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黒鉄の獅子

覚醒する者

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 操車場に戻ってきたA班とB班は重苦しい沈黙に包まれていた。教官の厳しい視線、指導機関士たちの不満そうな様子が、状況をより一層圧迫していたのだ。

 アイザックが小声で呟いた。

「まったく、これじゃあ落第になっちまうな」

 隣にいるリリーも無言でうなずく。俺たちは自分たちの未熟さを痛感していた。しかし、その一方で、今回の経験はチームワークという面で大きな経験にもなっていることは間違いなかった。

「蒸気機関車の運転は単なる技術だけではない。チームワークが不可欠だ。お前たちが個々に優れた技術を持っていることは分かるが、それをチームとして結集しなければならない。今回のトラブルを通して、お前たちはお互いの弱点や課題を見つけることができた。次なる実習では、それを活かして協力し、成功を収めてみろ」

 教官の言葉は厳しいが責め立てるものではなかった。

「さて、次なる課題に移る準備をしろ。お前たちにはまだまだ学ぶべきことが山積みだ。今度はトラブルを起こすなとは言わんが、先程みたいな無様な真似は繰り返すな」

「A班の立ち往生は現役の機関士でも条件が悪いと起こしてしまうが、B班のボイラー水の不足はボイラー爆発という惨事を引き起こしかねない問題だ。今度はA班がB班と同じ深刻さのトラブルを起こすかも知れないが、少なくとも両者ともに冷静に対処はしていた。今度も同じように起きた問題に対処することを期待する」

 教官に続いてシュトラウス指導機関士が訓示をして再び俺たちは蒸気機関車へと向かう。俺たちは再び機関車に乗り込み、前回の経験を活かして運転実習を再開する。

 運転席に着いた俺にアイザックが声をかけてくる。

「大将、次こそは完璧にやろうぜ。今度はもっと上手くサポートするからな!」

「そうだな」

 俺は頷きながらそう言うと、アイザックの隣でリリーも微笑み返してくれた。

 ◇◆◇

 一方、B班ではアレクサンダーは前回のトラブルから、鉄道に対する新たな興味を抱き始めていた。それは元々鍛冶場を趣味用に持っている彼に鍛冶仕事と同じような感覚を抱かせたからだろう。

「蒸気機関車とはこちらが手を掛けてやったら応えてくれる、いい加減なことをすれば応えてくれない。鍛冶工房での作品作りと同じじゃないか、実に興味深い」

 オリヴァーが運転席に着くと、アレクサンダーは先のトラブルについて尋ねた。

「オリヴァー、ボイラーのそれもう少し教えてくれないか」

 オリヴァーは微笑みながら説明を始めた。

「あれはボイラー水の量と蒸気発生量のバランスが崩れたこと。機関車の特性や挙動を理解していないと、こういうトラブルは避けられないんだ。といっても、見落とした俺に問題があるんだがな」

 アレクサンダーは真剣な表情で聞き入り、その後もオリヴァーとフェリクスとの間で、運転中に余裕があるときに蒸気機関車や鉄道のメカニズムについての情報交換が続いた。それは彼らの中でバラバラだった歯車がかみ合った瞬間だったかも知れない。

 その中でアレクサンダーは次第に興奮し、鉄道の奥深さに魅了されていった。オリヴァーの言葉や経験、知識がアレクサンダーに新たな視点を与え、そしてアレクサンダー自身も気付かないうちにどっぷりと浸かってしまっていたのだ。

 アレクサンダーの変化に、運転台は微笑ましい雰囲気が広がった。フェリクスも機械の仕組みについて語り、オリヴァーは鉄道の歴史や運行について情熱的に語り合っていた。

「鉄道は単なる運搬手段ではないんだよ。技術と歴史、そして人々のつながりが交わる場所なんだ」

 オリヴァーの言葉に、アレクサンダーも深く頷いていた。

 ◇◆◇

 A班、B班は前回のトラブルを踏まえ、より一層連携を重視していた。指導機関士や教官の厳しい視線がある中、俺たちは蒸気機関車を運転する。蒸気機関車は先程とは打って変わって順調に走行を続け、教官たちの表情も和らいでいった。

 残りの実習は順調に進み、最終的に俺たちはE組と同じように貨車を連結した上で本線運転を行うことも出来るようになっていった。

「お前たちの成長は素晴らしいものだ。この数日間でE組ほどではないが、臨時機関士/機関助士として任せることくらいは出来るようになった。さて、今回、本来士官候補生として殆ど無関係の機関車講習を受けたのは予定されている遠征実習と関係があるからだ。そして、お前たちには今後も本来のカリキュラムとは別の実習が用意されている」

 教官の爆弾発言に俺たちは驚きを感じたが、それと同時に、いつものことかという感覚もあった。少なくとも、俺たちは入学以来、まともな士官候補生としてのカリキュラムなんて殆ど受けていない。特にやたら実戦的な内容の実習が多いことから自分たちも士官候補生である自覚が薄れている。

「俺たちってなんなんだろうな?」

 俺は思わずそんな呟きを漏らしてしまった。
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