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もふもふの都開国編
298話 石の都ストーンヴァイス その2
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「価格は気にしなくていいからね」
人生、一度は言ってみたかったセリフである。
手持ちの資金が潤沢にある今だからこそ、もとの世界ではまず口にはできないだろうなと染み染み思う。
今日に至るまで、色々と散在(主に王都滞在時)はしてきたが――まだまだ全然余裕はある。楽しそうにする二人のため、このひと時の思い出を形に残したとして、どこの誰が文句を言うだろうか。
ナコ、ゴザル、どちらも真剣に――選定を始める。
「クーラからのプレゼント、クーラからのプレゼント」
「ソラからのプレゼント、ソラからのプレゼント」
なんか――目がマジである。
気軽に言ったつもりなのだが、ここまで本気になられると――迂闊に声をかけることができない。
妹のショッピングに付き合った時もそうだったが、こういう時は変に声をかけずに見守るが吉だろう。
僕は二人が選び終わるまで、じっと気配を潜めて待つことにする。
「私、これがいいです」
ナコがおずおずと、一つの指輪を指差す。
価格は――5万エドル、なんとも可愛らしいお値段だ。まあ、僕の年齢でもとの世界の金銭感覚に合わすと目ん玉飛び出るレベルだけれど。
黒の鉱石を基調とし、ナコにとてもよく似合っていた。
「はい。僕からプレゼントだよ」
会計を済ませ、ナコに手渡す。
「……」
だが、ナコが――受け取らない。
おねだりするよう、上目遣いで僕を見やる。その仕草から――ナコの求めているものを察する。
僕は地に膝をつけ、ナコの右手を取りながら、
「指輪、僕に嵌めてほしいんだね」
「はい」
「失礼するよ」
「待ってください。左手の薬指が――いいです」
マジでぇっ!
しかし、僕はナコに真剣な気持ちを伝えられている。僕のことが好きだと想いを伝えられているのだ。返事は保留のまま、僕の気持ちが定まっていない状況、軽々しくナコの大事な箇所に――つけてしまっていいものか。
逡巡した僕に対し、ナコが申しわけなさげに、
「……やっぱり、駄目、ですよね」
勇気の込もった一言だったろう。
思わせぶりな態度になるかもしれない。それでも、こんな小さな要望くらい――叶えてあげないでどうする。
僕はナコの左手、薬指にそっと――指輪を嵌める。
「駄目なんかじゃないよ。君がつけてほしいと願うなら――僕はそれに従うまでだ」
「クーラ、結婚指輪と思っていいですか?」
「まだ、そこまでは待って」
「ふふ。冗談です」
ナコが華やかに笑う。
ナコが言うと、冗談に聞こえないが――こんなにも喜んでくれるのならば、贈った甲斐があったというものだ。
もとの世界とは違い、この世界の未来はわからない。
本来は出会うはずのなかった僕とナコ、この奇跡の出会いは――いつか本物をつける日が来ることだってありえるだろう。
ナコの笑顔を見ていると、そんな気がしてならないのであった。
人生、一度は言ってみたかったセリフである。
手持ちの資金が潤沢にある今だからこそ、もとの世界ではまず口にはできないだろうなと染み染み思う。
今日に至るまで、色々と散在(主に王都滞在時)はしてきたが――まだまだ全然余裕はある。楽しそうにする二人のため、このひと時の思い出を形に残したとして、どこの誰が文句を言うだろうか。
ナコ、ゴザル、どちらも真剣に――選定を始める。
「クーラからのプレゼント、クーラからのプレゼント」
「ソラからのプレゼント、ソラからのプレゼント」
なんか――目がマジである。
気軽に言ったつもりなのだが、ここまで本気になられると――迂闊に声をかけることができない。
妹のショッピングに付き合った時もそうだったが、こういう時は変に声をかけずに見守るが吉だろう。
僕は二人が選び終わるまで、じっと気配を潜めて待つことにする。
「私、これがいいです」
ナコがおずおずと、一つの指輪を指差す。
価格は――5万エドル、なんとも可愛らしいお値段だ。まあ、僕の年齢でもとの世界の金銭感覚に合わすと目ん玉飛び出るレベルだけれど。
黒の鉱石を基調とし、ナコにとてもよく似合っていた。
「はい。僕からプレゼントだよ」
会計を済ませ、ナコに手渡す。
「……」
だが、ナコが――受け取らない。
おねだりするよう、上目遣いで僕を見やる。その仕草から――ナコの求めているものを察する。
僕は地に膝をつけ、ナコの右手を取りながら、
「指輪、僕に嵌めてほしいんだね」
「はい」
「失礼するよ」
「待ってください。左手の薬指が――いいです」
マジでぇっ!
しかし、僕はナコに真剣な気持ちを伝えられている。僕のことが好きだと想いを伝えられているのだ。返事は保留のまま、僕の気持ちが定まっていない状況、軽々しくナコの大事な箇所に――つけてしまっていいものか。
逡巡した僕に対し、ナコが申しわけなさげに、
「……やっぱり、駄目、ですよね」
勇気の込もった一言だったろう。
思わせぶりな態度になるかもしれない。それでも、こんな小さな要望くらい――叶えてあげないでどうする。
僕はナコの左手、薬指にそっと――指輪を嵌める。
「駄目なんかじゃないよ。君がつけてほしいと願うなら――僕はそれに従うまでだ」
「クーラ、結婚指輪と思っていいですか?」
「まだ、そこまでは待って」
「ふふ。冗談です」
ナコが華やかに笑う。
ナコが言うと、冗談に聞こえないが――こんなにも喜んでくれるのならば、贈った甲斐があったというものだ。
もとの世界とは違い、この世界の未来はわからない。
本来は出会うはずのなかった僕とナコ、この奇跡の出会いは――いつか本物をつける日が来ることだってありえるだろう。
ナコの笑顔を見ていると、そんな気がしてならないのであった。
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