上 下
119 / 358
王都突入編

119話 ディスク1枚目

しおりを挟む
「キャロルさんっ!」

 僕はキャロルさんに駆け寄る。
 荒い呼吸、紅潮した頬、痛みに耐え切れないのか――口角からは一筋の糸が垂れ下がっていた。

「あっはっは。痛みが度を越して死ぬことだってある。小鬼ちゃん、君には少し耐え難い苦痛だったかな」

 キャロルさんが顔を上げる。
 その表情は苦悶に満ち――いや、なんかものすごい恍惚な表情をしていた。キャロルさんは切なげなため息を一つ吐き、

「ふぁあ、快感なのです」

 ――「「「えっ?!」」」

 思わず、敵対している相手とハモってしまう。

「こ、これは驚いたな。クーラ、君の仲間だけあって特殊じゃないか。今の一言は想像もできなかったよ」
「ゃ、やばいって。さすがのライカも言葉失っちゃったぁ」

 二人がドン引きしている。
 僕はキャロルさんのこういった兆候を見てきたため、なんというかすぐに納得できてしまった。
 キャロルさんは口もとを手で拭い取りながら、

「残念ながら、自分には効かないのです」
「……いやいや、別の意味で効いてはいただろう? さすがの俺も興醒めだ、完全に空気が一変してしまったじゃないか」
「もう帰ろうよぉ。マスターもこの国での目的は達成したでしょ」
「そうだな。別れる前に――クーラ、俺とフレンド登録をしないか」

 リボルが言う。

「安心しろ、君は現在地を設定で隠してもいいさ。だが、俺は隠さない。俺を殺したくなったらいつでも訪ねて来てくれよ。その都度、君を勧誘する機会が増えるということだからね」

 僕はその挑発に――乗った。
 正直、今はリボルに勝てるイメージが浮かばない。だからといって、情報もないまま野放しにしておくには危険すぎる。
 リボルは僕の名前が入った登録リストを笑顔で眺めながら、

「フレンド登録のお礼に一つ有益な話をしよう」
「ライカ帰りにアイス食べたいなぁ」
「はいはい、俺の話が終わってからね。クーラ、君はこの世界が――オンリー・テイルの世界が今どの時間軸にいるか考えたことはあるかな?」
「時間、軸?」
「ゲーム時はストーリーがあっただろう。オンリー・テイルのディスクは全部で5枚まで発売されていた。俺のようなヘビーユーザーはとっくに終盤までクリアし、アップデートによる追加要素を待っている状況だったけれどね」

 リボルは人差し指を立てながら、

「この世界の時間軸がディスク1枚目だったとしたらどうする?」

 始まりのディスク。
 かなり古い記憶になるが、まだオンリー・テイルが発売された当初のことだ。オンラインゲームの初期にはあるあるの戦闘バランス、ジョブ格差、どう足掻いても勝てないボス等のバグが満載の時期である。
 ディスク1枚目のストーリー、何年も前にプレイしただけあって――すぐに思い出すことはできない。
 記憶を深く掘り返してみる必要があった。

「俺からは以上、言葉の意味をよく考えてみるといい」

 そう言い残し、リボルたちは目の前から姿を消した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

世界最強の底辺ダンジョン配信者、TS転生した後に配信した結果あまりの強さと可愛さに大バズりしてしまう

リヒト
ファンタジー
冥層。それは現代に突然現れたダンジョンの中で人類未踏の地として定められている階層のこと。 だが、そんな階層で一人の高校生である影入秋斗が激闘を繰り広げていた。地力では敵のドラゴンよりも勝っていたもの、幾つかのアクシデントが重なった為に秋斗はドラゴンと相打ちして、その命を閉ざしてしまう。 だが、その後に秋斗はまさかの美少女としてTS転生してしまう!? 元は唯の陰キャ。今は大人気陰キャ女子。 配信でも大バズり、女子高にまで通い始めることになった彼、もとい彼女の運命は如何にっ!

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...