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魔法少女遭遇編

16話 お風呂で自白

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「はぁ~」

 僕は星空を見上げながら、ゆっくりと息を吐き出す。
 ミミさんの案内してくれたお風呂は、いわゆる露天風呂であった。広々とした大浴場的な大きさで、村の人が男女ごとに時間をわけて入浴しているらしい。
 それを今は僕たちのため貸し切りに、感謝の気持ちでいっぱいである。

「ふぁあ~、気持ちいい」

 勝手に声が漏れる。
 もとの世界では毎日入っていたお風呂だが、オンリー・テイルに来てからは初入浴だったりする。可能であればこちらでも常時清潔にできる環境は取り入れたい、今後の課題として対策を練っておこう。
 僕は湯船に浮かぶ自身を見つめながら、

「おっぱいが2つかぁ」

 いやまあ、男の時も2つあったよ? 
 正直、今の自分の身体にいやらしい気持ちなどは微塵もわかない。
 むしろ、女性として意識が少しずつ塗り替えられていないか怖い部分もある。
 ミミさんを見て美人だなぁと思う感情はあるので、全然大丈夫だとは思うけどちょっと心配だな。
 王都に着いたら、試しに女の子のいる飲み屋さんでも行ってみるか?

「……おっと、早く上がらないとだった」
「クーラお姉ちゃん、やっぱり私も一緒にいいですか?」

 その声に振り向くと、ナコちゃんがタオルを身体に巻いて立っていた。

「や、ナコちゃん、僕はもうでるから」

 なにを僕は動揺している。
 裸とはいっても、ナコちゃんは小学五年生だぞ?!
 不意打ちとはいえ一瞬ドキッと高鳴った胸、男の本能が反応したことには少し安堵する。

「私と入るのはいやですか?」
「そんなイエスかノーの極端な話じゃなくてね」

 僕は視線をはずし、湯船に深く沈み込む。
 先ほどまで、どちらが先に入浴するか話し合っていたのだが――ナコちゃんとミミさんは一緒でいいのでは? と、いった流れを僕が遠回しに断ったのだ。

 無論、僕はナコちゃんのあとでいいと言ったのだが――ナコちゃんがそれを頑なに許さず。あとか先かの話が平行線になったので、僕が折れて早上がりしようとしたわけだ。
 背後からナコちゃんのぴたぴたという足音が響き、

「身体に付いた血だけ流してきますね」
「……うん」

 速攻で風呂場を飛び出すか?
 一瞬そう考えたが、ナコちゃんの今の問いかけのあとにそんなことはできない。
 イエスと捉えられてしまう。

「お待たせしました。隣、いいですか?」
「……ど、どうぞ」

 ピタッと。
 ナコちゃんが真横に密着してくる。何故、こんな素肌が擦り合うような距離感でくるのかね? 
 ミミモケ族とはいっても耳と尻尾があること以外人間と変わらない、ふにふにとした肌の感触が女の子らしさを主張してくる。

 ……や、柔らかぁっ!

 昔はよく妹と一緒にお風呂に入っていただろう、落ち着こうか僕。
 妹と思えばなんら意識することはない。

「お風呂、気持ちいいですね」
「ソウダネ、キモチイネ」
「クーラお姉ちゃん? さっきからなんでずっと固くなっているんですか?」

 言い方ぁっ!
 当たり前だが、ナコちゃんは僕を女性と認識している。
 いや、本当にまずいって。
 僕が男であるという真実を早くカミングアウトせねばならない。

 先に真実を伝えていれば、こういったシチュエーションは起こり得なかった。

 しかしながら、もうすでにこの状況――八方塞がりである。
 タイミングってどこぉ? 
 もう一生伝えられる気がしないんですけど。
 途方に暮れる僕、ナコちゃんは水面に映る自分を見ながら、

「……猫耳と尻尾が自分にあるなんて不思議な感覚です。お顔の方はいつも通りなので安心しますが」
「もしかして、カメラ機能で作成した?」
「えっと、キャラクター作成のやり方があまりわからなくて『簡単カメラ認識』というのを使いました」

 ナコちゃんは言う。
 簡単カメラ認識とはゲーム機に付いている内蔵カメラを連動させ、写した自身をベースとして自動でキャラクターを作成してくれる機能である。
 つまり、猫要素以外の容姿は現実のナコちゃんをそのまま写し取った形になるのだろう。
 まさに美少女、リアルでもモテる子だったろうなぁ。

「家族が――お姉ちゃんがずっと一緒にプレイしようって言ってくれてまして、私が高学年に上がったのを機にやってみようと思ったんです。そんな肝心のお姉ちゃんは私の初プレイの日、大事な予定があるとかで出かけちゃったんですけれど。あ、ちゃんと保護者の許可は取ってますよ? 許可がないと、私の年齢ではゲームがプレイできない仕様になっていたので」

 身の上話も含め、なんでも話してくれるナコちゃん。
 そんな健気な気持ちに対して、隠しごとをしている自分が情けなく思ってしまう。
 真実を伝えるタイミングなんて今この瞬間以上があるのか? 一分一秒でも早く伝えてこその誠意じゃないのか?
 話せ、話せ、話すんだ! 僕は意を決して口を開く。

「ナコちゃん」
「はい」
「実は僕、男なんだ」

 どう切り出そうかと考えてる間に、突拍子もなく結論だけ口走ってしまった。
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