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遠征実習

出発の朝

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 学園都市ヴィーネスノイシュタット。士官学校、そして軍大学という帝国軍の士官候補生及び将校育成機関がこの街には集中している。また、その関係上、郊外には広大な演習場や農場、放牧場が整備されている。いずれも軍関係の重要施設である。

 その士官学校の正門に士官候補生たちが初めての遠征実習に臨むために集結していた。

 俺たち9人の士官候補生は、正規軍の軍服に身を包み、皆、揃って緊張感を胸に秘めながら期待に満ちた表情を浮かべ、指導教官による訓示が行われる瞬間を待っている。この一ヶ月間でたたき込まれた士官学校の教育によって身につけた知識と技術を、今こそ実地で試す時が来たのだ。

 教官の一人が俺たちの前に立ち、遠征実習の趣旨を説明している。

「今回の実習では、アルディア共和国との国境地帯へ赴き、その地で行われる。我が帝国が外敵に備えている姿を直に目にすること、またアルディア共和国の国境警備体制であるのか、実際に学ぶ機会である。皆、士官学校での座学で学んだ頭でっかちな知識を現実という物差しで計り直す良い機会だと思い、この遠征で行われる各種課題において最善の成果を出してくることを期待する」

 訓示が終わり教官が敬礼する。俺たちもすかさず敬礼を返す。慣れたものだ。

「では、諸君らの無事なる帰還を願う。解散!」

◇◆◇

 二列縦隊の行軍スタイルで俺たちは士官学校の正門をくぐるとそのまま坂を下り、ヴィーネスノイシュタット駅に向かう。坂沿いに商店が建ち並び、通常体制の他のクラスや先輩士官候補生たちが寮から登校してくる姿が見える。

 またあいつらかという視線がいくつか飛んでくるが、これも慣れたものだ。この一ヶ月、他の同級生たちとは違うカリキュラムが実施され、ある種の嫉妬心や対抗心が醸成されていたからだ。

 俺はリリー、アイザックの二人と共に列車に向かう途中、興奮と緊張の入り混じった雰囲気で会話を交わしていた。

「この遠征、本当に楽しみですわ。けれど、どんな任務が待っているのでしょうか?」

 リリーが興味津々に尋ねてくる。というのも、俺にはクラウゼンベルク学長から直接に遠征実習の課題一覧を手渡されていたからだ。無論、これは開封厳禁であり、装甲列車内でノルドグレンツェ門に到着する頃合で開封するように指示があった。

「まあ、それが分かるのも楽しみだけど、仲間と一緒に課題に取り組むと言うことが大事さ」

 アイザックは微笑みながら答えた。

「そうだな。それに今回の遠征実習は教官の訓示もあった通り、我々が学んだことを実地で試す良い機会だ。皆、気を引き締めていこう」

 俺は右手を空に向かって突き出し意気込む。
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