1 / 5
きっとこの日を死ぬまで忘れない
しおりを挟む
私はその日のことを今でもよく覚えている。
中学生になって初めての夏休みの一日で、まるで前日の大雨が嘘のようによく晴れた日だったと、大人になった今でもはっきりと覚えています。
当時、私は流行っていた漫画の影響からテニス部に入り。時代錯誤なくらい厳しかった顧問の元、体力作り以外には玉拾いと素振りくらいしかさせてもらえない、辛いばかりでつまらない部活動の日々を送っていました。
しかも通っていた中学校の横が海ということもあり、夏休み中の部活は砂浜でのランニングに海に向かっての声だしなどが追加され、普段以上にキツかったりしたこともよく覚えている一因でしょうか。
あとはキツいながらも自分たち一年生が誰一人辞めることなかったことや、夏休み中に三年生が引退して新体制になっていく様子が目新しかったりしたからかもしれません。
と、これだけだったなら、私はきっと青春の思い出としてこの日を忘れることもできたでしょう。ですが、たっくん。この言葉がこの日の事を一つも忘れるのを私に許さないのだと思います。
これから話すのは私がこの先も決して忘れることがないだろう日の出来事です……。
◇◇◇
「当番で先生学校にいるから今日部活やるって。だけどコートぐちゃぐちゃだから来ても来なくてもいいってさ。美嘉ちゃん次に回してねー」
前日の大雨で部活は休みだろうと思っていた私はこの連絡網の電話で母に起こされ、それを次に回した後、「こなくてもいいならいかないやー」と布団に戻ったところであることを閃きました。
引退した三年生たちはもう部活に来ず、前日の大雨でコートはぐちゃぐちゃだが朝から晴れてる。そして来ても来なくてもいいという状況は、「人数は集まらないから行けばテニスコートを好きに使えるんじゃないか?」と閃いたのです。
「あっ、環奈。ちょっと聞いてよ!」
私はそれをすぐさまリーダー格でテニスのペアでもある環奈に連絡しました。
それというのも彼女は常々、「コートでボールを打ちたい」と言っていましたので、私の閃きを話せば二つ返事で乗ってくると思ったからです。
「いかない。だって今日お祭り行くじゃん。なんでその前にわざわざ汚れることすんの? それにもう夏休み中の部活は懲り懲りでしょ。だからうちに来て夕方まで遊ぼうよ」
しかし環奈から期待した返事はなく、夏休み中の部活で「こいつ意外と体育会系だなー」と思ったのは勘違いだったのだと思いました。
私は環奈の誘いに「お祭り行くのは夕方だろ。私は部活が終わったら合流するわ」と言って、頼りにならないペア以外に声をかけて部活へと向かいました。
「あーっ、美嘉ちゃんに俊子ちゃん! 綾ちゃんと私しか来ないのかと思って心配してたんだよ。よかった。本当によかった!」
「おはようございます、カンナ先輩。妹はズル休みですよ。先輩もう部長なんだから何か言ってやってください」
「いや、環奈ちゃん妹じゃないから。名前が同じだけだから」
結局。この日の部活は男女で十人しか集まらず、女子に至っては私と声をかけた俊子と綾。新しく部長になった環奈と同じ名前のカンナ先輩の四人だけでした。
そして私の閃きはずばり正解で、十人で三面あるコートを好きに使え。顧問からはメニューのようなものもなく。準備運動が終わる頃にはコートも大方乾いていて、とても充実して楽しい部活だったのです。
……ですがこの充実感や楽しさも、この後の出来事によってただ楽しかったとは言えなくなります。
この日の私の選択肢で正しかったのは、部活に行かずに環奈の家に行くだったのでしょう。そうすればきっと結末は違っていたと思うのです。
中学生になって初めての夏休みの一日で、まるで前日の大雨が嘘のようによく晴れた日だったと、大人になった今でもはっきりと覚えています。
当時、私は流行っていた漫画の影響からテニス部に入り。時代錯誤なくらい厳しかった顧問の元、体力作り以外には玉拾いと素振りくらいしかさせてもらえない、辛いばかりでつまらない部活動の日々を送っていました。
しかも通っていた中学校の横が海ということもあり、夏休み中の部活は砂浜でのランニングに海に向かっての声だしなどが追加され、普段以上にキツかったりしたこともよく覚えている一因でしょうか。
あとはキツいながらも自分たち一年生が誰一人辞めることなかったことや、夏休み中に三年生が引退して新体制になっていく様子が目新しかったりしたからかもしれません。
と、これだけだったなら、私はきっと青春の思い出としてこの日を忘れることもできたでしょう。ですが、たっくん。この言葉がこの日の事を一つも忘れるのを私に許さないのだと思います。
これから話すのは私がこの先も決して忘れることがないだろう日の出来事です……。
◇◇◇
「当番で先生学校にいるから今日部活やるって。だけどコートぐちゃぐちゃだから来ても来なくてもいいってさ。美嘉ちゃん次に回してねー」
前日の大雨で部活は休みだろうと思っていた私はこの連絡網の電話で母に起こされ、それを次に回した後、「こなくてもいいならいかないやー」と布団に戻ったところであることを閃きました。
引退した三年生たちはもう部活に来ず、前日の大雨でコートはぐちゃぐちゃだが朝から晴れてる。そして来ても来なくてもいいという状況は、「人数は集まらないから行けばテニスコートを好きに使えるんじゃないか?」と閃いたのです。
「あっ、環奈。ちょっと聞いてよ!」
私はそれをすぐさまリーダー格でテニスのペアでもある環奈に連絡しました。
それというのも彼女は常々、「コートでボールを打ちたい」と言っていましたので、私の閃きを話せば二つ返事で乗ってくると思ったからです。
「いかない。だって今日お祭り行くじゃん。なんでその前にわざわざ汚れることすんの? それにもう夏休み中の部活は懲り懲りでしょ。だからうちに来て夕方まで遊ぼうよ」
しかし環奈から期待した返事はなく、夏休み中の部活で「こいつ意外と体育会系だなー」と思ったのは勘違いだったのだと思いました。
私は環奈の誘いに「お祭り行くのは夕方だろ。私は部活が終わったら合流するわ」と言って、頼りにならないペア以外に声をかけて部活へと向かいました。
「あーっ、美嘉ちゃんに俊子ちゃん! 綾ちゃんと私しか来ないのかと思って心配してたんだよ。よかった。本当によかった!」
「おはようございます、カンナ先輩。妹はズル休みですよ。先輩もう部長なんだから何か言ってやってください」
「いや、環奈ちゃん妹じゃないから。名前が同じだけだから」
結局。この日の部活は男女で十人しか集まらず、女子に至っては私と声をかけた俊子と綾。新しく部長になった環奈と同じ名前のカンナ先輩の四人だけでした。
そして私の閃きはずばり正解で、十人で三面あるコートを好きに使え。顧問からはメニューのようなものもなく。準備運動が終わる頃にはコートも大方乾いていて、とても充実して楽しい部活だったのです。
……ですがこの充実感や楽しさも、この後の出来事によってただ楽しかったとは言えなくなります。
この日の私の選択肢で正しかったのは、部活に行かずに環奈の家に行くだったのでしょう。そうすればきっと結末は違っていたと思うのです。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説


『霧原村』~少女達の遊戯が幽から土地に纏わる怪異を呼び起こす~転校生渉の怪異事変~
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は和也(語り部)となります。ライトノベルズ風のホラー物語です》
逢魔ヶ刻の迷い子3
naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。
夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。
「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」
陽介の何気ないメッセージから始まった異変。
深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして——
「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。
彼は、次元の違う同じ場所にいる。
現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。
六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。
七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。
恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。
「境界が開かれた時、もう戻れない——。」
アポリアの林
千年砂漠
ホラー
中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。
しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。
晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。
羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる