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魔法少女遭遇編

08話 決戦 その1

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 火竜玉の効果は、着弾した箇所に火柱が巻き起こるアイテムだ。
 僕は一本道のど真ん中にそれを投げ込む。
 爆発的な炎、角車がその衝撃によりバランスを崩し荷車ごと真横に倒れた。
 荷車の荷物が散乱する中、猫耳の子が入った檻を確認する。

「荒っぽいやり方でごめんね」

 僕は檻に駆け寄り――声をかける。
 小柄で華奢な体型、さらりと腰辺りに流れる黒く艶やかなツインテール、まさに黒猫といった可愛らしい風貌の女の子だった。
 猫耳の子は僕の姿を見て大きく目を見開きながら、

「ゅ、雪だるま、さん?」
「僕は君を助けに来たんだ。日本や東京って言えばわかるかな?」
「……っ」

 その言葉を聞き、ぽろぽろと猫耳の子の瞳から大粒の涙が溢れ出す。

「必ず君を連れて行く。だけど、今は色々と話している時間は惜しい。この混乱に乗じてすぐに逃げるよ」

 雪だるまフードを上げて笑顔を向ける。
 少しは安心してくれたのか、猫耳の子も微笑み返してくれて――僕はそっと涙を指で拭い取った。さて、この硬そうな鉄格子はどうする? 
 なにか、破壊できそうなアイテムは――、

「?!」

 ――突き刺さるような冷たい殺気。
 僕は咄嗟に振り向き触手を展開する。その直感は正しかったようで間一髪、鋭利な物体がいくつか触手に飲み込まれていく。
 防ぎきれなかった残りの物体は、僕の頬をかすめ――真後ろの檻の端々をキレイに分断していた。

「おいおい。お前、中々面白れーことやってくれるじゃねえかよ。んでもって今のを避けるってか? いや驚いた、さらにさらに面白れーよ」

 飄々とした振る舞いの男だった。
 銀髪、眼帯、両腕に包帯、なんか中二病の代名詞みたいな格好だ。鉄格子の件は片付いたものの、新たな問題が浮上する。
 やはり、護衛がいたか。

「お姉ちゃん! ほっぺたに傷が」
「大丈夫、かすり傷さ。ポジティブに鉄格子を壊す手間が省けたと考えよう、その隙間から抜け出せるかな?」
「は、はいっ!」

 僕は雪だるまフードをかぶり直し、猫耳の子を庇うよう背中に隠す。

「まだこんな状況に陥った原因は不明なんだけれど、ここはオンリー・テイルの世界なんだ」
「……オンリー・テイル? ゲームの世界ということですか?」
「だからこそ、非現実なことが普通に起きる」

 僕は頬を伝う赤い液体を拭い取る。
 触手に飲み込まれたこの物体、驚くことにただのカードだ。スキルによる攻撃だというのは間違いないだろう。
 しかし、今の不意打ち防御するのが数秒遅かったら、

「……死んでいた、か?」

 実際、受けたダメージはかすり傷程度だ。
 だが、ステータスに存在しないHPとMP、この小さな痛みは否が応にも僕にさらなる現実を自覚させる。
 最早議論の余地もない、リアルなダメージは大小関わらず当たりどころによっては死に直結する。

 ……落ち着け、落ち着け、落ち着け。

 今深く考えることじゃない――考えるな。死という概念が僕の動きを鈍らせることだけは避けねばならない。猫耳の子とこの場から無事に脱出することだけに終始しろ、僕。
 僕は攻撃してきた人物を真っ直ぐ視界に収めながら、

「今の攻撃、この子に当たっていたらどうするつもりだったんだ?」
「あぁ、安心しろ。こちとら雇われの身分、商品に怪我させるほどド馬鹿じゃねーよ。照準だけはきちんと合わせてあるからなぁ」
「この攻撃方法から察するに、カード師かな?」
「へぇ。俺のジョブがわかるか? 中々に博識じゃねえかよ」

 なんてこった、ユニーク職だ。
 カードを媒介にして戦うことを主としたジョブ、ランダムに引くカードにより多種多様な効果を発揮できる。その引けるカードの運要素が強すぎて、パーティ戦には縁遠く触術師と並んでの不人気ジョブである。

 僕の知っている情報はそれくらいだ。

 メジャーなジョブならばなにかしら対策が練れたかもしれないのに、カード師も触術師と同じくして全く知識がない。
 加えて、初の本格的な戦闘が対人戦というわけか。

「は、早く、あの無礼な賊を殺れえぇえええっ! さきに殺ったものには特別報酬をだすぞぉおおおおおおおおおおっ!」

 小太りの青年が大きな声で叫ぶ。
 この上からの物言い、聞いていた通りの背格好、やつがコールディンだろう。
 コールディンの言葉に触発され、さらに護衛が追加される。

「うっひょーっ! ひゃああっはああぁっ!」
「特別報酬はもらったぁああっ!」

 武者、拳闘士か。
 鉛色の刀剣、拳を覆う手甲、オンリー・テイルに置いてメジャーなジョブだ。持っている武器と動きで判断できるものの、問題はやはりカード師だろう。
 今のカードによる攻撃も含め、どんなスキルを持っているかがわからない。
 このオンリー・テイルの世界で僕が有利に戦えるのは、長年プレイして得た知識が一番の主力となる。

 ひと目見てわかった。
 この護衛の二人には問題なく勝てる。何故なら、二人という有利な条件にも関わらず連携する素振りもない。
 さらに付け加えるならば、

「初期装備レベルに負ける僕じゃない」

 僕は触手を展開させ、二人に向かって力強く薙ぎ払った。
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