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火の都サラマン激突編
163話 揺れ動く世界
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「ゴザル、今は深呼吸をして――ゆっくりと態勢を整えていてほしい」
「……ソラ」
「ナコを連れて、僕から離れていて」
「ごめん、なさい」
「謝る必要なんてない。仲間を想う気持ちが強いのは尊いことだよ」
傀儡糸。
僕は開幕から全力に近い状態、全身の動きを強化する。フレイムドルフ、こいつに関しては様子を見るなどという甘い考えを持ってはいけない。
ディスク1枚目、2枚目のラスボスなのだ。
ゲーム時、どれほどの苦労をして倒したことか――それほどに、フレイムドルフという男は強いのだ。
人間の領域を超えた存在、世界を変える力を持つものである。
「触術師クーラ、我もこの奇怪なジョブと戦うのは初だぞ」
「フレイムドルフ、君は魔法剣士だったな」
「ああ。お前は我の持つ全てを知り尽くしているのだろう? どのようなスキルを使うのか、どのような切り札を持っているのか。こんな面白い戦いがあるか? 前哨戦という言葉は撤回しよう」
フレイムドルフが剣を両手に構える。
「プレイヤー、我を楽しませてくれ」
炎を纏った一振り。
恐るべきスピード、重たく響く斬撃、触手など容易く斬り裂いてしまうだろう。籠手による防御――火花が飛び散る。
「はっはっはっ! 頑丈な装備ではないか? 普通ならば、今ので腕ごと落ちていてもおかしくはないのだぞっ!!」
魔力操作に関しても一流、格上だということを一瞬にして理解させられる。
だが、僕は触術師――人間に対しては、全てを破壊できるスキルを持っているのだ。僕のやることは単純明快、一ミリの隙も逃さず掻い潜れ。
やつの体内に触手を侵入させて――殺す。
「さあ、ギアを上げていくぞ。付いて来れるか?」
「……っ!」
「"ブースト"! "ファイアクス"! "ミラージュ"! 我は燃え盛る、お前はこの爆炎の前に塵となって消えるがよいっ!!」
魔法剣士の持つスキル、対象のステータスを一時的に強化するバフだ。
フレイムドルフはそれを全て――自身に付与、重ねがけ、メインのキャラクターが魔法剣士だった僕は効果を即座に識別する。
ブーストは単純な全身強化だが、ファイアクスとミラージュが危ない、ファイアクスは火属性の威力をアップ、ミラージュは攻撃の際に残像を作り出す。
そして、その残像は実体と変わらず――実質攻撃回数が増えるに等しい。
「行くぞ、触術師クーラっ!」
長剣2本の一振りが分裂する。
純粋に威力は倍と化し、籠手による防御の上から全身に鈍いダメージが響いていく。大都市で手に入れた古代武器でなければ――籠手はすでに木っ端微塵、僕の全身は斬り刻まれていただろう。
先ほどの初撃より――威力、速度共に段違いであった。
「……白龍の騎士に指示を与えたのは君だろう? それをニャニャンが倒した、この意味は一体なんだったんだ?」
「くくく、時間稼ぎのつもりか? それもまたよかろう。乗ってやるぞ、知るということは大事なことだ。知らずして逝けば未練も残るだろう」
フレイムドルフが剣を床に突き刺す。
両手を広げ、要塞全体を見回し――悪魔のような笑みを浮かべた。それはまるで自身の思い描くなにかを見ているかのようだった。
フレイムドルフはグッと両の拳を握り込みながら、
「簡単なこと、白龍の騎士などただの捨て駒にすぎぬ。王都との連絡網、今の我にはどうでもいい話なのだ。お前はこの要塞を見て気付かなかったか?」
「オンリー・テイルの世界にしては近代的だとは思った」
あくまで、許容範囲のレベル。
イレシノンテ地下の大都市に比べれば、まだまだ驚くほどでもない。
だが、今の些細な会話の中に真実は混じっているのだろう。
フレイムドルフは僕の答えに満足気に頷きながら、
「素晴らしい線をいっている。聡明なやつは好きだぞ」
「遠回しな言い回しだね」
「くっくっく。我はすでに遥か先のステップに進んでいるということだ。あまり話しすぎては――『協力者』に怒られてしまうのでな。最後に一つだけ教えてやろう」
フレイムドルフが剣を抜く。
「ストーリーの流れを封じたと、お前たちは意識させられていただけだ。同じ知識を持ったプレイヤーが我の方に付く可能性も考えるべきだったな」
