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火の都サラマン激突編

164話 黄金の弾丸

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「はっはっはっ! 防戦一方で道は切り開けぬぞっ!!」

 速い、速すぎる。
 傀儡糸による強化、僕は触診を視神経にまで張り巡らせる。触手を体内に侵入させる余裕などなく、攻撃を回避することのできるギリギリのライン――こいつは間違いなく遊んでいる。

 何故なら、フレイムドルフには――超越者に似たスキルがあるからだ。
 正確にはボス固有のスキルというべきか。つまり、フレイムドルフは本気をだしていないということになる。
 その固有スキルの名を――"王炎ぎょくえん"といった。

 せめて、このスキルだけは直接目に収めておきたい。今、ゴザルとナコは僕の戦いを遠くから見ている。
 仮に僕が死んだとて――次に繋がる未来があればいい。

「お前は我が全力ではないことは理解しているだろう。少しくらいは我を退屈させぬよう足掻いてみせたらどうだ」
「ああ、君の望みを叶えよう」

 傀儡糸の段階を跳ね上げる。
 強制的な魔力の浸透に、拒否反応を起こしてか四肢が跳ねる。
 触手を体内に侵入させる隙がないのであれば――無理やりにでもぶち込め。

「行くぞ、フレイムドルフっ!」

 僕は床を蹴り飛ばし、全身を浮かばせる。
 自ら逃げ場のない空中に、フレイムドルフが明らかに落胆した様子を見せた。
 もう僕と会話する意味もないと、剣を構えて一刀両断の態勢を取っている。

「なにをするかと思えば自殺か? 時間の無駄だったな――お前はもういらん」

 溜めに溜めた斬撃。
 その絶命必至の一撃を――僕は足もとに触手をバネ状に展開、高速で軌道を変更して回避する。この初見殺しの曲芸技、傀儡糸の状態で行えばどうなる?

 僕は四方八方、展開を繰り返して撹乱する。
 その速度は弾丸のごとく――動きは跳弾に等しいだろう。入れ替わる視界の中、フレイムドルフは魅入られたような顔付きで立ち尽くしていた。

「これは美しい。触術師クーラ、お前の残像がまるで――黄金が煌めいているようではないか」

 僕という弾丸がフレイムドルフを捉える。
 この速度で当たれば――双方無事には済まないだろう。だが、僕という弾丸が尽きたとしても勝利に近付く道となる。
 必ず、ゴザルたちが――続いてくれる。
 激突する直前、フレイムドルフが剣を交差させ――吼えた。
 それはまさに獣の咆哮にも似た猛々しい雄叫びだった。

「"王炎"!」

 なんの躊躇いもなく、フレイムドルフが固有スキルを発動した。
 全身から火山のように赤いオーラが噴き上がり、僕の魔力感知でもわかるほど爆発的にフレイムドルフの魔力量が上昇していた。
 ゲーム時の効果と同じ、自身の限界を超えるスキル。
 オンリー・テイルの世界に置いて魔力量は全ジョブ共通というルールをフレイムドルフは凌駕したのだ。
 魔力は身体能力、スキルの威力、全てに通ずる土台である。
 その土台が広がるということは、バフのような小さい強化ではなくなる。今、この瞬間フレイムドルフは――人知を超えた存在となった。
 僕の必死の一撃は、一振りのもとに弾き飛ばされる。

「……素晴らしい、素晴らしいぞ」

 フレイムドルフが恍惚な表情で言う。

「今の刹那、身体が震えに震えた。我が命の危険を感じ取ったのだ。我も惜しむことなく応じるしか術はなかったぞ」

 狂っている。
 この命のやり取りに――こいつは歓喜しているのだ。
 戦闘狂の王、その称号をありのまま体現していた。

「しかし、楽しい時間も終わりとなるか」

 フレイムドルフが剣を構え、ゆっくりとこちらに歩み寄る。

「触術師クーラよ、最後の輝き見事であったぞ。せめてもの褒美だ、苦しませぬよう一刀のもとに葬り去ってやろう」
「そんなご褒美は全力で遠慮したいね」
「くっくっく、我の手によって殺されることを誇りに思うのだな」

 今の激突により、僕の全身は悲鳴を上げていた。
 確実に色々な箇所が損傷、触診で完全回復させる魔力も残っていない。
 だが、僕の狙いは最後の最後まで一つだったのだ。

「残念ながら、まだ終わっていないよ」
「我は無傷、お前は満身創痍の状態だぞ。ここからなにがどう変わる? なにをどうすることができる?」
「君の命に迫ることくらいはできる」

 裂、触手を巨大化させる。
 フレイムドルフの鎧が破裂し――胸から鮮血が飛び散った。
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