上 下
32 / 358
氷迷宮の迷い子編

32話 蘇生魔法

しおりを挟む
「ぃ、生きてるー」
「リーナ、過去に死ぬことを考えていた人の一言とは思えないよ」
「クーちゃんの意地悪、そこツッコまないでよー。いやぁ、ここまで生を実感したのは初めてだって」

 キャンプ地に戻り、僕たちは戦闘後の休息を取っていた。
 魔核を用いてダンジョンを通過する話はさて置き、メインはもちろん要塞型ゴーレムの話であった。

 ボス戦ならぬ強敵を倒したあとはそれを話のタネにする。ここら辺はゲームの時と変わらないなと苦笑した。
 ナコは疲れ切ったのだろう、今は僕の肩に頭を乗せて熟睡している。

「まあ、無事に皆で生きて帰ることができて嬉しいよ」
「えぇー、クーちゃんがその締めの言葉言っちゃうー?! 開幕早々完全に逝っちゃったのクーちゃんだと思ったからね」

 リーナが呆れた顔で言い返す。

「アイテムボックスの反応から察するに、要塞型ゴーレムの起動条件は魔核をいくつか集めることだったんだろうね」
「……ごめんね。リーナがあんな場所を案内したせいで」

 リーナが弱々しく顔を俯かせる。

「リーナはなにも悪くない、色々な偶然が重なった結果だよ」
「やっぱりそう思う? そうだよねー、リーナもそう思ってた」

 切り替えがとってもスピーディ。

「あーでもさ、魔核全部使っちゃったから集め直さないといけないよねー」
「問題ないよ。代わりにこれが手に入ったからね」

 僕はアイテムボックスから、大きい魔核を取り出す。
 要塞型ゴーレムの魔核を貫いた時、代用できると考えて入手しておいたのだ。衝撃によっていくつかに分離されてしまったが、その内の一つでもバスケットボールほどの大きさがあるので集めていた魔核の総量くらいにはなるだろう。
 リーナは両手で魔核を持ち上げ、マジマジと見つめながら、

「なんか赤みが通常より濃いねー。保有してる魔力量が段違いなのかな」
「間違えても今パイロキネシスしないでね」
「なんかそう言われると、しなきゃいけない使命感がモリモリ溢れ出しちゃう」
「ナコだけ抱えて全力で離脱するよ」
「リーナは置き去り確定なんだーっ?!」
「とりあえず、魔核については心配しなくていいよ。繋がれていた鎖の一部も持って来たけど――リーナいる?」
「んんー、気持ちだけ受け取っておこうかな。今はリーナがアイテム持っていても仕方ないし、二人の報酬にしといてー」

 この鎖も『シークレット』のドロップ品みたいなものだ。
 気になって拾ってはきたものの、こういった謎アイテムは鑑定しないとわからない。ウィンディア・ウィンドについたら鑑定士に依頼してみるか――レア素材とかだったら嬉しいなぁ。

「じゃあ、明日は予定通り決行日だね。クーちゃんたちは、ウィンディア・ウィンドに到着したあとはどうするのー?」
「王都に行くつもりだよ」
「リーナも転生してからはまだ直接行ったことないけど、訪れる価値は絶対にあると思うー。情報の最先端は間違いなく王都に集まるだろうからね。でもでも、王都までの道のりには“必須事項”があるけど大丈夫ー?」
「もちろん。その上で王都には必ず行く、大事な仲間がいるんだ」
「プレイヤーサーチしたのー?」
「サーチしたら二人だけ見つかったよ」
「そっか、それはクーちゃんのためにオンにしてるのかもね。すごく仲間思いの人たちじゃないー」
「僕のためにオンにしてる?」
「クーちゃん、まだそこら辺も知らない感じかー。仕方ないなぁ、転生者の大先輩としてリーナが手取り足取り優しく教えてあげる」

 リーナが一つのウィンドウを表示させる。

「プライバシー管理は知ってるでしょ?」
「自身のプレイ状況を細かく設定するところだよね」

 プライバシー管理。
 オンライン状態を隠匿したり、サーチ検索禁止など細かい設定が可能となる欄だ。ひっそりソロ活動したい時など、オフにして楽しむこともできた。
 そこら辺に関してはスルーしていたな。
 リーナがウィンドウをポチポチとタップしながら、

「その設定はね、この世界にも適用できるんだ。プレイヤーサーチに引っかからないよう、基本的には自身の居場所はオフにしておいたほうがいい。余程の理由がない限りデメリットでしかないからねー。そこでさっきの話に繋がるわけ、クーちゃんの仲間は故意にオンにしているはずだよ。そうそう、そこをそうしてこうして、あとで黒猫ちゃんにも教えてあげてねー」

 オンオフを切り替えられる。
 だとすると、ニャニャンやゴザルさんがこの世界に来ている可能性も――あるのか?
 僕はリーナに倣って、プライバシー管理をオススメ設定にしていく。

「名前のスペルを知られていなかったら問題ないんだけど、黒猫ちゃんやクーちゃんはそのまま読む感じだからわかっちゃうよねー。あとはフレンドリスト、今後はこっちをメインに心から信頼できる人だけ集める方がいいよ。フレンドリストは個別に細かく設定できるんだー」

 出会った相手がリーナだからこその――優しさの詰まった情報である。
 出会う順番が違っていたら、僕のこれからは大きく変動したことだろう。
 僕は素直な気持ちをリーナに伝える。

「リーナ、君に出会えてよかった」
「きゅ、急にどうしたのさ? そんな面と向かって言われると、さすがのリーナも照れちゃうよ? ほらほら続き、クーちゃん知らないこと多いんだから、今日は徹夜になっちゃうかなー?」

 徹夜でも問題ない。
 命を賭した激戦後は興奮冷めやらぬ、まだまだ睡魔の来る気配はなかった。
 少しずつ、夜が更けていく。
 話も終わりに近付いた頃合い、僕はリーナに最後の質問をする。



「リーナ、この世界に蘇生魔法はあるのかな?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

処理中です...