世界は想像以上に――よからぬ方向へと傾いていた。
「……ソラ」
「ナコを連れて、僕から離れていて」
「ごめん、なさい」
「謝る必要なんてない。仲間を想う気持ちが強いのは尊いことだよ」
傀儡糸。
僕は開幕から全力に近い状態、全身の動きを強化する。フレイムドルフ、こいつに関しては様子を見るなどという甘い考えを持ってはいけない。
ディスク1枚目、2枚目のラスボスなのだ。
ゲーム時、どれほどの苦労をして倒したことか――それほどに、フレイムドルフという男は強いのだ。
人間の領域を超えた存在、世界を変える力を持つものである。
「触術師クーラ、我もこの奇怪なジョブと戦うのは初だぞ」
「フレイムドルフ、君は魔法剣士だったな」
「ああ。お前は我の持つ全てを知り尽くしているのだろう? どのようなスキルを使うのか、どのような切り札を持っているのか。こんな面白い戦いがあるか? 前哨戦という言葉は撤回しよう」
フレイムドルフが剣を両手に構える。
「プレイヤー、我を楽しませてくれ」
炎を纏った一振り。
恐るべきスピード、重たく響く斬撃、触手など容易く斬り裂いてしまうだろう。籠手による防御――火花が飛び散る。
「はっはっはっ! 頑丈な装備ではないか? 普通ならば、今ので腕ごと落ちていてもおかしくはないのだぞっ!!」
魔力操作に関しても一流、格上だということを一瞬にして理解させられる。
だが、僕は触術師――人間に対しては、全てを破壊できるスキルを持っているのだ。僕のやることは単純明快、一ミリの隙も逃さず掻い潜れ。
やつの体内に触手を侵入させて――殺す。
「さあ、ギアを上げていくぞ。付いて来れるか?」
「……っ!」
「"ブースト"! "ファイアクス"! "ミラージュ"! 我は燃え盛る、お前はこの爆炎の前に塵となって消えるがよいっ!!」
魔法剣士の持つスキル、対象のステータスを一時的に強化するバフだ。
フレイムドルフはそれを全て――自身に付与、重ねがけ、メインのキャラクターが魔法剣士だった僕は効果を即座に識別する。
ブーストは単純な全身強化だが、ファイアクスとミラージュが危ない、ファイアクスは火属性の威力をアップ、ミラージュは攻撃の際に残像を作り出す。
そして、その残像は実体と変わらず――実質攻撃回数が増えるに等しい。
「行くぞ、触術師クーラっ!」
長剣2本の一振りが分裂する。
純粋に威力は倍と化し、籠手による防御の上から全身に鈍いダメージが響いていく。大都市で手に入れた古代武器でなければ――籠手はすでに木っ端微塵、僕の全身は斬り刻まれていただろう。
先ほどの初撃より――威力、速度共に段違いであった。
「……白龍の騎士に指示を与えたのは君だろう? それをニャニャンが倒した、この意味は一体なんだったんだ?」
「くくく、時間稼ぎのつもりか? それもまたよかろう。乗ってやるぞ、知るということは大事なことだ。知らずして逝けば未練も残るだろう」
フレイムドルフが剣を床に突き刺す。
両手を広げ、要塞全体を見回し――悪魔のような笑みを浮かべた。それはまるで自身の思い描くなにかを見ているかのようだった。
フレイムドルフはグッと両の拳を握り込みながら、
「簡単なこと、白龍の騎士などただの捨て駒にすぎぬ。王都との連絡網、今の我にはどうでもいい話なのだ。お前はこの要塞を見て気付かなかったか?」
「オンリー・テイルの世界にしては近代的だとは思った」
あくまで、許容範囲のレベル。
イレシノンテ地下の大都市に比べれば、まだまだ驚くほどでもない。
だが、今の些細な会話の中に真実は混じっているのだろう。
フレイムドルフは僕の答えに満足気に頷きながら、
「素晴らしい線をいっている。聡明なやつは好きだぞ」
「遠回しな言い回しだね」
「くっくっく。我はすでに遥か先のステップに進んでいるということだ。あまり話しすぎては――『協力者』に怒られてしまうのでな。最後に一つだけ教えてやろう」
フレイムドルフが剣を抜く。
「ストーリーの流れを封じたと、お前たちは意識させられていただけだ。同じ知識を持ったプレイヤーが我の方に付く可能性も考えるべきだったな」
世界は想像以上に――よからぬ方向へと傾いていた。
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