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課外実習

古城-3- 戦闘開始

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 ヤバげな代物ブツを発見してしまった俺たちは暫く思案するが、アイザックと休憩を交代したリリーが斥候に出掛け、すぐに扉のある部屋を見つけてきたことで方針を確定させることができた。

 リリーの先導しに従い、俺とアイザックはダイアメトロンヤバげな代物の入った箱を二人でその部屋に運び込んだ。そのまま放置するわけにもいかないと考えていたが、その部屋が物置だったらしく巻かれたカーペットがあり、それを三本積み重ねて偽装工作をすることができたのは幸いだった。

 物置部屋から通路へ出ると俺たちはそのまま来た道を引き返してフェルナンド大尉や他の仲間たちがいる中庭へ戻っていく。流石にこれは通信機で連絡を取るのは憚られた。先程と違い、情勢の変化は明らかだ。不審者とダイアメトロンは間違いなくつながっている。それ故に通信傍受の可能性すらある通信機を用いた連絡を躊躇ったのである。

 慎重に周囲を警戒しつつ移動したせいで時間をとられたが、不審者には遭遇せず中庭に戻ることが出来た俺たちはフェルナンド大尉に事の次第を報告する。

「不審者の追跡は断念しました。代わりに兵器用ダイアメトロンを発見し、これを隠匿した後、戻ってきた次第です。この古城には恐らく発見したダイアメトロンとは別に近くにダイアメトロンが隠されていると推察されます」

 俺は代表してフェルナンド大尉へ報告し、重ねて言った。

「すぐさま、地下区画を探索し、ダイアメトロンを確保すべきです。不審者が我々に気付いた後では破棄もしくは爆破される可能性が高いと思われます。同時に別分隊による地下区画封鎖を行い、同時に探索分隊の退路を確保すべきと考えます」

 俺が進言するとフェルナンド大尉は渋い表情をしていた。彼も俺の進言は実行すべきと考えてはいるようだが、教官である以前に現役の軍人であり、現有戦力では未知数の敵勢力へ十分に対抗できるか不安を感じているのだろう。

「教官、こうしている間にも不審者たちが何らかの行動を行っていることは明白です。すぐさま行動に移すべきです」

 リリーがフェルナンド大尉へ決断を促すように畳み掛ける。俺と違い、生粋の軍人家系であるリリーやアイザックにとって、あのダイアメトロンの分量は放置できない分量であり、運び忘れるくらいに運び込まれていると仮定しているのだろう。

「教官、俺たちが見た分量だけでも士官学校の校舎を吹き飛ばせる分量は間違いなくありました。この古城を瓦礫に変えるなんて造作もないことはおわかりでしょう?」

 アイザックも真面目な表情で訴えかける。兵器級ダイアメトロンの威力を知っている彼らの言葉は俺が言葉を並べるよりも説得力があるのは間違いない。フェルナンド大尉も戦力不足に不安を感じつつも軍人としての責務で決断したようだ。

「この俺が探索分隊の指揮を執る。オリヴァー、ヴィクトリア、アレクサンダー、フェリクス、俺と共に探索に向かう。アレクサンダーとフェリクスはダイアメトロンの扱い方を理解しているな?」

 決断するとすぐさま人選に入るフェルナンド大尉。技術系人員と護衛戦力をバランス良く選択している。残りの俺、リリー、アイザック、エレノア、セリーナは防衛分隊となるわけだ。

「エドウィン、お前が指揮を執って残りを連れて通路を確保しろ。探索分隊の退路確保はどれだけ重要かよくわかっているな? けしてバラバラで戦うな、敵を倒す必要はない、敵が通路に入ることを阻止することに専念しろ。良いな?」

 フェルナンド大尉が指示を出すと総員敬礼し、それぞれの分隊に別れる。探索と防衛の役割が決まり、それぞれの分隊が行動を開始する。

 俺たち防衛分隊は通路とフロアの確保を任されたが、リリーとアイザックが臨戦態勢で迎撃しやすい位置取りをするべく早速動き出す。

「リリー、アイザック、エレノア、セリーナ、気を引き締めろ。敵が現れたらすぐに知らせてくれ」

 リリーとアイザックは門番ポジションで警戒し、エレノアはフロアを全体を見張り各員の動きをサポート、セリーナは地下区画方向の見張りとして配置する。俺はセリーナの近くで彼女と同じく警戒は位置についているが、全体を把握するため常に視線を動かしている。

「何だか、ここは本当に異常だな」

 通路の先には、薄暗い光が地下区画へつながる階段を照らしていた。そして、探索分隊が先に進む中、俺たちは防戦の構えを取りながら不審者を警戒する。時折聞こえる遠くの音や、初実戦への不安感が皆を緊張させていた。何かが迫っているような感覚が、背中にぞくりと走る。

「エドウィン様、何かの気配を感じませんか?」

 セリーナが俺に尋ねてきた。俺は瞬間的に周囲を感じ、言葉にならない何かを感じ取る。

「敵だろうな。用心してくれ」

 俺の警告と同時に、通路の先から不気味な影が姿を現した。俺たちに近づいてきている。どうやらまだ気付いてはいないが、あちらも警戒しているのだろうか、歩みは遅い。影が次第に近づいてくる。その姿が明らかになるにつれ、俺たちは警戒心を最大限に引き上げていく。

 やがて、姿を視認できる距離に近づいた正体不明アンノウンは帝国軍の軍服を身にまとった兵士たちだった。
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