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遠征実習

装甲列車『皇都の盾』へようこそ-2-

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 俺たちは『皇都の盾』に乗り込んだ。シャーロット少尉は堂々と先頭に立ち、俺たちに向けて車内の構造と機能について説明してくれた。

「皆、『皇都の盾』へようこそ、改めて歓迎します。これは私たち鉄道憲兵隊が運用する装甲列車で、帝都の安全を守るために日夜稼働しています」

 彼女の説明は明瞭で、各車両の役割や備えられた武装についても簡潔に教えてくれた。車窓から見える風景が次第に変化していく中、俺たちは彼女の案内に耳を傾けた。

「1両目は警戒車で、前側方に高射砲と重機関銃を搭載しています。射界は前方を中心に広がり、万が一の場合には警戒のために高射も可能です。弾数は3,000発です」

 俺たちは手渡された資料の写真を見て、その備砲の迫力に圧倒されながらも、興味津々で彼女の解説に聞き入った。

「次が火砲車アイン。こちらは10セント高射砲と重機関銃を搭載した火砲車です。砲塔形式で全周を射界に持ち、弾数は砲塔ごとに異なりますが、合わせて200発です」

 シャーロット少尉の手で示される車両は、俺たちにとってはまるで神話のヨルムンガンドのように映った。

「そして、4両目と5両目も同様の構造です。火砲車ツヴァイと火砲車ドライ。砲塔形式で高射砲を搭載し、重機関銃も前方に射界を持っています。こちらも弾数には十分注意してください」

 俺たちはシャーロット少尉の指し示す先を見つめ、それぞれの車両がどれもが武装と防御のバランスを考え抜かれていることを理解していく。

「続いては、6両目の指揮車。ここが私たちの指揮室で、全周に射界を持つ重機関銃を装備、弾数も3,000発。重要な指揮車は、戦局が変わる中で的確な指示を出すために装備が整っています」

 俺たちは指揮室のドアをくぐりながら、内部の機材や兵器に興味津々だ。シャーロット少尉の説明に従って、俺たちは次々と車両を巡っていく。

「7両目から9両目は、装甲兵車、装甲客車、そして機関車です。これらも万全の態勢で戦闘に備えています」

 車内を進む中、シャーロット少尉は一つ一つの機能や設備について丁寧に説明し、俺たちはこの装甲列車がどれほどの優れた機動力と戦力を有しているのかを実感していく。

「最後に補助炭水車と電源車です。これらも射撃支援や燃料供給、電力供給など、裏方として欠かせない存在です」

 シャーロット少尉の解説が終わると、俺たちは再び車内を見渡した。この巨大な列車が、鉄道憲兵隊の力強い武装力を象徴していることを改めて感じ入った。

「装甲列車の概要が分かったところで、皆さんもこの装甲客車にご案内しますね」

 シャーロット少尉がにっこりと微笑む。彼女の案内に続き、俺たちは装甲客車に向かう。ドアを開けて中に入ると、予想以上に広々とした車内が広がっていた。窓から差し込む光が、内部を透明な雰囲気で照らし出している。

「こちらが皆さんの座席となります。快適な旅をお楽しみください」

 シャーロット少尉が座席を指し示す。一同は興奮冷めやらぬまま、一列に座席に腰を下ろす。窓からは外の景色が広がり、まさに冒険の始まりを感じさせてくれる。

「装甲客車は特注で作られたもので、快適性と安全性に優れています。万が一の緊急事態にも対応できるよう、最新の技術が導入されています」

 シャーロット少尉が話す中で、俺たちは初めての装甲列車旅行を存分に楽しむことができそうだと感じる。そして、その興奮を胸に、ノルドグレンツェ門への旅路が始まったと言えるだろう。窓から見える景色とともに、冷たい空気が舞い込んできた。彼女は俺たちの座席に向かって微笑みかけ、続けて尋ねた。

「さて、何か質問がありますか? 装甲列車や今回の遠征実習に関すること、どんなことでもお答えしますよ」

 ヴィクトリアが手を挙げ、質問を口にした。

「スティール少尉殿、この装甲列車の中での生活はどんな感じなのでしょうか?」

「装甲列車では、通常の列車と同様に快適な生活を提供しています。広々とした車内には、食事や休憩を楽しむためのスペースもあります。また、緊急時に備えて訓練された隊員たちも搭乗していますので、安全性にも気を配っています」

 シャーロット少尉の答えは質実剛健を尊ぶ軍隊生活という枠組みでは驚きをもたらすものだった。そして、今度はアレクサンダーが続けて質問する。

「少尉殿、先ほどの解説で装甲列車の武装について触れられましたが、実際の運用はどうなっていますか?」

 シャーロット少尉はうなずきながら説明する。

「装甲列車は、通常の列車と同じく運行しますが、特に危険な地域では武装を駆使して安全を確保します。もちろん、平時はそのような事態はなく、主に地方巡察や辺境地域の鎮撫が目的となっています。今回のノルドグレンツェ門への運行もその一環です」

 質問応答が続く中で、一行はシャーロット少尉を中心にして様々な情報を得ていった。彼女の的確な説明に、一同はますます期待と興奮を募らせていった。

 エレノアが車窓から見える景色に興味津々で、手を挙げて質問する。

「従姉さん、このルートはどのように決まるのですか?」

「エレノア、従姉さんはやめて。ここでは、スティール少尉、もしくはシャーロット少尉と呼んで」

 シャーロットは微笑みながらエレノアを窘める。

「申し訳ありませんシャーロット少尉殿」

「皆も少尉殿と呼ぶのはやめにしてくれるかしら? シャーロット少尉と呼んでくれたら良いから」

 エレノアが良い意味でシャーロット少尉のとの距離を詰めるきっかけになった。

「ルートは様々な要因から決まります。通常は安全かつ効率的な経路が選ばれますが、時折特別な任務や状況によっては異なる経路を取ることもあります。また、八大貴族領邦や他の重要な地域を通る場合は、それに合わせて選定されます」

 ヴィクトリアが続けて質問する。

「シャーロット少尉、あの大きな砲塔はどう使われるんですか?」

「大きな砲塔は火砲車で、主に敵の襲撃に備えています。もちろん、平時は使用しませんが、危険な状況では砲兵がそれを操り、安全を確保します。先ほど大口径の高射砲だとお伝えしている通り、対空砲火としても十分に効果を発揮し、対地砲撃においては高い貫徹性能を発揮します。私たちは常に最新の技術を取り入れており、装甲列車自体も強固な装甲で守られています」

 シャーロット少尉の説明に、俺たちは彼女たちの旅がいかに重要なミッションの一環であるかを感じていた。列車が次第に北へ進むにつれ、景色は変わり、遙か遠くに雪化粧した大山脈が連なっているのが見える。俺たちの目的地はあの山脈を越える峠にある。
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