34 / 387
クエスト攻略ランクアップ編
34話 風の都ウィンディア・ウィンド
しおりを挟む
氷迷宮ホワイト・ホワイトを通過。
一週間ほどグリーンラム草原を旅し、僕たちはウィンディア・ウィンドへとたどり着いた。
手持ちの食料は三日ほどで底を尽き、羊を狩りながら現地調達という実にワイルドな行程であったが――無事到着したことに安堵する。
ウィンディア・ウィンドは海を主とする都市だ。
大きな海を中心に街並みを広げているだけあって、海に関することを生業にしているものが多い。
オンリー・テイルの世界自体、剣と魔法のファンタジーを題材としたもの。
海賊なども存在するし、海にまつわるモンスターも大量にいる。一筋縄ではいかない海、その名を『蒼龍海』と称されていた。
この海の先に、王都エレメントがある。
「クーラ、クーラ、見てください」
入り口付近に並ぶ店の一角をナコが指差す。
そこにはなんと、アイスクリーム店があった。この海に面したウィンディア・ウィンドは基本的な気温が高く、常に春と夏くらいの温度を行き来している。
ここなら年中売上はよさそうだ、地方にあった名物なのかもしれない。
ナコが指をもじもじとさせながら、
「……クーラ、駄目ですか?」
「きゃわわっ! すいません、ケースごとください」
「私とクーラ、2個で十分ですよ」
「2個ください」
「あいよっ! 毎度ありっ! お嬢ちゃんたち、アイスが珍しいなんてウィンウィンは初めてかい? サービスしとくよ、楽しんでいきなっ!」
ウィンウィン、地元ならではの略称かな。
正直なところ、アイスが珍しいというよりは――もとの世界の食べものに懐かしさを感じた、というのが正しいだろう。
アイスがあるということは他にも色々似た食べものがあるかもしれない。もうすでにウィンウィンに来てワクワクしている自分がいた。
「お待ちどぉさま、また来てくれよなっ!」
中々迫力のあるアイスである。
豪快な三段重ね、トリプルにサービスしてくれた店主さんにお礼を言い――僕たちは街中を歩んで行く。
注意深く周辺を観察してみたが、ウィンディア・ウィンド――ウィンウィンまでは手配書は出回っていないようだ。
この様子ならそこまで警戒する必要はないだろう。
ナコがウィンウィンの街中を見渡しながら、
「今のアイスの店主さんもそうですが、ここの国はミミモケ族が普通に生活しているんですね」
「ウィンウィンはね、三国の中では種族による差別が一番ない国なんだ。国王が素晴らしい価値観の持ち主ってのが理由としては大きいかな」
「ミミモケ族の皆さん、全員この国に移住しては駄目なんですか?」
「生まれた場所、市民権、様々な縛りがあるんだよ。単純に移住したから普通の暮らしが保証されるってわけじゃないんだ。仮に全てのミミモケ族が一つの国に一気に集中したとしても受け入れるのは厳しいと思う」
「……私の考えが甘すぎました」
「そんなことないよ、僕だってゲームの時は簡単に考えていた。今この目で直接見ているからこそ色々な部分が見えてくる。どうにかしたいってナコの優しい気持ちは絶対に無駄になんかならない」
ウィンウィンの国王はすごい手腕だ。
古くから根付いている制度を少しずつ取り除き、住民が笑顔で過ごせる環境を目に見える範囲で堅実に構築しつつあるのだから。
念のため、今の僕とナコは帽子をかぶって移動している。
日差しの強いウィンウィンでは自然な風貌に見えるだろう。特に水着をメイン装備にしている僕は周囲の溶け込み方が半端ない。
ここでやることはたくさんあるが、その前にまずは拠点地を探さねばならない。
今夜の宿はどこにしようと周囲を見回している最中、
「クーラの方はどんな味がするんですか?」
「気になる? どうぞ」
「……ぁ、ありがとうございます。クーラも私の方、食べてみますか?」
「じゃあ、もらおうかな」
ナコとアイスを交換。
口にしようとした瞬間、激しい視線を感じる。
「ナコ、そんなに見つめてどうしたの?」
「えっ?! なんでも、ないです」
「あはは、僕がいっぱい食べないように見張ってたのかな」
「ち、違います。なんだか、デートみたいだなって」
「んんっ?!」
危うく、アイスを落としかけた。
な、なんて大人びた発言! 今の僕ではどこをどう捉えても仲良し姉妹に見えるくらいが精一杯だろう。
……ナコが上目遣いに僕を見やる。
その愛らしい仕草はまるで、僕の次の言葉を期待しているかのよう感じ得た。ナコがどんな気持ちでデートと言ったのかはわからない。好奇心、ドラマのワンシーンを想像しただけなのかもしれない。
理由はなんにせよ、ナコの気持ちを無下にするわけにはいかない。
「うん、間接キスだね」
「……っっっ?!」
ナコの表情が一瞬にして真っ赤に染まる。
なんという大失態、アイスを口に含んだら頭に思い浮かんだ言葉がそのまま飛び出てしまった。
結果から突っ走るのは僕の悪い癖だ――バカバカぁっ!
