26 / 49
課外実習
古城-2- ダイアメトロン
しおりを挟む
リリーとアイザックが影を追う中、俺はフェルナンド大尉に報告しようと城内を進んでいた。しかし、心の奥底で何かが起こる前触れを感じていた。
「フェルナンド大尉、お話があります」
大尉は振り返り、こちらに近づいてきた。
「どうした、エドウィン。何か問題があるか?」
フェルナンド大尉は眉をひそめ、俺の言葉を真剣に受け止める。
「まだはっきりとしたことは分からないのですが、先程、城の中庭で不審者を見掛けました。リリーとアイザックが斥候に出向いていますので、追って連絡があるかと」
俺は城内に侵入している可能性があること、リリーとアイザックがその者を追っていることなどを説明した。すると、大尉の表情が一変した。
「不審者か。私も先程から異変が感じてはいた」
フェルナンド大尉が話すと、城内の異変に気づいていたことが明らかになった。俺は驚きを抑えながら、彼に詳細を尋ねた。
「城内のいくつかの場所で、壁に穴が開いている。それに加えて、庭園での植物が切り裂かれている。どうも、これらは管理業者が行ったにしては手荒なそれであるように思える」
フェルナンド大尉の話で俺たちの周囲で何かが起こっていることに確信が持てた。同時にフェルナンド大尉は事態の変化に対処することを選択したらしい。
「エドウィン、お前はリリーとアイザックに合流し、詳細な情報を得てくるがいい。同時に、城内の各所で異変がないか確認してくれ」
「了解しました」
俺はフェルナンド大尉の指示に従い、城内を注意深く観察しつつリリーとアイザックと合流すべく先を急ぐ。途中、隠れるのに丁度良い場所を見つけリリーに連絡する。
「リリー。城内にも異変があるらしい。お前たちの周りはどうだ?」
「アイザックがいくつかの足跡を見つけました。比較的新しいものと古いものとです。しかし、古いといっても年単位で古物ではありません、ここ最近のものです」
リリーからの返答は予想されたものだった。放置されて久しい古城に人の出入りがあれば、必ず痕跡が出てくる。何者かが城内に忍び込んでいて何かを行っていることを示している。
「アシュモア卿、これから如何なさいますか? アイザックは更に先行するか、返事が欲しいようです」
「リリー、アイザックと中庭まで戻ってきてくれ。合流しよう」
「ええ、承りました」
俺はリリーとアイザックに会うため、急いで中庭に向かった。
中庭に到着すると、リリーとアイザックが物陰に隠れているのが見えた。彼らと合流すると、アイザックが手元の地図を広げて話し始めた。
「大将、俺たちは城内の異変を確認してきた。庭園や各部屋で様々な損傷――多くは掠り傷やぶつけた痕跡だな――が見られる。どうも何かを運び込んでいたようだ」
「先程もお話ししまたけれど、足跡が多く残されていました。地下へ続くと思われる通路には大人数の足跡があったのを確認しています
アイザックやリリーの話を聞きながら、俺は心の中で考え込んだ。
――なぜこんな異変が起こっているのか、そしてそれに何かしらの意味があるのか。
同時に、フェルナンド大尉の言葉が頭をよぎった。
――壁に穴が開いている。
どうも、フェルナンド大尉が見つけた痕跡とリリーとアイザックが見つけた痕跡は関係しているようだ。不穏な空気が広がる中、俺はフェルナンド大尉の指示に従い、異変の真相を解明しようとすることにした。
「二人とも、俺たちはこれから情報収集を始める。場合によっては不審者と遭遇するかも知れない。危険だが、俺と一緒に来てくれるか?」
アイザックが地図を指差しながら続けた。
「ここが異変の中心だ。地下室への通路があるエリアだ。荒事なら、俺に任せてくれよ。大将が駄目といっても一緒に行くぜ」
「私もアシュモア卿とともに歩みます。忠犬ならば、主と共にあるのが普通でしょう。ねぇ、アイザック?」
