてここにいるのかだし、今の黒川さんとのを見られていたのかだろ!
「私は、黒川さんのアリバイ作りに協力させられたのよ。私は彼女と一緒に花火を見に行く友達の役よ」
「へー……」
「一条くん、手!」
「は、はいっ!」
白い目でこちらを見ていた姫川さんは胸元をまさぐろうと手を伸ばしたままだった僕を注意し、慌てて手を引っ込めたのを見るや間に割って入り、僕と黒川さんとの距離を遠のける。
そんな姫川さんの行動に対して黒川さんは、「ちっ」と漏らしたが姫川さんはそれを特に気にしたふうがない。
むしろ黒川さんを白い目どころか思いっきり睨みつけている。
「貴女も少しはわきまえたらどうかしら」
「今いいとこだったのに」
「そんなだからビッチなんて言われるのよ」
「はいはい。そうですねー」
姫川さんは周りに自分を知っている人がいないからだろう。はっきりと言うし、遠慮も一切ないし、何より冷ややかな態度を隠そうとしない。
つまりものすごく美人で、性格も良くて、非の打ち所がない優等生という、学校での皮をかぶっていないということだ。
今日の姫川さんはありのままの、僕がちょっとこわいと感じる素の姫川さんだ。
あれに平気でいられるのは黒川さんくらいだろう。
……そして、僕はこの姫川さんに告白だなんて無茶をするところだったなんて、未然に失敗してよかったと思うしかない。
きっとあっさりフラれるどころでは済まなかったし、万が一付き合うことになっていたとしても、間違いなく僕には姫川さんは荷が重すぎだ。
まぁ、黒川さんも黒川さんで困ったところはいろいろあるんだけどね……。
「──まったく。何をするのかと離れて見ていればしょうもない。一条くんもよ。浴衣の下には普通に下着をつけているわ。透けない肌の色に近いやつね。彼女は薄いピンクかしら?」
「ピンク。黒とか派手な色じゃなくて今日はピンク……」
「下着の話はもういいから! 一条くん、貴方は少し黒川さんに毒されすぎじゃない。学生らしいお付き合いはどうしたのよ」
「そうでした」
姫川さんに言われて自分のあるべき姿を思い出した。二人きりだからと浮かれすぎだったと。
僕たちは確かに彼氏彼女だが、そこには「学生らしい付き合い」と前に付いて、彼女の浴衣の下もとい下着の色を確かめるなんてダメだ。
そんなこと絶対に許されないぞ!
うっかり黒川さんに乗せられようものなら、僕たちの彼氏彼女はそこで終了になってしまうかもしれないのだ。
黒川さんだってそれはわかっているはずなのに、彼女は僕を試す(からかう)のを一向にやめる気配がない!
「あーあ、美咲ちゃんは何で言っちゃうかな。せっかくのからかいネタだったのにー」
「貴女たち付き合ってるんでしょう。そういうことは二人の時にしなさいよ」
「一条とはそういうんじゃないんだよねー。美咲ちゃんは知らないだろうけど、あーしからしか触ってないんだよ」
「へぇ、私は貴女のことだからてっきりヤルことヤってるんだと思ってたわ」
「残念ながらそんなことを許すほど、あーしはまだ一条のことを信用してないにゃん♪」
やっぱり僕がからかわれていただけなのはよかったけど。いや、本当はあんまりよくはないけど。全然よくはないんだけど……。
それより何か重要なことを忘れている気がする。姫川さんが何か……。
姫川さんの着ている藍色の浴衣はモデルみたいな彼女にとてもよく似合っていて、今日はいつも以上に大人っぽく見える。
これでは世の男たちが放っておくわけがないと言われるのもよくわかる、じゃなくて! 姫川さんが何でこんな田舎の花火大会にきているのかだろ!
「──って、待って。花火大会を一緒に見に行く友達の役って、今日は姫川さんも一緒にってこと。僕それも聞いてないけど!?」
「そうね、私も嫌々だけどね。でも、二十時からの花火じゃ二十一時の電車には間に合わない。二十二時の電車で帰ったら向こうに着くのは二十三時過ぎよ。普通に考えて一人でなんて許可されるわけないじゃない。帰り道が一緒の友達は必須よ」
「だから僕が彼女を送り迎えすると、」
「送り狼って言葉もあるし無害そうな一条くんでもダメよ。それにそれ、貴方の帰りの電車なんてないわよ。帰り道はここまで歩くの?」
黒川さんたちはここから六駅ほど先に住んでいて、僕たちは学校が同じでなければ知り合いですらないだろう距離がある。
そんな離れたところに行くには一度乗り換えがあり、向こうに行くまでは電車で一時間くらいはかかる。
仮に僕が二十二時の電車に乗って送って行くことはできても、姫川さんの言うように帰りのここまでの電車はない。
ここからの下りの電車は二十二時のが最終だし……。
僕は浅はかだったというか、花火を見にいくという実に彼氏彼女らしい行為に浮かれていて、そんなことにも気づいてなかった。
自分の帰り道のことなんてまったく頭になかった。
「僕は門限とかはないですが黒川さんのことをまだ家族に言えてなくて、花火大会に行ったはすが戻る方法がない最終電車に乗る理由も思いつきません。ですから今日は近所の姫川さんに帰りをお願いします。そして今日もよろしくお願いします」
「はい、任されました。それと二人の邪魔はしないから。私は別に一人でいいから」
「いや、そんなわけにはいかないよ。変なのいるかもしれないし、姫川さんナンパとかすごそうだし」
学校一のモテ女 (らしい)な姫川さんを一人にしておけるわけがない。
今日が勝手に二人きりだと思っていたのは僕であり、勝手に残念な気持ちでいっぱいになっているが、それで彼女の友達を一人にはできない。
姫川さんに何かあってからでは遅いのだ。
きちんと二人が帰りの電車に乗るところまで見届けないといけないし、もちろん花火大会も楽しんでもらわないといけない。エスコートは男の義務だと先日言われたばかりだし。
「じゃあ、最終の電車までに駅に集合ってことで」
「美咲ちゃん。一人でどこいくにゃん♪」
「あ、貴女たちの邪魔はしないから。私のことは放っておいて!」
「そんなわけにはいかないから彼を呼んでおいたんだよ。ずっと美咲ちゃんは視界に入れないでいたし、一条もまーーったく気づいてないけどね♪」
黒川さんは一人で歩いていこうとする姫川さんを素早く捕まえ、反対の手で僕を捕まえ、僕たちをタクシー乗り場の方に引っ張っていく。
いたはずのタクシーは一台もいないが、タクシー乗り場の近くにあるベンチに、街灯の光が届かないその位置に誰かいる?
「えっ、高木くん? どうして……」
「今日はねー、実はダブルデートだったのだ。そんなわけで美咲ちゃんのお相手の高木くんです。はいこれ」
黒川さんは高木くんの方に姫川さんを差し出すようにするが、黒川さんの手が離れた瞬間に姫川さんは逃走を図る。
しかし、逃げたと見るや黒川さんが追いかけて捕まえ、嫌がる姫川さんを引っ張って戻ってくる。
あっ、また逃げてまた追いかけた。なんだこれ……。
「一条、久しぶり……ってほどでもないか。先週まで学校で顔を合わせてたわけだしな。今日はよろしく」
「それはいいんだけど、その、高木くんは大丈夫なの?」
「一回振られたくらいじゃ諦められないんだ」
……やっぱりそうなんだ。高木くんが姫川さんに振られたらしいという話は本当だった。
どちらからも直接詳細を聞いたわけではなかったけど、今の高木くんの反応は噂が本当だったということだ。
もしも高木くんが姫川さんに彼氏がいると知っていたらなんて今さら思っても遅く、それを伝えなかったのは僕の判断なんだから今さら言えるわけもない。
黒川さんはなるようしかならないと言ったけど、なるようになっても高木くんは諦められないんだ。
一回振られたくらじゃ諦められないか……。
しかし、僕に姫川さんに大学生の彼氏がいると言ったのは黒川さんで、黒川さんなら高木くんと姫川さんのことも当然知っていたはずなのに、それなのに今日のダブルデートってどういうことなんだろう?