……というか、僕自身胸を張るような異性との恋愛経験ってないからなぁ。
デートらしく振る舞おうにも、どうしたらいいのかわからない。
自慢じゃないが、妹と二人でお出かけした回数の方が多いだろう。妹は度々デートと言い張っていたがノーカウントである。
しばしの沈黙、僕はこの絶妙な空気を払拭するべく、
「ナコ、今夜はあそこに泊まろうか」
「ひゅぇっ? お、とと、お泊りですかっ?!」
絶対に受け取り方のニュアンス違うよね。
よさそうな宿屋が目に入ったので、話の転換含め提案してみたのだが――タイミング的にミスった感が半端ない。
僕は正直に尋ねてみる。
「……ナコさん、どんな勘違いをしてます?」
「ぉ、お友達に借りた少女漫画で読みました。今夜は泊まろうからの、あれがこうなってああなって、押し倒されて胸がキュンって」
しどろもどろ。
ナコがくるくると髪の毛を指でいじりながらポツポツと言う。あまりの過激な内容に僕の思考が追い付かなかったが、一つだけ理解できた点がある。
今の漫画って――進んでるんだな。
一週間ほどグリーンラム草原を旅し、僕たちはウィンディア・ウィンドへとたどり着いた。
手持ちの食料は三日ほどで底を尽き、羊を狩りながら現地調達という実にワイルドな行程であったが――無事到着したことに安堵する。
ウィンディア・ウィンドは海を主とする都市だ。
大きな海を中心に街並みを広げているだけあって、海に関することを生業にしているものが多い。
オンリー・テイルの世界自体、剣と魔法のファンタジーを題材としたもの。
海賊なども存在するし、海にまつわるモンスターも大量にいる。一筋縄ではいかない海、その名を『蒼龍海』と称されていた。
この海の先に、王都エレメントがある。
「クーラ、クーラ、見てください」
入り口付近に並ぶ店の一角をナコが指差す。
そこにはなんと、アイスクリーム店があった。この海に面したウィンディア・ウィンドは基本的な気温が高く、常に春と夏くらいの温度を行き来している。
ここなら年中売上はよさそうだ、地方にあった名物なのかもしれない。
ナコが指をもじもじとさせながら、
「……クーラ、駄目ですか?」
「きゃわわっ! すいません、ケースごとください」
「私とクーラ、2個で十分ですよ」
「2個ください」
「あいよっ! 毎度ありっ! お嬢ちゃんたち、アイスが珍しいなんてウィンウィンは初めてかい? サービスしとくよ、楽しんでいきなっ!」
ウィンウィン、地元ならではの略称かな。
正直なところ、アイスが珍しいというよりは――もとの世界の食べものに懐かしさを感じた、というのが正しいだろう。
アイスがあるということは他にも色々似た食べものがあるかもしれない。もうすでにウィンウィンに来てワクワクしている自分がいた。
「お待ちどぉさま、また来てくれよなっ!」
中々迫力のあるアイスである。
豪快な三段重ね、トリプルにサービスしてくれた店主さんにお礼を言い――僕たちは街中を歩んで行く。
注意深く周辺を観察してみたが、ウィンディア・ウィンド――ウィンウィンまでは手配書は出回っていないようだ。
この様子ならそこまで警戒する必要はないだろう。
ナコがウィンウィンの街中を見渡しながら、
「今のアイスの店主さんもそうですが、ここの国はミミモケ族が普通に生活しているんですね」
「ウィンウィンはね、三国の中では種族による差別が一番ない国なんだ。国王が素晴らしい価値観の持ち主ってのが理由としては大きいかな」
「ミミモケ族の皆さん、全員この国に移住しては駄目なんですか?」
「生まれた場所、市民権、様々な縛りがあるんだよ。単純に移住したから普通の暮らしが保証されるってわけじゃないんだ。仮に全てのミミモケ族が一つの国に一気に集中したとしても受け入れるのは厳しいと思う」
「……私の考えが甘すぎました」
「そんなことないよ、僕だってゲームの時は簡単に考えていた。今この目で直接見ているからこそ色々な部分が見えてくる。どうにかしたいってナコの優しい気持ちは絶対に無駄になんかならない」
ウィンウィンの国王はすごい手腕だ。
