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火の都サラマン激突編
231話 尻尾のある王様
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ガラスティナ王宮、王の間に僕たちは集う。
現在、ガラスティナ王宮は――家を失ったものたち、被害が甚大だったものに対して受け入れ体制を整えている。
王の間以外、民の避難所として開放されていた。
「すまないな。今王宮内はいっぱいいっぱいで――ここ以外、集まる場所が空いていなかったんだ」
「いえ。王様に謁見するには最適の場かと思います」
僕は片膝をついて敬礼をする。
遅れて、ナコも僕を真似して敬礼をした。ライカは王の間を走り回りながら、いつもと変わらず自由に動いている。
なんていうか、王様に謁見って――男の夢の一つだよね。
異世界を冒険しているという、常識からかけ離れた特別な場所、ファンタジーって感じがして胸に染み染みくるなぁ。
そんな僕に対し、王様は苦笑いしながら、
「面を上げてくれ、そんな形式張ったことはしなくていい。命を救ってくれた恩人、家臣や騎士が周りにいない時くらい――普通に接してくれないか?」
「えっ?!」
「そ、そんなショックそうな顔をしてどうした?」
「あ、こういうシチュエーションに憧れていまして」
「あっはっは。それは――プレイヤーという意味だからか? 隠さなくていい、今日お前たちを呼んだ理由の一つでもある。囚われていた時、ヒオウという女将軍からある程度の話は聞いた」
王様は言う。
「俺はプレイヤーに対して嫌悪感など一つもない。ここは様々な種族が生きる世界、そういったものが来ることだってあるだろう。だがな、プレイヤーにも正義と悪という概念が存在する――違うか?」
「……王様のおっしゃる通りです」
「待て待て。形式張ったことはいいと言っただろう? 敬語もいらない、俺のことも王様じゃなくてだな」
「羊のお兄さん、羊のお兄さんに決定だぁっ!」
ライカが会話に参加してくる。
「さすがに、羊のお兄さんは勘弁してくれないかっ?! 羊の真似が上手い王などどう思う? 民に示しがつかなくなるだろっ!」
「んんー? じゃあ、羊?」
「どこら辺を勘弁したんだっ! 羊から離れろっ!」
「ライカ、真面目な話をしている最中ですよ」
「……ごめんなさぁい」
ナコの一言に、ライカが素直に謝る。
ライカが仲間になった事情はナコに伝え済み――真面目なナコ、適当なライカ、性格的に合わない二人だろうと予想していたのだが、化学反応かというくらいに仲良くやっているのだ。
ナコがライカの両頬を引っ張りながら、
「悪い口はここですか? メッですよっ!」
「ナコちん、怒らないでぇ」
「あっはっは、ライカにも弱点があるんだな。ナコ、お姉さんとしてもっと厳しく注意をしてあげてくれないか」
「一つ違いですが、私の方が年下ですよ」
「嘘、マジでっ?! 年下なのっ!?」
王様が素の表情で叫ぶ。
なんだか、この王様――良い人オーラがすごいな。ナコとライカ、二人を見る時の目が本当に優しく、気さくなお兄さんって感じがする。
王様は仕切り直すよう咳払いを一つし、
「あー、あー、話が脱線したが――まあ、気軽に接してほしい。それと、俺はプレイヤーという存在を信頼できるもの以外に他言する気はない。お前たちも俺の秘密は目にしただろう。お互い様ということで共有し合わないか?」
本題に入ってくる。
しかし、その点は――建前に違いない。僕たちが頷きやすいよう、誘導してくれているのだとわかる。
「共有はこちらもありがたいよ。王様――いえ、なんて呼んだらいいかな?」
「クーラ、お前は話が早くて助かる。ちなみに、プレイヤーとして聞きたい。俺の名前は知っているのか?」
「今の質問の仕方だと、カレアスの方でいいのかな」
「大正解だ。俺はそちらが――本物の名だと自負している」
僕たちのやり取りに、ナコが首を傾げる。
「本物の名とは――どういうことですか?」
「カレアスという名は――俺の母が付けた名前なんだ。公にすることができなくて、俺は父が後から付けた名を名乗っているんだよ」
「んんー、どうしてそんな面倒なことするの?」
ライカもナコに続いて首を傾げる。
ナコはゲーム時の知識がないので、疑問も当然ではあるが――ライカは知っていてもおかしくはない。
持ち前の性格から察するに、ゲーム時のストーリーをスキップするタイプだろう。
素直なライカの反応に、カレアスは深く頷きながら、
「面倒だろう。だがな――世の中というものは、その面倒なことが複雑に重なり合って成り立っているんだ。様々な種族が住んでいる世界、価値観も多々ある。正しいだけでは納得しないものも多い」
カレアスが上着を脱ぐ。
その背中には黄褐色に揺らぐ、まさに王と言わんばかりの――雄々しい尻尾が揺れ動いていた。
「俺の母はミミモケ族、俺は――人族とのハーフなんだよ」
自身の出生を語り始める。
現在、ガラスティナ王宮は――家を失ったものたち、被害が甚大だったものに対して受け入れ体制を整えている。
王の間以外、民の避難所として開放されていた。
「すまないな。今王宮内はいっぱいいっぱいで――ここ以外、集まる場所が空いていなかったんだ」
「いえ。王様に謁見するには最適の場かと思います」
僕は片膝をついて敬礼をする。
遅れて、ナコも僕を真似して敬礼をした。ライカは王の間を走り回りながら、いつもと変わらず自由に動いている。
なんていうか、王様に謁見って――男の夢の一つだよね。
異世界を冒険しているという、常識からかけ離れた特別な場所、ファンタジーって感じがして胸に染み染みくるなぁ。
そんな僕に対し、王様は苦笑いしながら、
「面を上げてくれ、そんな形式張ったことはしなくていい。命を救ってくれた恩人、家臣や騎士が周りにいない時くらい――普通に接してくれないか?」
「えっ?!」
「そ、そんなショックそうな顔をしてどうした?」
「あ、こういうシチュエーションに憧れていまして」
「あっはっは。それは――プレイヤーという意味だからか? 隠さなくていい、今日お前たちを呼んだ理由の一つでもある。囚われていた時、ヒオウという女将軍からある程度の話は聞いた」
王様は言う。
「俺はプレイヤーに対して嫌悪感など一つもない。ここは様々な種族が生きる世界、そういったものが来ることだってあるだろう。だがな、プレイヤーにも正義と悪という概念が存在する――違うか?」
「……王様のおっしゃる通りです」
「待て待て。形式張ったことはいいと言っただろう? 敬語もいらない、俺のことも王様じゃなくてだな」
「羊のお兄さん、羊のお兄さんに決定だぁっ!」
ライカが会話に参加してくる。
「さすがに、羊のお兄さんは勘弁してくれないかっ?! 羊の真似が上手い王などどう思う? 民に示しがつかなくなるだろっ!」
「んんー? じゃあ、羊?」
「どこら辺を勘弁したんだっ! 羊から離れろっ!」
「ライカ、真面目な話をしている最中ですよ」
「……ごめんなさぁい」
ナコの一言に、ライカが素直に謝る。
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「一つ違いですが、私の方が年下ですよ」
「嘘、マジでっ?! 年下なのっ!?」
王様が素の表情で叫ぶ。
なんだか、この王様――良い人オーラがすごいな。ナコとライカ、二人を見る時の目が本当に優しく、気さくなお兄さんって感じがする。
王様は仕切り直すよう咳払いを一つし、
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「共有はこちらもありがたいよ。王様――いえ、なんて呼んだらいいかな?」
「クーラ、お前は話が早くて助かる。ちなみに、プレイヤーとして聞きたい。俺の名前は知っているのか?」
「今の質問の仕方だと、カレアスの方でいいのかな」
「大正解だ。俺はそちらが――本物の名だと自負している」
僕たちのやり取りに、ナコが首を傾げる。
「本物の名とは――どういうことですか?」
「カレアスという名は――俺の母が付けた名前なんだ。公にすることができなくて、俺は父が後から付けた名を名乗っているんだよ」
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ナコはゲーム時の知識がないので、疑問も当然ではあるが――ライカは知っていてもおかしくはない。
持ち前の性格から察するに、ゲーム時のストーリーをスキップするタイプだろう。
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「面倒だろう。だがな――世の中というものは、その面倒なことが複雑に重なり合って成り立っているんだ。様々な種族が住んでいる世界、価値観も多々ある。正しいだけでは納得しないものも多い」
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その背中には黄褐色に揺らぐ、まさに王と言わんばかりの――雄々しい尻尾が揺れ動いていた。
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自身の出生を語り始める。
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