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クエスト攻略ランクアップ編
41話 休暇 その3
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時刻はお昼ごろ。
なにを食べようかと街中を見て回っている最中、二人同時に目を引かれたお店の前で立ち止まる。
ウィンウィンは海が近いだけあって、魚メインの料理屋さんが多い。
ここはお店の前に巨大魚が吊るし上げられており、豪快な宣伝方法と呼び込みの店員さんの今が旬ですよという魅惑の言葉に誘われて入店した。
店内は広くお客さんも多い、メニューの品数も豊富だ。
このお店は大当たりかもしれないと、食べる前から評論家ばりの「ほほぅ」が僕の口から飛び出してしまう。
例の巨大魚セットを2つ注文、僕はメニュー表を挟んでナコの顔を覗き込み、
「ナコさん、お酒飲んでもいいですか?」
「お昼から飲むんですか?」
「だ、駄目かな」
「酔い潰れるまではメッ! ですよ」
「やったーっ!」
「ふふ。クーラ、ご飯の時間になると――すごい幸せそうな顔しますよね」
「そ、そうかな」
確かに、食事は作ることも食べることも大好きだ。
休日は美味しそうなお店がないかスマホで検索したり、実際に食べ歩きなどはよくしていた。
今となっては異界の地――見たことのない食材ばかりなので、どんな味がするのだろうと性格的に気になって仕方のない部分はあったりする。
無論、お酒もそうだ。
好きなものは試してみたい。僕はメニュー表の写真にある『ウィール』、明らかにもとの世界でいうビールらしきものを選択、ナコも一緒に炭酸的なジュースを頼んだ。
注文したものが揃い二人で乾杯、早速とばかりに僕はウィールを口に運ぶ。
「んんー、これがオンリー・テイルのお酒かぁ!」
「お味の方はどうでしたか?」
「ちょっと甘みがあるビールって感じ」
普通に美味しい。
シュワッと爽快感溢れる気持ちのいい喉越し、ほどよい苦味の中に隠れた甘みがある。
ウィンウィンならではの味わいだろうか? 地ビール的で楽しい、これはまた他国のお酒も色々と嗜んでみたいなぁ。
続けて、巨大魚を頬張る。
切り身がムニエルのように調理されており、ねっとりとしてコクがあってウィールにとても合う。飲んで食べてと手がとまらない、ついつい笑顔になってしまう。
そんな僕の姿が気になったのか、
「クーラ、私も一口だけ飲んじゃ駄目ですか?」
「えー、お酒はまだナコには早いよ」
でも、ナコの気持ちはわかる。
僕も子供のころ楽しそうに飲んでいる両親の姿を見て、一口飲みたいとせがんでいた記憶がある。
ナコが舌をチロっとだしながら、
「ペロッとするだけですから」
「うーん」
「がっはっは。嬢ちゃんたち、ウィンウィンは10歳から飲めるよっ! 小さいころから飲んでるやつが多いもんで酒豪ばっかさーっ!! ウィールは度数も低いし初酒には持ってこいよぉっ!」
僕たちの会話が聞こえたのか、隣席の酔っ払ったおじさんが言う。
年齢制限は多少違うだろうと予想はしていたが、もとの世界とのあまりの差に驚いてしまう。
まあ、難しいことは考えず――今いる世界、国に倣うのもありかな。
「一口だけだからね」
「はいっ!」
ナコがウィールを口に運ぶ。
コクリと喉を通る音、それを皮切りに――コクコクゴキュんッ!
……ちょ、ナコさん勢いがいいね?
制止する間もなく、半分くらい残っていたウィールが一気に空になる。
「嬢ちゃん、飲みっぷりが最高だなーっ! こりゃ将来有望だっ!!」
その光景を見ていたおじさんが笑い飛ばす。
「もう一杯いくかぁ? 初酒祝いにご馳走するよっ!」
「こらぁ、ご馳走している場合じゃないでしょうがっ! ダーリン、油売ってなにしてんのさ?!」
突然の一喝。
いつの間にかおじさんの後ろ、ものすごい殺気を放った女性が立っていた。
おじさんはその女性を見るや否やガタガタと震え出し、
「おひょー! ハニーっ?! 鬼の形相してどうしたんだぁっ!」
「昼から急ぎの仕事があるって伝えてたろ?! さては忘れてたね!!」
「……ぁ、あと一杯だけ」
「ほら、ダーリン! さっさと帰って支度するよっ!!」
愛情溢れる呼び方とは裏腹に、耳を引っ張られながらおじさんが退店する。
ご夫婦の事情はさて置き、ナコは大丈夫だろうか? 空になったウィールを手に、固まったまま微動だにしない。
ナコの顔を覗き込むと、頬を朱色にうつらうつらとしながら、
「クーラ。このジュース、美味しい、、です」
「お酒だよ」
「頭をなでなでして、、ください」
「ナコさん、酔ってる?」
「酔ってない! 少し、寂しい気分になっただけだもん」
ナコがゆっくりと目を瞑る――寝落ちしたようだ。
お酒のせいで人恋しさがでたのか、僕だって寂しい時があるのだからナコはなおさらだろう。
ナコは芯が強く気丈に見えるが、甘えたい年ごろなのは間違いない。
「……クーラ、どこにも行かないで」
「あはは、可愛い酔い方だ」
どこにも行かないで、か。
この平和な時間がいつまでも続いてほしい、そう願いながら――寝ているナコの頭をそっとなでた。
なにを食べようかと街中を見て回っている最中、二人同時に目を引かれたお店の前で立ち止まる。
ウィンウィンは海が近いだけあって、魚メインの料理屋さんが多い。
ここはお店の前に巨大魚が吊るし上げられており、豪快な宣伝方法と呼び込みの店員さんの今が旬ですよという魅惑の言葉に誘われて入店した。
店内は広くお客さんも多い、メニューの品数も豊富だ。
このお店は大当たりかもしれないと、食べる前から評論家ばりの「ほほぅ」が僕の口から飛び出してしまう。
例の巨大魚セットを2つ注文、僕はメニュー表を挟んでナコの顔を覗き込み、
「ナコさん、お酒飲んでもいいですか?」
「お昼から飲むんですか?」
「だ、駄目かな」
「酔い潰れるまではメッ! ですよ」
「やったーっ!」
「ふふ。クーラ、ご飯の時間になると――すごい幸せそうな顔しますよね」
「そ、そうかな」
確かに、食事は作ることも食べることも大好きだ。
休日は美味しそうなお店がないかスマホで検索したり、実際に食べ歩きなどはよくしていた。
今となっては異界の地――見たことのない食材ばかりなので、どんな味がするのだろうと性格的に気になって仕方のない部分はあったりする。
無論、お酒もそうだ。
好きなものは試してみたい。僕はメニュー表の写真にある『ウィール』、明らかにもとの世界でいうビールらしきものを選択、ナコも一緒に炭酸的なジュースを頼んだ。
注文したものが揃い二人で乾杯、早速とばかりに僕はウィールを口に運ぶ。
「んんー、これがオンリー・テイルのお酒かぁ!」
「お味の方はどうでしたか?」
「ちょっと甘みがあるビールって感じ」
普通に美味しい。
シュワッと爽快感溢れる気持ちのいい喉越し、ほどよい苦味の中に隠れた甘みがある。
ウィンウィンならではの味わいだろうか? 地ビール的で楽しい、これはまた他国のお酒も色々と嗜んでみたいなぁ。
続けて、巨大魚を頬張る。
切り身がムニエルのように調理されており、ねっとりとしてコクがあってウィールにとても合う。飲んで食べてと手がとまらない、ついつい笑顔になってしまう。
そんな僕の姿が気になったのか、
「クーラ、私も一口だけ飲んじゃ駄目ですか?」
「えー、お酒はまだナコには早いよ」
でも、ナコの気持ちはわかる。
僕も子供のころ楽しそうに飲んでいる両親の姿を見て、一口飲みたいとせがんでいた記憶がある。
ナコが舌をチロっとだしながら、
「ペロッとするだけですから」
「うーん」
「がっはっは。嬢ちゃんたち、ウィンウィンは10歳から飲めるよっ! 小さいころから飲んでるやつが多いもんで酒豪ばっかさーっ!! ウィールは度数も低いし初酒には持ってこいよぉっ!」
僕たちの会話が聞こえたのか、隣席の酔っ払ったおじさんが言う。
年齢制限は多少違うだろうと予想はしていたが、もとの世界とのあまりの差に驚いてしまう。
まあ、難しいことは考えず――今いる世界、国に倣うのもありかな。
「一口だけだからね」
「はいっ!」
ナコがウィールを口に運ぶ。
コクリと喉を通る音、それを皮切りに――コクコクゴキュんッ!
……ちょ、ナコさん勢いがいいね?
制止する間もなく、半分くらい残っていたウィールが一気に空になる。
「嬢ちゃん、飲みっぷりが最高だなーっ! こりゃ将来有望だっ!!」
その光景を見ていたおじさんが笑い飛ばす。
「もう一杯いくかぁ? 初酒祝いにご馳走するよっ!」
「こらぁ、ご馳走している場合じゃないでしょうがっ! ダーリン、油売ってなにしてんのさ?!」
突然の一喝。
いつの間にかおじさんの後ろ、ものすごい殺気を放った女性が立っていた。
おじさんはその女性を見るや否やガタガタと震え出し、
「おひょー! ハニーっ?! 鬼の形相してどうしたんだぁっ!」
「昼から急ぎの仕事があるって伝えてたろ?! さては忘れてたね!!」
「……ぁ、あと一杯だけ」
「ほら、ダーリン! さっさと帰って支度するよっ!!」
愛情溢れる呼び方とは裏腹に、耳を引っ張られながらおじさんが退店する。
ご夫婦の事情はさて置き、ナコは大丈夫だろうか? 空になったウィールを手に、固まったまま微動だにしない。
ナコの顔を覗き込むと、頬を朱色にうつらうつらとしながら、
「クーラ。このジュース、美味しい、、です」
「お酒だよ」
「頭をなでなでして、、ください」
「ナコさん、酔ってる?」
「酔ってない! 少し、寂しい気分になっただけだもん」
ナコがゆっくりと目を瞑る――寝落ちしたようだ。
お酒のせいで人恋しさがでたのか、僕だって寂しい時があるのだからナコはなおさらだろう。
ナコは芯が強く気丈に見えるが、甘えたい年ごろなのは間違いない。
「……クーラ、どこにも行かないで」
「あはは、可愛い酔い方だ」
どこにも行かないで、か。
この平和な時間がいつまでも続いてほしい、そう願いながら――寝ているナコの頭をそっとなでた。
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