リリーは俺に笑みを見せた後、アイザックに冷たい視線をぶつける。どうやら先日の野戦実習で”忠犬”呼ばわりされた事への意趣返しのようだ。
「おぉ、聞こえてたのか、だが、俺はリリーを表現するのにこれほど良い表現が見当たらないと思っている。命を賭けるとまで言わなくても、大将が危機に陥ったら真っ先に駆けつけようとするだろう?」
「当たり前じゃないですか、何を言っているのですか?」
「そういう反応をするから、忠犬だと表現しているんだがな。まぁ、それ以外の意味もあるけれど、そこはあえて言わん。まぁ、悪い意味で言っているわけじゃないんだ」
リリーは不満げであったが、アイザックはこの上なく良い笑顔で満足そうに頷いている。
「二人が協力的なのは嬉しいのだが、仲違いはしないでくれよ」
俺は二人の反応に苦笑しながらそう言うと、彼らと共に地下室への通路を目指した。不穏な気配が次第に強まり異変の背後には何か大きな陰謀が潜んでいることを感じずにはいられなかった。
俺たちが進む地下室へ続く通路は薄暗く、不気味な雰囲気に包まれていた。足跡や様々な損傷が見受けられ、異変の影響がここまで及んでいることが窺えた。
地下通路の一角に地下牢の詰め所だったのか、少し開けた空間があった。
「少し休憩するか、気を張り続けても疲れるしな。リリーから交代で休みを取ろう。俺とアイザックは歩哨だ」
「ありがとうございます。アシュモア卿、少し待ってください。コーヒーを淹れますから、アイザックも飲むわね?」
「なんだ、機嫌が直ったのか?」
アイザックが茶々を入れる。途端にリリーの表情が曇る。
「そういうことを言うのであれば、あなたには淹れません。アシュモア卿どうぞ」
拗ねたリリーは宣言通り俺にだけコーヒーを渡してくれた。一口飲むと甘さが感じられた。
「いつもより甘いね」
「ええ、これから暫く休憩を取れないでしょうから、糖分をとれるときに取っておくべきかと思いまして」
「そういうことなら、俺も飲みたいな」
「意地悪を言うアイザックには必要かしら?」
リリーはそう言いつつもアイザックにコーヒーを淹れて渡す。
「・・・・・・うっ、苦い。そして恐ろしく甘い。なんだこりゃ」
「あなたにはアシュモア卿のために働いてもらわないといけませんから、特別に糖分を多めに」
「加減ってものがあるだろうって、仕方がないな」
リリーがあっかんべえをしているのを見て、アイザックはささやかな嫌がらせを受け入れて笑い飛ばした。
「でも、あなたがアシュモア卿のために動いてもらわないといけないのは事実、だから、お願い、休めるときに休んで、そしてそのときにこれを食べて」
そう言うとリリーはアイザックに栄養ブロックとゼリー飲料を手渡す。
「なんだ、デレたのか? や、やめろ、俺が悪かった」
アイザックがいらない一言を言ったばかりにリリーがまたへそを曲げたのは言うまでもない。だが、そのときにリリーがアイザックに投げたステンレスコップが空間の隅に置かれていた箱にぶつかった。ステンレスコップの当たり所が良かったのか悪かったのか、箱の留め金が外れ、箱が開いたのである。
「なんだありゃ?」
近くにいたアイザックが覗き込むと、なんとも言えない表情で俺に視線を送る。
「大将、こりゃ、ヤバげな代物ですぜ」
アイザックがそう言って中身を一つ放り投げてきた。受け止めそれを見た俺もどうしたものかという表情になる。怪訝そうな表情のリリーが声を掛けてきた。
「アシュモア卿?」
リリーにヤバげな代物を見せると、彼女もまた渋い表情となる。
「ダイアメトロン、それも兵器用の高純度のインゴットですわね」
「リリー、アイザック、これどうしようか」
俺は半笑いで二人に尋ねるが、こればっかりは三人揃って頭を抱えるしかなかった。
