シナスタジアの幻想迷路

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青い光の者

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秋の風が肌寒く感じる朝。
春は、まだ暗いうちに家をでた。
依頼主との待ち合わせが、
朝8時だからだ。

初めは、週1回受けていた
霊媒の仕事だったが、
今では週3回受けている。
コンスタントに行けば
月10万円以上見込める。


そこで考えたのが事務を
雇うことだった。
バイトで、時間給1500円。
仕事内容は、簡単なPC入力と
事務作業と車の運転である。


その日の予定の霊媒は、
8時と14時。
18時から、バイトの面接を行う予定だ。


8時に待ち合わせていたのは、
元カノの生霊を感じるという
35 歳の男性。
話を聞いていくと、
ポストに2人で撮った写真が
入っていたり、ゴミを荒らされていた。
また、部屋の物がなくなっている。
なくなったものは、ブラシと
枕と靴だった。
部屋の中でも元カノの気配を感じる。
気配というか、それは香水の香りだ。
一度気配がある時に電話をしたら、
仕事場にいることがわかり、
生霊なのでは?という結論に至ったらしい。

生霊とは、生きている人の怨霊で、
恨みのある他人に取り憑いて
悪さをするといわれるものである。

「何か恨まれることでも?」

「まぁ、別れたばっかりだから、 
納得してないんでしょうね。まったく
薄気味悪い…」

生霊を飛ばす場合はかなり強い
恨みの念があるはずだ。
しかし、その念は感じられない。

家を調べさせてもらうと、
ベットの下に香水が置かれていた。

「これは、あなたのですか?」

「いえ、違います。元カノが
使っていたのと同じやつですね…」
香水を、手で持ち顔から離して
しかめっ面で答える。


「物がなくなってる事も考えると
家には侵入した形跡があるという事です。
生霊というよりは、ストーカーや
不法侵入等で警察の対応のほうが
宜しいと思いますが…」
春がそういうと、依頼人は、
目を逸らし、早口で答える。
「い、いや、私としては、
そこまでは。はい。もう一度元カノに
連絡を取ってみます。」

大抵の場合、警察をみたり
聞いたりして動揺したり目を逸らすのは、
何か疾しい部分があるからである。

女性に恨まれるということは、
詐欺や、性的な犯罪も
考えられる。
また、なくなったものが、
ブラシや枕というのは毛髪を
採取するためであり、
靴は、相手のつよい香りを
採取するためと想像がつけられる。

証拠としてなのか、または
呪詛に必要なものなのか、
定かではないが、
今後この依頼者は、更なる報いを
受けるだろう。
しかし、生霊を放ったもの
また人を呪詛にかけたものは
跳ね返ってくると言われている。
それは永遠の摂理だ。

さて、午前中の仕事はこれで終わり。
昼にレトロな喫茶店で
ナポリタンを食べる。
麺は春の好みの太めだった。
「おしいな……」
フォークに刺さったベーコンを
見ながら呟いた。
春は、ナポリタンの具は
ウィンナーが好きだったからだ。
ナポリタンを食べながら、
次の依頼人情報に目を通す。

42 歳男性。趣味推し活。
地下アイドルフェアリーの
めぐみん推し。
時計をチラリと見る。
時刻は13時。
待ち合わせは14 時だ。
その後18時には、バイトの面接がある。

移動の時間を考えると、
3時間だ。
後に、予定が詰まってるので、
早めに行動しておきたい春は、
13時45分には、待ち合わせの公園に
到着した。

すると、先着の人が1人。
ピンクの法被を着ている。
頭には、Lovelyと書かれたピンクの 
ハチマキをしている。 

「如何にもだ……」
少し戸惑いながら近付き声を掛ける。


「依頼主の山田さんですか?
私HARUです。」

山田さんは、一瞬ビクッと後退りした後、
突然笑顔になった。
「そうです。山田です。
本日は宜しくお願い奉る。」

武士の霊かと思ったが、
そのような気配はない。
地の喋り方だ。

「フェアリーめぐっみん!推し
やまっだです。」
明らかに変なイントネーションを
付けてきているが、冷静に対応する。

「それで、事象というのは、
好きすぎて辛いでいいでしょうか?」

「めぐっみんのことを考えると、
何も手につかなくて。他のアイドルを
みても。お見合いしても、上司も部下も
めぐっみんしか勝たん!!
勝たんのです!!」

「ほほほぅ、それはそれで
良いのではないかと……」

「いや、駄目なんです。
めぐっみんしか勝たん!!になると
他を許容できない。
会社にも行けなくなりました……」

通常か、病的か、霊障かの判断で
まず第一は、日常生活動作が
行えるかというところにある。

例えば食事、風呂、排泄、
睡眠、仕事や学校などがこれにあたる。

会社に行けないという事は、
日常生活動作が行えていない。
何からの対応が必要である。

「もしかしたら、めぐみんさんに
依存されてる可能性もあります。
そうすると、まずは医療的な診察が
必要になります。」
そう説明すると、春は帰路に
たった。
時刻は、16時30分。
無事に、2件の依頼を終わらせた。

17時半に待ち合わせの喫茶店へ行く。
日が暮れるのが早くなり、
既に日没を迎えていた。
本日2回目のナポリタンが、
春のもとに運ばれる。

「太目の麺と、玉ねぎ、ピーマン
ウィンナー。ナポリタンは、
ウィンナーしか勝たん。」

フォークをクルクルして、
ナポリタンを、口に運ぶ。
赤の渦とは対照的に、
青いオーラが春のもとに
近づいていた。


カランカラン~
喫茶店の木製のドアが勢いよく開く。
時刻は18時だ。

年齢は20 代半ば。高身長で、
筋肉が少し感じられる男性だ。
引き寄せられるように、
春のもとへ歩み寄る。

「HARUさんですか?
面接を、お願いした杜京太です。」

吸い込まれるように、
目を見つめる春。
静止する。

「どうされましたか?」

「……あっ、ごめんなさい。
どうぞお座りください。」
席に座るよう誘導する。

初めてだった。
吸い込まれるような瞳。
そして、青いオーラが脳を休止させる。
まるで金縛りにでもあったかのような
感覚になり、胸のあたりに
すっーと広がり何かが響きわたる。
取り繕いながら、
面接をスタートさせていく。


「そうすると、勤務できるのは、
週3回の夕方3時間でよろしいですか?」

「はい。」
真っ直ぐに目を見つめて答えてくる。
面接をしてるのだから当たり前であるが、
何かを見透かされてるような気持ちになる。

「普通運転免許をお持ちですが、
普段は運転はされますか?」

「はい。主な仕事がトラック運転手
なので、運転には自信があります。」
そして、ゴールドの運転免許証をみせる。

「パソコン操作はできますか?」

「ワードくらいは出来ますが、
図表とかが少し……」

「問題ないですよ。依頼文の
整理と依頼者への返信などの対応なので」

「ありがとうございます。」

こうして面接は無難に終了し、
明後日からの杜 京太が
霊媒師HARUの助手として、
就くことになった。



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