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遠征実習

装甲列車『皇都の盾』へようこそ-1-

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 装甲列車がノルドグレンツェ門方面ホームに迫力を持って入線する。その鉄の塊が轟音を轟かせ、プラットフォームは振動に揺れた。俺たちはその巨大な存在に圧倒され、一瞬の間、列車の軋む音と振動に身を委ねた。

 シャーロット少尉は装甲列車を指さし、俺たちに向けて穏やかな口調で説明を始めた。彼女の声は響き渡り、耳に響く鉄の音にも負けずに語りかけてきた。

「こちらが鉄道憲兵隊の98式装甲列車の第1編成、通称『皇都の盾』です。この装甲列車は、帝国の戦力強化と共に、鉄道憲兵隊の迅速な展開や特殊任務に使用されます。見ての通り、その装甲は頑丈で、備え付けられた高射砲や機関銃によって敵対勢力から列車を守ります」

俺たちはその迫力ある姿に驚嘆しながらも、シャーロット少尉の説明に耳を傾けた。列車の構造や武装についての理解が深まるにつれ、俺たちの興奮は勢いを増していった。

「この装甲列車には全周可能な10セント高射砲塔と8セント高射砲塔、砲郭式の13ミル重機関銃塔が備え付けられています。これにより、様々な状況に対応できる柔軟性があります」

 列車の車両には重厚感があり、まるで巨大な鉄塊が動いているように見えた。シャーロット少尉の説明は細かい部分まで親しみを込めて行われ、俺たちはそれに引き込まれていった。

「実は、この『皇都の盾』をはじめとする98式装甲列車は、あなたがたとも無関係というわけではありません。アレクサンダー、あなたのご実家であるアイアンサイド・インダストリーの新型導力機関を搭載した機関車のおかげで最高時速160ルーデを発揮可能で、地上を走るあらゆる車両よりも圧倒的な速度で帝国中、鉄路ある限り迅速に展開可能なのです」

 シャーロット少尉はウィンクをして右手の人差し指を左右に振る。結構お茶目なところがあるのがとてもギャップに思える。

「それだけではなく、エドウィン、そしてヴィクトリアあなた方のご実家の鉱山も装甲板や火砲の原料となっているの。オリヴァーあなたのご実家は砲金に使う銅鉱石ね。フェリクスはあなたのお父様が設計に関与しています」

 彼女の話で何らかの形で俺たちの出自に関係があることが知らされる。エレノアは鉄道憲兵隊を志望しているし、アイザックとリリーも軍関係に任官を望んでいるから最終的に関係するだろう。

「今回の遠征実習でクラウゼンベルク予備役中将、学長から是非にと要請があり、私も士官学校の卒業生というご縁からこうしてあなた方とご一緒することになったのです」

 彼女の話が一段落付いた頃、兵員輸送車から鉄道憲兵が数名が降り、乗降口付近に整列した。彼らの構える姿勢は厳かで、まるで行進しているかのような一体感があった。シャーロット少尉が鉄道憲兵に向かって手を振り、俺たちにも気を配っている様子がうかがえた。

「こんにちは、みなさん。ご苦労さまです。今日はこちらの無理を言って申し訳ないですね。ノルドグレンツェ門までの道中よろしくお願いします」

 彼女は鉄道憲兵たちに向かって優雅に微笑みかけ、そして彼らに報告を促す。その姿勢はまさに軍人というよりは女神や女王と形容した方が正しいのかも知れない。シャーロット少尉がどれほど信頼されているかを感じさせた。

「それでは皆さん、お願いします。状況を報告してくださいね」

 一人の鉄道憲兵が一歩前に出てきて報告を始めた。

「報告いたします。現在の装甲列車の状態は良好で、兵装も万全な状態であると確認出来ております」

「装甲兵車には憲兵2個小隊60名と10名の連絡要員が乗車しており、少尉と便乗者が乗車する装甲客車も整備されています。特に異常は見当たりません」

「ありがとうございます。引き続き、任務に取り組んでください」

 シャーロット少尉は微笑みながら慰労の言葉を贈り、他の憲兵たちにも順次報告を行わせた。報告が終わると同時に、鉄道憲兵たちは彼女に向かって敬礼を行った。彼女も品の良い所作でこれに応え、俺たちも心からのリスペクトを込めて鉄道憲兵たちに答礼した。

「皆さん、ありがとうございます。一緒に安全な旅をしましょう」

 シャーロット少尉が再び微笑みかけると、俺たちは列車に向かって歩き始めた。発車の合図が鳴り響く中、俺たちは彼女の案内に従い、装甲列車の中へと足を踏み入れていった。
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