「フェルナンド大尉、お話があります」
大尉は振り返り、こちらに近づいてきた。
「どうした、エドウィン。何か問題があるか?」
フェルナンド大尉は眉をひそめ、俺の言葉を真剣に受け止める。
「まだはっきりとしたことは分からないのですが、先程、城の中庭で不審者を見掛けました。リリーとアイザックが斥候に出向いていますので、追って連絡があるかと」
俺は城内に侵入している可能性があること、リリーとアイザックがその者を追っていることなどを説明した。すると、大尉の表情が一変した。
「不審者か。私も先程から異変が感じてはいた」
フェルナンド大尉が話すと、城内の異変に気づいていたことが明らかになった。俺は驚きを抑えながら、彼に詳細を尋ねた。
「城内のいくつかの場所で、壁に穴が開いている。それに加えて、庭園での植物が切り裂かれている。どうも、これらは管理業者が行ったにしては手荒なそれであるように思える」
フェルナンド大尉の話で俺たちの周囲で何かが起こっていることに確信が持てた。同時にフェルナンド大尉は事態の変化に対処することを選択したらしい。
「エドウィン、お前はリリーとアイザックに合流し、詳細な情報を得てくるがいい。同時に、城内の各所で異変がないか確認してくれ」
「了解しました」
俺はフェルナンド大尉の指示に従い、城内を注意深く観察しつつリリーとアイザックと合流すべく先を急ぐ。途中、隠れるのに丁度良い場所を見つけリリーに連絡する。
「リリー。城内にも異変があるらしい。お前たちの周りはどうだ?」
「アイザックがいくつかの足跡を見つけました。比較的新しいものと古いものとです。しかし、古いといっても年単位で古物ではありません、ここ最近のものです」
リリーからの返答は予想されたものだった。放置されて久しい古城に人の出入りがあれば、必ず痕跡が出てくる。何者かが城内に忍び込んでいて何かを行っていることを示している。
「アシュモア卿、これから如何なさいますか? アイザックは更に先行するか、返事が欲しいようです」
「リリー、アイザックと中庭まで戻ってきてくれ。合流しよう」
「ええ、承りました」
俺はリリーとアイザックに会うため、急いで中庭に向かった。
中庭に到着すると、リリーとアイザックが物陰に隠れているのが見えた。彼らと合流すると、アイザックが手元の地図を広げて話し始めた。
「大将、俺たちは城内の異変を確認してきた。庭園や各部屋で様々な損傷――多くは掠り傷やぶつけた痕跡だな――が見られる。どうも何かを運び込んでいたようだ」
「先程もお話ししまたけれど、足跡が多く残されていました。地下へ続くと思われる通路には大人数の足跡があったのを確認しています
アイザックやリリーの話を聞きながら、俺は心の中で考え込んだ。
――なぜこんな異変が起こっているのか、そしてそれに何かしらの意味があるのか。
同時に、フェルナンド大尉の言葉が頭をよぎった。
――壁に穴が開いている。
どうも、フェルナンド大尉が見つけた痕跡とリリーとアイザックが見つけた痕跡は関係しているようだ。不穏な空気が広がる中、俺はフェルナンド大尉の指示に従い、異変の真相を解明しようとすることにした。
「二人とも、俺たちはこれから情報収集を始める。場合によっては不審者と遭遇するかも知れない。危険だが、俺と一緒に来てくれるか?」
アイザックが地図を指差しながら続けた。
「ここが異変の中心だ。地下室への通路があるエリアだ。荒事なら、俺に任せてくれよ。大将が駄目といっても一緒に行くぜ」
「私もアシュモア卿とともに歩みます。忠犬ならば、主と共にあるのが普通でしょう。ねぇ、アイザック?」
リリーは俺に笑みを見せた後、アイザックに冷たい視線をぶつける。どうやら先日の野戦実習で”忠犬”呼ばわりされた事への意趣返しのようだ。