古くから根付いている制度を少しずつ取り除き、住民が笑顔で過ごせる環境を目に見える範囲で堅実に構築しつつあるのだから。
念のため、今の僕とナコは帽子をかぶって移動している。
日差しの強いウィンウィンでは自然な風貌に見えるだろう。特に水着をメイン装備にしている僕は周囲の溶け込み方が半端ない。
ここでやることはたくさんあるが、その前にまずは拠点地を探さねばならない。
今夜の宿はどこにしようと周囲を見回している最中、
「クーラの方はどんな味がするんですか?」
「気になる? どうぞ」
「……ぁ、ありがとうございます。クーラも私の方、食べてみますか?」
「じゃあ、もらおうかな」
ナコとアイスを交換。
口にしようとした瞬間、激しい視線を感じる。
「ナコ、そんなに見つめてどうしたの?」
「えっ?! なんでも、ないです」
「あはは、僕がいっぱい食べないように見張ってたのかな」
「ち、違います。なんだか、デートみたいだなって」
「んんっ?!」
危うく、アイスを落としかけた。
な、なんて大人びた発言! 今の僕ではどこをどう捉えても仲良し姉妹に見えるくらいが精一杯だろう。
……ナコが上目遣いに僕を見やる。
その愛らしい仕草はまるで、僕の次の言葉を期待しているかのよう感じ得た。ナコがどんな気持ちでデートと言ったのかはわからない。好奇心、ドラマのワンシーンを想像しただけなのかもしれない。
理由はなんにせよ、ナコの気持ちを無下にするわけにはいかない。
「うん、間接キスだね」
「……っっっ?!」
ナコの表情が一瞬にして真っ赤に染まる。
なんという大失態、アイスを口に含んだら頭に思い浮かんだ言葉がそのまま飛び出てしまった。
結果から突っ走るのは僕の悪い癖だ――バカバカぁっ!
……というか、僕自身胸を張るような異性との恋愛経験ってないからなぁ。
デートらしく振る舞おうにも、どうしたらいいのかわからない。
自慢じゃないが、妹と二人でお出かけした回数の方が多いだろう。妹は度々デートと言い張っていたがノーカウントである。
しばしの沈黙、僕はこの絶妙な空気を払拭するべく、
「ナコ、今夜はあそこに泊まろうか」
「ひゅぇっ? お、とと、お泊りですかっ?!」
絶対に受け取り方のニュアンス違うよね。
よさそうな宿屋が目に入ったので、話の転換含め提案してみたのだが――タイミング的にミスった感が半端ない。
僕は正直に尋ねてみる。
「……ナコさん、どんな勘違いをしてます?」
「ぉ、お友達に借りた少女漫画で読みました。今夜は泊まろうからの、あれがこうなってああなって、押し倒されて胸がキュンって」
しどろもどろ。
ナコがくるくると髪の毛を指でいじりながらポツポツと言う。あまりの過激な内容に僕の思考が追い付かなかったが、一つだけ理解できた点がある。
今の漫画って――進んでるんだな。
21
お気に入りに追加
413
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました
八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。
乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。
でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。
ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。
王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。
暁月ライト
ファンタジー
魔王を倒し、邪神を滅ぼし、五年の冒険の果てに役割を終えた勇者は地球へと帰還する。 しかし、遂に帰還した地球では何故か三十年が過ぎており……しかも、何故か普通に魔術が使われており……とはいえ最強な勇者がちょっとおかしな現代日本で無双するお話です。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる