シナスタジアの幻想迷路

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霊媒師とその助手

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「父さん、明日少し車借りれる?」

「あぁ、別にいいけど、あんなオンボロ
で良ければ。」

明日の霊媒の依頼には、
運転手がつく。
車はTOYOTAのVITZシルバーだ。
春の父親の車で、あちこち傷や
塗装の剥がれた部分がある。

「見た目は悪くても、運転するには、
VITZは最高さ!」

車のキーを貰うと車のガレージへ
向かう。
車の前には、杜京太が立っていた。
まだ15分あるが春の姿に
気がつくと律義に一礼した。
白いシャツに紺の細いネクタイを
締めている。
端正な顔立ちの好青年である。
黒髪を真ん中から分けて、
左右に流している。

「お疲れ様です。
本日より宜しくお願いします!」
春がにこやかに声を掛け、
車のキーを渡す。

「こちらこそ、
宜しくお願いします。」

やや緊張気味に、春は助手席に座る。
京太は、ミラーの位置を確認し、
座席を、動かして丁度よい位置に
調節して行く。

「それでは、出発します。
どちらへ向かえば宜しいですか?」

「まずは学苑駅の西口に。
その近くのパーキングがあれば、
停めてください。待ち合わせの公園は
そこから徒歩3分です。」
「分かりました。」
そういうと、静かにVITZを発進させる。


運転は流石トラックを
運転してるだけあって、
とても上手くブレーキング等も
優しい。


「普段は、どこらへんまで運転
してるんですか?」


「私は、名古屋ですね。曜日が
決まってるので副業がしやすいです。
丁度探してたら、春さんの募集を
見かけまして。まぁ、小遣い稼ぎです。」

「なるほどね~。あっ、僕よりも
年上なのでお気遣いなく。
普通にしゃべってください。」

「あ、そうっすか?じゃあ。
実はそんなに敬語に慣れてなくて。
普段野郎ばっかりだから。」


「服装もネクタイとかいらないので、
普段着で良いですよ。」


「あっ、そうっすか。いやぁー
普段ネクタイなんか締めないから、
これも窮屈でね。でも、
春さんが敬語じゃなんか違うな……」
と言いながらタイを緩める。

「あ、じゃあ、俺も普通に喋るわ。」
春がそういうと、京太は、
満面の笑みをむけてきた。
それは、空の青をバックにしたような、
爽やかな笑顔で、初めて会った時同様、
澄み渡った青に吸い込まれそうになった。


前を向いて気を落ち着かせ、
PCの本日の依頼主の
情報に目を通す。


「26歳女性。亡くなった祖母の夢を
続けてみる。何かを訴えてきている。
……夢枕かな。」


「おばあちゃんは、
何を伝えたいんだろう…」
京太がポツリとつぶやく。

「何か大切なことなのは、
確かだよな。」

待ち合わせ場所に着くと、
色白な女性がベンチに座っていた。
茶色の髪を一本に編み込み
飴色のバレッタで止めている。

「初めまして。飛彩です。
本日は宜しくお願いします。」
深々と一礼する。

それに習い、春と京太は会釈し、
聞き取りを開始した。

「祖母が、毎日夢に出てくるんです。
私に何か伝えようとすると
決まって起きてしまって…」

「最近まわりで変わったことや、
何か大きな変化はありませんか?」

「んー、来月結婚することくらい
ですかね?相手は、30歳の会社員で、
とても器量の良い方です。
両親も気に入っているんです。」
と少し照れくさそうに
飛彩さんは話してくれた。

「そうでしたか、おばぁちゃんの
想い出の品や形見はありませんか?」

「あっ、それでしたら、家に
おばぁちゃんから貰った手鏡があります。」

飛彩さんの案内で彼女の
ワンルームマンションに到着後、
手鏡を持ち霊媒を、開始する。

「果てなき今生の全ての生命の源よ。
我は、その使いになるもの。
そなたの御霊を表せ…」

春が白く透明なオーラを発しその光が
強くなる。京太は、一瞬目を瞑った。
次の瞬間手鏡が白く発光始める。
中にぼんやりと着物を着た淑女が
映し出されている。

「……おばぁちゃん!!」
飛彩さんが叫ぶ。

春が右手を手鏡にかざす。

「飛彩ちゃん…よく聞いておくれ。
結婚しようとしている男の、
黒い財布の中を、みるのよ。
そこには全てわかるものがある。
…あなたを愛してるわ。
しあわせになってほしいの。」
それだけ言うと、しずかに
鏡の中へ消えていった。
おばぁちゃんの声は、
深く響くようだった。


「まだ、びっくりしていますが、
今度彼に会った時、お財布を
みてみます。
今日はありがとうございました。」
飛彩さんは、また深々と頭を下げた。



帰りの車中。
春は眠っていた。
というより、霊媒後のバーノンアウトだ。

「まるで子供みたいな寝顔だな。」
京太がくすっと笑う。
家に着き春を両手で抱きかかえ、
車から降ろすと背後から近寄ってくる
男性がいた。

長身の銀髪。駒久だ。
「世話になったな。
あとは、私が面倒見よう。」

「あなたは?」

「春様のしもべだ。」

「……しもべ?となると、俺は、
春の運転手でしもべのようなものだ。」

相手を敵と認識し見つめ合う二人。
赤と青の閃光がぶつかり合う中、
春は眠っていた。

駒久は、瞬時に京太の腕から春を奪い、
耳の鳥の刻印にキスをする。
びくっと春の身体が動き、
首すじが露わになる。
「……っ」
唇から吐息が漏れる。

「とりあえず、私は主様を
介抱するので、貴方は車を車庫にでも」

駒久は、そう言ってすばやく踵を返し、
家の中へと春を運ぶ。

「……まさか、自分が嫉妬するとはな。」
駒久は、春をそっとベットに寝かすと
唇に優しく口づけをした。

春は優しい刺激に目を覚ますと、
そっと、駒久の身体に
身を委ねた。
素直になればなるほど、
身体は敏感になり、
感じやすくなる。



「黒い財布の中身なんだったと思う?」
駅前の喫茶店で珈琲を飲みながら、
京太に問う。

「んーー宝くじとか?」
京太は、当てずっぽうで聞いてみる。

「競馬のハズレ券や、
キャバ嬢の連絡先のメモ。
それに、不倫相手とのラブホの
領収書だって。まぁ、色々とお粗末
だったわけだ。結婚は白紙だって。
そりゃそうだよな。」
春は、信じられないというように、
手を返して話す。

「ばぁちゃんの、御手柄だな。」
そう言って、京太は珈琲を飲み干した。
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