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火の都サラマン激突編

165話 己を鼓舞しろ

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 激突時、一瞬の攻防戦。
 僕はフレイムドルフの体内に触手を侵入させていたのだ。指先から最短距離にて人体の中心に――心臓へと進ませて行った。

「……がぁ、あっ!」

 フレイムドルフが飛び散る鮮血の勢いのまま後方によろめく。
 僕たちの勝利――そう断言していいはずだった。なのに、僕はありえない光景を目の当たりにしている。
 フレイムドルフは膝を地に付けることもなく呟く。

「……これが触術師の真髄というわけか。触手が体内に入ったことを気付くものはまずいないだろうな」
「君は、気付いたというのか?」
「我も気付いていない――直感だ。心臓部に絡んだ異物、命に触れた脅威、自身を信じて防御のみに集中したのだ」

 フレイムドルフは鎧を脱ぎ捨て、

「心臓部に届いた触手のみ――魔力操作、筋肉を収縮させて巨大化を防いだ。数秒遅れていたら全ては覆っていただろう。ここまでの傷を負ったのはいつぶりか、あまりの血の熱さに驚いている」

 フレイムドルフが抉れた胸もとに手を置く。
 大ダメージには違いないが、こいつの動きを封じるまでは――いたらなかった。一撃で仕留めなければ意味はなかったのだ。
 フレイムドルフ相手に――奇襲は二度も通用しない。
 僕はナコとゴザル、二人に視線を送る。
 逃げてくれという合図、ゴザルならば汲み取ってくれるだろう。
 フレイムドルフが天高く剣を掲げ、

「万策尽きたといった顔だな。触術師クーラ、お前との邂逅――生涯我の記憶に残しておいてやろう。仲間の壮大な裏切りによって死ぬものよ、最後に言い残すことはあるか?」
「僕はニャニャンを信じている」
「お人好しの馬鹿がいたと伝えておいてやろう――死ねっ!」


 ――暗波っ!


「雷の刃――稲妻っ!」

 ゴザルがナコの暗波を足場に加速――間に割って入った。
 フレイムドルフの剣を受け止め、一心不乱に守りの態勢に入る。
 いつものゴザルとは打って変わって、その背中は弱々しく感じた。

「ゴザルっ?! ナコを連れて逃げてくれっ!!」
「いや、いやよっ!」

 ゴザルは感情を露わに叫ぶ。

「私が狼狽えたせいで――ごめんなさい。先頭を行くって言ったのに、私は全然約束を守れていない」
「武者ゴザルと戦えるのは、我とて願ってもないが――万全であれば尚よかった。仲間の裏切り、心のダメージは回復したのか?」
「……回復なんてしていない。今だってずっと、心の中がモヤモヤしてる。泣き出しそうなくらいに――胸が痛い」
「ならば、何故我に立ち向かおうとする」
「私は、私は、ソラをこんなところで失うことの方が――遥かにいやなのよっ!」

 ゴザルが剣を弾き返した。
 力の競り合いで押し負けたことに、フレイムドルフが驚愕の表情を見せる。
 その隙を見逃さず、ゴザルが追撃の嵐――フレイムドルフが後退していく。

「ナコちゃん、ソラをお願いっ!」
「はいっ!」
「立ち直れ、立て直せ、私なら――できる」

 ゴザルは刀を構え直し、真っ直ぐに標的を捉えながら、

「強い、強い、強い強い強いっ! 私は、強いのよっ! 最強だっ! こんな心のモヤモヤ、無理矢理にでも消し去ってみせるっ!! かかって来い、かかって来なさいっ! オンリー・テイル最強の武者ゴザルが――あなたに引導を渡すっ!!」

 自身を鼓舞するよう、高らかに吼えた。
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