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野戦演習<Ⅱ>

厳しい野戦実習-11-

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 俺たちはなんとか前進してきた第3分隊と合流した。合流してから俺たちは一端、塹壕第二層付近まで見える高台に向かった。

 ここを野営地として状況分析を行うための作戦会議を開いていた。擦り傷や切り傷が多いアイザック、そして同じく擦り傷が目立つリリーは順番に治療を受けていた。治療はセリーナが担っていたが、これも彼女が狩猟や野歩きをして自身が怪我をした際の経験が役に立っている。

 彼女の手当によって、負傷判定機能はアイザックを軽傷判定:中程度、リリーを軽傷判定:軽程度と判定をし直していた。さすがにアイザックの自決間際判定は負傷度合いを中程度にまでしか認めてくれないようだ。

「無人銃座に立ち向かう前に、これを確認しましょう」

 リリーの手当が終わって今は俺がセリーナの手当を受けている。その間もヴィクトリアはこの会議を仕切って対策を協議している。ヴィクトリアはセリーナが解析した資料を広げ、無人銃座の詳細を仲間に説明している。

「これが無人銃座の仕組みよ。距離センサーに反応しているわ。そして、それは従兄様たちの戦闘記録やフェリクスが予測した通りのものだった。ただし、この無人銃座は演習指示書そのものではなく、別の添付資料の紹介記事に書かれておりましたわ」

「つまり、あらかじめ知らされていた内容であったと、そしてその添付資料も全てが注意するべきものであるわけでもない・・・・・・と」

「ええ、そうですわ。実際、全員に聞き取りして各添付資料に遭遇したものとそうでないものを取捨していくとこれが我々の真の敵ということになります」

 ヴィクトリアが示した内容ものは無人銃座だった。そして、それに付随して、いくつかの鉄塔だった。

「この鉄塔がある場所が無人銃座の巣だと私は考えます。そして、その鉄塔から恐らくは導力波が発せられ、それによって行動している。けれど、エレノアの話では導力波は互いに干渉したり障害があると届きにくいという傾向があるそうです。また、複数の機能を同時に作用させるとその傾向が強くなるとのことです。よって、それが無人銃座の弱点と言うことになりますわね」

「確かに僕も無人銃座の動きを見ている限り、無人銃座が来ない場所や引き返す場所があったのは確認している。その死角を突くのは方針として間違っていないと思う」

 フェリクスはヴィクトリアの言葉を肯定しつつも懸念点を示す。

「ただ、問題点がある。同じ場所に複数の無人銃座が集まってきたこともあった。だから、ある程度は弱点に対する対処がされていると思う」

「であれば、実際に無人銃座の行動パターンを把握して行く必要がありますね。分隊を再編制してアレクサンダーをエレノアの代わりに第2分隊に編入して、外れたエレノアは第3分隊で観測を担当してもらうわ。セリーナと一緒に状況分析をしてちょうだい」

 ヴィクトリアの方針に誰も異論を挟まない。今は彼女が言う通りに動くのが最適だと判断したのだろう。俺も異存はない。

「では、第3分隊はここに本陣を置いて本部分隊として第1,第2分隊を指揮するということになるのですね?」

 リリーが確認のために発言し、それをヴィクトリアは頷く。

「現地での指揮は従兄様、オリヴァー様が執るべきと考えますけれど、全体を俯瞰して判断する存在が今は必要でしょう。恐らくこういった戦況の場合、私は足手まといになるでしょう。そして参謀役としてセリーナ、エレノアが戦況分析をすることで全体指揮を執る方が結果的には正解となるのではないかと思うわ。特に第1,第2分隊は実際に戦っているのですから、その点でも現地での行動に無駄が出ないでしょう」

「そういう判断なのであれば従いましょう」

 リリーは納得するとそれに従う旨を明言した。

「他に何かある人はいるかしら?」

「あー、悪いが、フェリクスでもエレノアでも構わないが、ペイント弾を作れるか? あと、ヴィクトリア、セリーナ、エレノアは持っている演習弾と手榴弾を全部俺たち前線部隊に預けて欲しい。正直、弾薬が不足するだろう。後方の本陣が弾薬を使うことがあるなら、その時点で俺たち全体の負けだ。弾薬を遊ばせておく必要はないと思う」

「ええ、それは構わないけれど、ペイント弾は何に使うの?」

「アイザックが言いたいのは、どの無人銃座がどう動くか判別するために必要だってことだよ。正直、僕もあるとありがたいな。僕は生憎持ってきていないけれどエレノア持っているか? なければ、なんか適当な野草をすりつぶしてでっち上げるけれど」

「ありますよ。ただ、5発クリップの6個入りの30発弾薬盒に入っている分だけですよ」

「それだけあれば狙撃手役に一人15発渡せるな。十分だ。外したとしてもなんとかなる数字だろう」

 エレノアは雑嚢から弾薬を全て取り出し確認してから渡す。

「こちらが通常の演習弾、こちらがペイント弾。あと演習用手榴弾もこれで全部です」

 エレノアに続いてヴィクトリアとセリーナも同様に弾薬類を全て第1,第2分隊へ供出する。

「ありがとうな、これで思う存分暴れられるぜ。大将、リリー、第2ラウンドもよろしく頼むぜ」

「アイザック、第2ラウンドはあくまで偵察と分析のためよ。無駄撃ちはいけませんわ」

 リリーがすかさず窘める。だが、リリーもまた戦意が高まっていることが感じられる。

「なぁ、エドウィン、お前さんとこの二人、なんであんなに士気が高いんだ?」

 オリヴァーがそう尋ねるが、アルカイックスマイルでごまかすことにした。うん、かなり微妙な表情になったのは自分でも理解しているが、何も言わないのが正しい選択だと信じたい。

「では、第2ラウンドを始めましょう、総員、状況開始!」

 ヴィクトリアの号令で俺たちは再び動き出した。
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