僕に自分から、それも「触る」としっかり意識して女の子の肌に触れるなんて経験はなく。まして触れる先が胸元となれば指先が震えるのも致し方ない。
しかし彼女からの許しがあって(重要)。僕には彼氏として彼女の言うことの真偽を確かめなくてはならないという義務があるのだ(重要)。
だから、これは僕がやるしかないことなのだ(重要)。
「一条くん。こ、ん、ば、ん、は」
「うわぁ!? ひ、姫川さん。なんでこんなところに!?」
もう周りには誰もいないと思ったら薄暗い方から声がして、こんなところにいるわけがない人物が目の前に現れた。
彼女。姫川さんは僕より高い身長で黒髪のロング。そこに彼女の大人びた雰囲気も合わさって、普段から同い年には思えないのだが、今日は浴衣を着ているからか余計にそう見える。
いや、そうじゃない! 彼女がどうしてここにいるのかだし、今の黒川さんとのを見られていたのかだろ!
「私は、黒川さんのアリバイ作りに協力させられたのよ。私は彼女と一緒に花火を見に行く友達の役よ」
「へー……」
「一条くん、手!」
「は、はいっ!」
白い目でこちらを見ていた姫川さんは胸元をまさぐろうと手を伸ばしたままだった僕を注意し、慌てて手を引っ込めたのを見るや間に割って入り、僕と黒川さんとの距離を遠のける。
そんな姫川さんの行動に対して黒川さんは、「ちっ」と漏らしたが姫川さんはそれを特に気にしたふうがない。
むしろ黒川さんを白い目どころか思いっきり睨みつけている。
「貴女も少しはわきまえたらどうかしら」
「今いいとこだったのに」
「そんなだからビッチなんて言われるのよ」
「はいはい。そうですねー」
姫川さんは周りに自分を知っている人がいないからだろう。はっきりと言うし、遠慮も一切ないし、何より冷ややかな態度を隠そうとしない。
つまりものすごく美人で、性格も良くて、非の打ち所がない優等生という、学校での皮をかぶっていないということだ。
今日の姫川さんはありのままの、僕がちょっとこわいと感じる素の姫川さんだ。
あれに平気でいられるのは黒川さんくらいだろう。
……そして、僕はこの姫川さんに告白だなんて無茶をするところだったなんて、未然に失敗してよかったと思うしかない。
きっとあっさりフラれるどころでは済まなかったし、万が一付き合うことになっていたとしても、間違いなく僕には姫川さんは荷が重すぎだ。
まぁ、黒川さんも黒川さんで困ったところはいろいろあるんだけどね……。
「──まったく。何をするのかと離れて見ていればしょうもない。一条くんもよ。浴衣の下には普通に下着をつけているわ。透けない肌の色に近いやつね。彼女は薄いピンクかしら?」
「ピンク。黒とか派手な色じゃなくて今日はピンク……」
「下着の話はもういいから! 一条くん、貴方は少し黒川さんに毒されすぎじゃない。学生らしいお付き合いはどうしたのよ」
「そうでした」
姫川さんに言われて自分のあるべき姿を思い出した。二人きりだからと浮かれすぎだったと。
僕たちは確かに彼氏彼女だが、そこには「学生らしい付き合い」と前に付いて、彼女の浴衣の下もとい下着の色を確かめるなんてダメだ。
そんなこと絶対に許されないぞ!
うっかり黒川さんに乗せられようものなら、僕たちの彼氏彼女はそこで終了になってしまうかもしれないのだ。
黒川さんだってそれはわかっているはずなのに、彼女は僕を試す(からかう)のを一向にやめる気配がない!
「あーあ、美咲ちゃんは何で言っちゃうかな。せっかくのからかいネタだったのにー」
「貴女たち付き合ってるんでしょう。そういうことは二人の時にしなさいよ」
「一条とはそういうんじゃないんだよねー。美咲ちゃんは知らないだろうけど、あーしからしか触ってないんだよ」
「へぇ、私は貴女のことだからてっきりヤルことヤってるんだと思ってたわ」
「残念ながらそんなことを許すほど、あーしはまだ一条のことを信用してないにゃん♪」
やっぱり僕がからかわれていただけなのはよかったけど。いや、本当はあんまりよくはないけど。全然よくはないんだけど……。
それより何か重要なことを忘れている気がする。姫川さんが何か……。
姫川さんの着ている藍色の浴衣はモデルみたいな彼女にとてもよく似合っていて、今日はいつも以上に大人っぽく見える。
これでは世の男たちが放っておくわけがないと言われるのもよくわかる、じゃなくて! 姫川さんが何でこんな田舎の花火大会にきているのかだろ!
「──って、待って。花火大会を一緒に見に行く友達の役って、今日は姫川さんも一緒にってこと。僕それも聞いてないけど!?」
「そうね、私も嫌々だけどね。でも、二十時からの花火じゃ二十一時の電車には間に合わない。二十二時の電車で帰ったら向こうに着くのは二十三時過ぎよ。普通に考えて一人でなんて許可されるわけないじゃない。帰り道が一緒の友達は必須よ」
「だから僕が彼女を送り迎えすると、」
「送り狼って言葉もあるし無害そうな一条くんでもダメよ。それにそれ、貴方の帰りの電車なんてないわよ。帰り道はここまで歩くの?」
黒川さんたちはここから六駅ほど先に住んでいて、僕たちは学校が同じでなければ知り合いですらないだろう距離がある。
そんな離れたところに行くには一度乗り換えがあり、向こうに行くまでは電車で一時間くらいはかかる。
仮に僕が二十二時の電車に乗って送って行くことはできても、姫川さんの言うように帰りのここまでの電車はない。
ここからの下りの電車は二十二時のが最終だし……。
僕は浅はかだったというか、花火を見にいくという実に彼氏彼女らしい行為に浮かれていて、そんなことにも気づいてなかった。
自分の帰り道のことなんてまったく頭になかった。
「僕は門限とかはないですが黒川さんのことをまだ家族に言えてなくて、花火大会に行ったはすが戻る方法がない最終電車に乗る理由も思いつきません。ですから今日は近所の姫川さんに帰りをお願いします。そして今日もよろしくお願いします」
「はい、任されました。それと二人の邪魔はしないから。私は別に一人でいいから」
「いや、そんなわけにはいかないよ。変なのいるかもしれないし、姫川さんナンパとかすごそうだし」
学校一のモテ女 (らしい)な姫川さんを一人にしておけるわけがない。
今日が勝手に二人きりだと思っていたのは僕であり、勝手に残念な気持ちでいっぱいになっているが、それで彼女の友達を一人にはできない。
姫川さんに何かあってからでは遅いのだ。
きちんと二人が帰りの電車に乗るところまで見届けないといけないし、もちろん花火大会も楽しんでもらわないといけない。エスコートは男の義務だと先日言われたばかりだし。
「じゃあ、最終の電車までに駅に集合ってことで」
「美咲ちゃん。一人でどこいくにゃん♪」
「あ、貴女たちの邪魔はしないから。私のことは放っておいて!」
「そんなわけにはいかないから彼を呼んでおいたんだよ。ずっと美咲ちゃんは視界に入れないでいたし、一条もまーーったく気づいてないけどね♪」
黒川さんは一人で歩いていこうとする姫川さんを素早く捕まえ、反対の手で僕を捕まえ、僕たちをタクシー乗り場の方に引っ張っていく。
いたはずのタクシーは一台もいないが、タクシー乗り場の近くにあるベンチに、街灯の光が届かないその位置に誰かいる?
「えっ、高木くん? どうして……」
「今日はねー、実はダブルデートだったのだ。そんなわけで美咲ちゃんのお相手の高木くんです。はいこれ」
黒川さんは高木くんの方に姫川さんを差し出すようにするが、黒川さんの手が離れた瞬間に姫川さんは逃走を図る。
しかし、逃げたと見るや黒川さんが追いかけて捕まえ、嫌がる姫川さんを引っ張って戻ってくる。
あっ、また逃げてまた追いかけた。なんだこれ……。
「一条、久しぶり……ってほどでもないか。先週まで学校で顔を合わせてたわけだしな。今日はよろしく」
「それはいいんだけど、その、高木くんは大丈夫なの?」
「一回振られたくらいじゃ諦められないんだ」
……やっぱりそうなんだ。高木くんが姫川さんに振られたらしいという話は本当だった。
どちらからも直接詳細を聞いたわけではなかったけど、今の高木くんの反応は噂が本当だったということだ。
もしも高木くんが姫川さんに彼氏がいると知っていたらなんて今さら思っても遅く、それを伝えなかったのは僕の判断なんだから今さら言えるわけもない。
黒川さんはなるようしかならないと言ったけど、なるようになっても高木くんは諦められないんだ。
一回振られたくらじゃ諦められないか……。
しかし、僕に姫川さんに大学生の彼氏がいると言ったのは黒川さんで、黒川さんなら高木くんと姫川さんのことも当然知っていたはずなのに、それなのに今日のダブルデートってどういうことなんだろう?
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