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王都突入編
119話 ディスク1枚目
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「キャロルさんっ!」
僕はキャロルさんに駆け寄る。
荒い呼吸、紅潮した頬、痛みに耐え切れないのか――口角からは一筋の糸が垂れ下がっていた。
「あっはっは。痛みが度を越して死ぬことだってある。小鬼ちゃん、君には少し耐え難い苦痛だったかな」
キャロルさんが顔を上げる。
その表情は苦悶に満ち――いや、なんかものすごい恍惚な表情をしていた。キャロルさんは切なげなため息を一つ吐き、
「ふぁあ、快感なのです」
――「「「えっ?!」」」
思わず、敵対している相手とハモってしまう。
「こ、これは驚いたな。クーラ、君の仲間だけあって特殊じゃないか。今の一言は想像もできなかったよ」
「ゃ、やばいって。さすがのライカも言葉失っちゃったぁ」
二人がドン引きしている。
僕はキャロルさんのこういった兆候を見てきたため、なんというかすぐに納得できてしまった。
キャロルさんは口もとを手で拭い取りながら、
「残念ながら、自分には効かないのです」
「……いやいや、別の意味で効いてはいただろう? さすがの俺も興醒めだ、完全に空気が一変してしまったじゃないか」
「もう帰ろうよぉ。マスターもこの国での目的は達成したでしょ」
「そうだな。別れる前に――クーラ、俺とフレンド登録をしないか」
リボルが言う。
「安心しろ、君は現在地を設定で隠してもいいさ。だが、俺は隠さない。俺を殺したくなったらいつでも訪ねて来てくれよ。その都度、君を勧誘する機会が増えるということだからね」
僕はその挑発に――乗った。
正直、今はリボルに勝てるイメージが浮かばない。だからといって、情報もないまま野放しにしておくには危険すぎる。
リボルは僕の名前が入った登録リストを笑顔で眺めながら、
「フレンド登録のお礼に一つ有益な話をしよう」
「ライカ帰りにアイス食べたいなぁ」
「はいはい、俺の話が終わってからね。クーラ、君はこの世界が――オンリー・テイルの世界が今どの時間軸にいるか考えたことはあるかな?」
「時間、軸?」
「ゲーム時はストーリーがあっただろう。オンリー・テイルのディスクは全部で5枚まで発売されていた。俺のようなヘビーユーザーはとっくに終盤までクリアし、アップデートによる追加要素を待っている状況だったけれどね」
リボルは人差し指を立てながら、
「この世界の時間軸がディスク1枚目だったとしたらどうする?」
始まりのディスク。
かなり古い記憶になるが、まだオンリー・テイルが発売された当初のことだ。オンラインゲームの初期にはあるあるの戦闘バランス、ジョブ格差、どう足掻いても勝てないボス等のバグが満載の時期である。
ディスク1枚目のストーリー、何年も前にプレイしただけあって――すぐに思い出すことはできない。
記憶を深く掘り返してみる必要があった。
「俺からは以上、言葉の意味をよく考えてみるといい」
そう言い残し、リボルたちは目の前から姿を消した。
僕はキャロルさんに駆け寄る。
荒い呼吸、紅潮した頬、痛みに耐え切れないのか――口角からは一筋の糸が垂れ下がっていた。
「あっはっは。痛みが度を越して死ぬことだってある。小鬼ちゃん、君には少し耐え難い苦痛だったかな」
キャロルさんが顔を上げる。
その表情は苦悶に満ち――いや、なんかものすごい恍惚な表情をしていた。キャロルさんは切なげなため息を一つ吐き、
「ふぁあ、快感なのです」
――「「「えっ?!」」」
思わず、敵対している相手とハモってしまう。
「こ、これは驚いたな。クーラ、君の仲間だけあって特殊じゃないか。今の一言は想像もできなかったよ」
「ゃ、やばいって。さすがのライカも言葉失っちゃったぁ」
二人がドン引きしている。
僕はキャロルさんのこういった兆候を見てきたため、なんというかすぐに納得できてしまった。
キャロルさんは口もとを手で拭い取りながら、
「残念ながら、自分には効かないのです」
「……いやいや、別の意味で効いてはいただろう? さすがの俺も興醒めだ、完全に空気が一変してしまったじゃないか」
「もう帰ろうよぉ。マスターもこの国での目的は達成したでしょ」
「そうだな。別れる前に――クーラ、俺とフレンド登録をしないか」
リボルが言う。
「安心しろ、君は現在地を設定で隠してもいいさ。だが、俺は隠さない。俺を殺したくなったらいつでも訪ねて来てくれよ。その都度、君を勧誘する機会が増えるということだからね」
僕はその挑発に――乗った。
正直、今はリボルに勝てるイメージが浮かばない。だからといって、情報もないまま野放しにしておくには危険すぎる。
リボルは僕の名前が入った登録リストを笑顔で眺めながら、
「フレンド登録のお礼に一つ有益な話をしよう」
「ライカ帰りにアイス食べたいなぁ」
「はいはい、俺の話が終わってからね。クーラ、君はこの世界が――オンリー・テイルの世界が今どの時間軸にいるか考えたことはあるかな?」
「時間、軸?」
「ゲーム時はストーリーがあっただろう。オンリー・テイルのディスクは全部で5枚まで発売されていた。俺のようなヘビーユーザーはとっくに終盤までクリアし、アップデートによる追加要素を待っている状況だったけれどね」
リボルは人差し指を立てながら、
「この世界の時間軸がディスク1枚目だったとしたらどうする?」
始まりのディスク。
かなり古い記憶になるが、まだオンリー・テイルが発売された当初のことだ。オンラインゲームの初期にはあるあるの戦闘バランス、ジョブ格差、どう足掻いても勝てないボス等のバグが満載の時期である。
ディスク1枚目のストーリー、何年も前にプレイしただけあって――すぐに思い出すことはできない。
記憶を深く掘り返してみる必要があった。
「俺からは以上、言葉の意味をよく考えてみるといい」
そう言い残し、リボルたちは目の前から姿を消した。
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