「おぉ、聞こえてたのか、だが、俺はリリーを表現するのにこれほど良い表現が見当たらないと思っている。命を賭けるとまで言わなくても、大将が危機に陥ったら真っ先に駆けつけようとするだろう?」
「当たり前じゃないですか、何を言っているのですか?」
「そういう反応をするから、忠犬だと表現しているんだがな。まぁ、それ以外の意味もあるけれど、そこはあえて言わん。まぁ、悪い意味で言っているわけじゃないんだ」
リリーは不満げであったが、アイザックはこの上なく良い笑顔で満足そうに頷いている。
「二人が協力的なのは嬉しいのだが、仲違いはしないでくれよ」
俺は二人の反応に苦笑しながらそう言うと、彼らと共に地下室への通路を目指した。不穏な気配が次第に強まり異変の背後には何か大きな陰謀が潜んでいることを感じずにはいられなかった。
俺たちが進む地下室へ続く通路は薄暗く、不気味な雰囲気に包まれていた。足跡や様々な損傷が見受けられ、異変の影響がここまで及んでいることが窺えた。
地下通路の一角に地下牢の詰め所だったのか、少し開けた空間があった。
「少し休憩するか、気を張り続けても疲れるしな。リリーから交代で休みを取ろう。俺とアイザックは歩哨だ」
「ありがとうございます。アシュモア卿、少し待ってください。コーヒーを淹れますから、アイザックも飲むわね?」
「なんだ、機嫌が直ったのか?」
アイザックが茶々を入れる。途端にリリーの表情が曇る。
「そういうことを言うのであれば、あなたには淹れません。アシュモア卿どうぞ」
拗ねたリリーは宣言通り俺にだけコーヒーを渡してくれた。一口飲むと甘さが感じられた。
「いつもより甘いね」
「ええ、これから暫く休憩を取れないでしょうから、糖分をとれるときに取っておくべきかと思いまして」
「そういうことなら、俺も飲みたいな」
「意地悪を言うアイザックには必要かしら?」
リリーはそう言いつつもアイザックにコーヒーを淹れて渡す。
「・・・・・・うっ、苦い。そして恐ろしく甘い。なんだこりゃ」
「あなたにはアシュモア卿のために働いてもらわないといけませんから、特別に糖分を多めに」
「加減ってものがあるだろうって、仕方がないな」
リリーがあっかんべえをしているのを見て、アイザックはささやかな嫌がらせを受け入れて笑い飛ばした。
「でも、あなたがアシュモア卿のために動いてもらわないといけないのは事実、だから、お願い、休めるときに休んで、そしてそのときにこれを食べて」
そう言うとリリーはアイザックに栄養ブロックとゼリー飲料を手渡す。
「なんだ、デレたのか? や、やめろ、俺が悪かった」
アイザックがいらない一言を言ったばかりにリリーがまたへそを曲げたのは言うまでもない。だが、そのときにリリーがアイザックに投げたステンレスコップが空間の隅に置かれていた箱にぶつかった。ステンレスコップの当たり所が良かったのか悪かったのか、箱の留め金が外れ、箱が開いたのである。
「なんだありゃ?」
近くにいたアイザックが覗き込むと、なんとも言えない表情で俺に視線を送る。
「大将、こりゃ、ヤバげな代物ですぜ」
アイザックがそう言って中身を一つ放り投げてきた。受け止めそれを見た俺もどうしたものかという表情になる。怪訝そうな表情のリリーが声を掛けてきた。
「アシュモア卿?」
リリーにヤバげな代物を見せると、彼女もまた渋い表情となる。
「ダイアメトロン、それも兵器用の高純度のインゴットですわね」
「リリー、アイザック、これどうしようか」
俺は半笑いで二人に尋ねるが、こればっかりは三人揃って頭を抱えるしかなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
12
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる