上 下
176 / 358
火の都サラマン激突編

175話 まさかの出戻り

しおりを挟む
 ライカが意識を取り戻し、触手に縛られた状態で暴れ回る。

「リボル、なんだこのフザケたピンク頭の子供は? 我の興を削ぎおって――まずはこいつから殺しても問題ないか」
「ああ、別に構わないよ」

 フレイムドルフのあり得ない要望。
 リボルが即答したことに――その発言をしたフレイムドルフ自身も一瞬驚いた表情を見せた。
 無論、ライカは目を見開きながら、

「えっ? こ、殺す? う、嘘だよねぇ、マスターっ!」
「嘘じゃない。ライカ、あっさりやられちゃってさ――君はもう用済みだ」
「な、なんで、なんでそんなひどいこと、言うのっ? ライカは、ずっと、マスターのために」
「あっはっは。そういうのいらないよ」

 リボルがライカに近寄り、髪を引っ張り上げる。

「負けたんだろ? 弱いやつは俺のギルドにはいらない」
「う、嘘、だぁっ! マスターがそんな、こと、言うわけないもんっ!」
「ライカ、現実を見なよ。何度でも言ってやる――弱いやつはいらない、君はもういらないんだ」
「……ぃ、いやだぁ、見捨てないでっ! 見捨てないでっ!!」

 ライカが泣き叫ぶ。
 それは見ていて――胸が締め付けられる光景だった。リボルのことを親同然に慕っていたのだろう。
 僕は触手を解除、ライカが自由に動けるようにするが――精神的ショックによるものなのか、微動だにしない。
 ライカは顔をぐしゃぐしゃに――その場で涙を流し続ける。

「くっくっく。ピンク頭、主人を見る目がなかったと後悔するのだな」
「う、あぁっ! マスター、マスター!」

 振り下ろされた狂剣を――僕は籠手で受け止める。
 その衝撃にて大量の血が口から噴き出す。腹部の損傷は紙を貼り付けたくらいの治療しか済んでいない。

「……触術師クーラ、まだ動けたか」

 動けたんじゃない――動いたんだ。
 もう僕の身体はとっくに限界を超えている。いつ意識を失ってあの世に旅立ってもおかしくないレベルだ。それでも、ここで立ち上がらなくては――死んでも後悔する。
 動く原動力はただ一つ、怒りの感情以外になかった。
 泣いている女の子を、放置することなどできようか? 
 見た目は女性であれど――僕は男だ、男なのだ。

「ライカ、逃げろ、逃げるんだっ!」
「な、なんで? クーラ、お姉さん?」
「今、敵味方は関係ない――黙って君が死ぬのを見たくなかった」
「うぅ、うぅあうっ」

 ライカの走り去る音が響く。
 忍者ならば、全力で逃げれば追い付けるジョブは少ない。こんな形でしか守れなかったけれど――生き延びることを願うばかりだ。
 剣の重圧に負け、僕は膝を付く。

「バカを一人逃したところで、なにがどうなるというのだ? お前のやっていることはよくわからんな」
「男なら当然の行いだよ」
「ますます意味がわからん。お前との話はもう十分だ――さっさと死ね」

 フレイムドルフが再度剣を振り上げる。

「ライカ、戻って来たよぉっ!」

 その時、ライカの声が背後から響き渡った。
 まさかの即出戻り、予想外の展開に――皆の動きが静止する。フレイムドルフすらポカンとした表情をしていた。

「ライカも、ライカもね、クーラお姉さんに死んで欲しくないって思ったぁっ! だったら、助けるしかないって考えたのっ!!」

 ライカが上空に跳躍し――印を結ぶ。
 ま、マジで? 助けようという気持ちは素直に嬉しいけれど――何故、戻って来ちゃったんだ? この強者揃いの面子に生半可な忍術では焼け石に水、一体どう道を切り開こうというのだ? 
 僕はライカの手の動きを見やる。

「狐、懇懇、懇々懇っ!」

 いや、なんの印だ、これ? この印は僕の記憶になかった。

「忍者ライカ、超越者スキル"禁術"――口寄せ、九尾ぃいいっ!」

 ライカが天高く指を掲げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

世界最強の底辺ダンジョン配信者、TS転生した後に配信した結果あまりの強さと可愛さに大バズりしてしまう

リヒト
ファンタジー
冥層。それは現代に突然現れたダンジョンの中で人類未踏の地として定められている階層のこと。 だが、そんな階層で一人の高校生である影入秋斗が激闘を繰り広げていた。地力では敵のドラゴンよりも勝っていたもの、幾つかのアクシデントが重なった為に秋斗はドラゴンと相打ちして、その命を閉ざしてしまう。 だが、その後に秋斗はまさかの美少女としてTS転生してしまう!? 元は唯の陰キャ。今は大人気陰キャ女子。 配信でも大バズり、女子高にまで通い始めることになった彼、もとい彼女の運命は如何にっ!

処理中です...