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思えば全てがおかしかった……。
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私からたっくんが亡くなった日にすれ違ったと聞いた校長先生は、しばらく何かを考えるように黙り。私にいくつか質問したあと青い顔をして、「今喋ったことは他の誰にも何も言うな」と真面目な顔で言い。私はそれを守る事が自分にできる事だとずっと思ってきました。
ですからこの話の全てを知っているのは、たっくんとすれ違った時に一緒だった俊子と舞。この時に一緒だった環奈と校長先生の四人だけです。
そして私と環奈と舞は校長先生に口止めされましたので誰にも、この場にいなかった俊子は私と同じでしょうから誰にも話していないと思います。
しかし、何かしらの形で吐き出さなければ本当に一生消えないとも思うのです。
ここで吐き出すことで何かが変わるのか変わらないのかはわかりませんが、誰にも話した事がないあの日の出来事。その全てを話します……。
「美嘉。大丈夫?」
「……大丈夫。少し落ち着いた」
「そう。舞は大丈夫?」
「……うん」
私と舞は校長先生の話がショックで動けずにいたのですが、先生は時間があるからと葬儀場に戻っていってしまい、巻き込まれた形の環奈が私の話を聞き声をかけ続けてくれました。
茶化すこともなくそうしてくれた環奈には感謝しかありません。
舞なんて校長先生と同じくらい青い顔をしていて、一言も発せずにいたんですから本当に助けられました。
「環奈。でもね。やっぱりさ。たっくん黄色のレインコートに長靴。傘も持ってた。雨も降ってないんだから私はおかしいって思うべきだったよね」
「もうやめなって。わからなかったんでしょ。仕方ないって……」
「でも、私が一声かけていたら、たっくんは電車に撥ねられなかったかもしれないんだよ!?」
あの日。たっくんは格好は黄色のレインコートに長靴。手には傘を持っていました。
たっくんがそんな格好だったからこそ私は目が向き、だけど「変な子……」以上のことを思うことができなかったのです。
もし声をかけていたらと私は繰り返し思いました。
「美嘉、やめなって!」
「……ごめん。言うなって言われたのに……」
「そうだけど、そうじゃなくて……。とにかくやめよ。せめてみんな落ち着いついてから、舞?」
舞は突然。私の手を掴むとその場を急ぎ足で離れ、近くの空き地になっているところまで引っ張っていき、そこでようやくこちらを見て私に言いました。
「ねぇ、たっくんとすれ違ったのって環奈の家に行く途中。トンネルの前だったんだよね?」と……。
私は舞の様子が何かおかしいと思いながらもそうだと言い、それを聞いた舞は小さく震えながら次の言葉を発します。
舞は私とは違う恐怖の中にいたんだと私はここで始めて知りました。あの日の舞の反応の理由もです。
「私さ、あの時ね。なんでたっくんの名前が出たのかわからなかった。だって誰ともすれ違わなかったんだから」
私は舞の言っていることの意味がわかりませんでした。
私が服装はおろか顔さえはっきりと見たたっくんを、隣にいた舞は見ていないと言い出したのですから……。
「美嘉が言った服装に校長先生が驚いてるのを聞いて血の気が引いた。誰ともすれ違ってないのにって」
「な、何言ってんの……?」
「それにたっくんは四丁目で私と同じ地区だから。集団下校の時に一緒だったし家も知ってる。私がたっくんをわからないなんてことがないんだ!」
確かに舞は四丁目に住んでいて、私と俊子は隣の三丁目でした。
私は小学校で時折あった集団下校の時に三丁目と四丁目は隣同士に並んで、舞のいた三丁目の班登校のグループの中にたっくんがいたことを思い出しました。
同時に舞が言っていることは本当で、なら私が見たのはなんだったのか?と、わからないことが次々と積み重なっていきました。
「……じゃあなんだっていうの?」
私はたっくんを確かに見ましたし、声をかけなかったことを後悔しています。ですが舞は嘘を言う子ではないですし、校長先生の言葉も本当だったはずです。
私は本当にたっくんに声をかけるべきだったのでしょうか?
もし私と俊子にだけしかたっくんの姿が見えていなかったとしたら、声をかけるという行動は本当に正しかったのでしょうか……。
ですからこの話の全てを知っているのは、たっくんとすれ違った時に一緒だった俊子と舞。この時に一緒だった環奈と校長先生の四人だけです。
そして私と環奈と舞は校長先生に口止めされましたので誰にも、この場にいなかった俊子は私と同じでしょうから誰にも話していないと思います。
しかし、何かしらの形で吐き出さなければ本当に一生消えないとも思うのです。
ここで吐き出すことで何かが変わるのか変わらないのかはわかりませんが、誰にも話した事がないあの日の出来事。その全てを話します……。
「美嘉。大丈夫?」
「……大丈夫。少し落ち着いた」
「そう。舞は大丈夫?」
「……うん」
私と舞は校長先生の話がショックで動けずにいたのですが、先生は時間があるからと葬儀場に戻っていってしまい、巻き込まれた形の環奈が私の話を聞き声をかけ続けてくれました。
茶化すこともなくそうしてくれた環奈には感謝しかありません。
舞なんて校長先生と同じくらい青い顔をしていて、一言も発せずにいたんですから本当に助けられました。
「環奈。でもね。やっぱりさ。たっくん黄色のレインコートに長靴。傘も持ってた。雨も降ってないんだから私はおかしいって思うべきだったよね」
「もうやめなって。わからなかったんでしょ。仕方ないって……」
「でも、私が一声かけていたら、たっくんは電車に撥ねられなかったかもしれないんだよ!?」
あの日。たっくんは格好は黄色のレインコートに長靴。手には傘を持っていました。
たっくんがそんな格好だったからこそ私は目が向き、だけど「変な子……」以上のことを思うことができなかったのです。
もし声をかけていたらと私は繰り返し思いました。
「美嘉、やめなって!」
「……ごめん。言うなって言われたのに……」
「そうだけど、そうじゃなくて……。とにかくやめよ。せめてみんな落ち着いついてから、舞?」
舞は突然。私の手を掴むとその場を急ぎ足で離れ、近くの空き地になっているところまで引っ張っていき、そこでようやくこちらを見て私に言いました。
「ねぇ、たっくんとすれ違ったのって環奈の家に行く途中。トンネルの前だったんだよね?」と……。
私は舞の様子が何かおかしいと思いながらもそうだと言い、それを聞いた舞は小さく震えながら次の言葉を発します。
舞は私とは違う恐怖の中にいたんだと私はここで始めて知りました。あの日の舞の反応の理由もです。
「私さ、あの時ね。なんでたっくんの名前が出たのかわからなかった。だって誰ともすれ違わなかったんだから」
私は舞の言っていることの意味がわかりませんでした。
私が服装はおろか顔さえはっきりと見たたっくんを、隣にいた舞は見ていないと言い出したのですから……。
「美嘉が言った服装に校長先生が驚いてるのを聞いて血の気が引いた。誰ともすれ違ってないのにって」
「な、何言ってんの……?」
「それにたっくんは四丁目で私と同じ地区だから。集団下校の時に一緒だったし家も知ってる。私がたっくんをわからないなんてことがないんだ!」
確かに舞は四丁目に住んでいて、私と俊子は隣の三丁目でした。
私は小学校で時折あった集団下校の時に三丁目と四丁目は隣同士に並んで、舞のいた三丁目の班登校のグループの中にたっくんがいたことを思い出しました。
同時に舞が言っていることは本当で、なら私が見たのはなんだったのか?と、わからないことが次々と積み重なっていきました。
「……じゃあなんだっていうの?」
私はたっくんを確かに見ましたし、声をかけなかったことを後悔しています。ですが舞は嘘を言う子ではないですし、校長先生の言葉も本当だったはずです。
私は本当にたっくんに声をかけるべきだったのでしょうか?
もし私と俊子にだけしかたっくんの姿が見えていなかったとしたら、声をかけるという行動は本当に正しかったのでしょうか……。
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