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第28話 魔王様はあざと可愛い
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僕は部屋に戻り、先ほどの一件を思い出す。
天音さん、穂波さん、天音さん、穂波さん――なんで僕だけ名字呼びなの?
「晴人、お仕事終わったなら遊ぼうよ」
いやなんていうか些細なことかもしれないよ?
だけど、過ごしてきた時間は僕の方が碧土さんより長いわけであって、いやもうぶっちゃけ少しヤキモチ的な悔しい気持ちが湧いてくる。
「晴人、晴人! ワンワのお話聞いてる?!」
「そうだよワンワ、僕も晴人って呼んでほしいんだよ」
「??? ワンワ呼んでるよ?」
「ニャンニャにも呼んでほしいなって思って。碧土さんのことは穂波って言うのに、僕は天音だからさ」
「ふんふん、穂波って晴人の友だちの人だよね。ワンワも挨拶されたけど、すごく美人な人だった! ビックリしちゃった!」
「友だちかはさて置き、確かに美人だね」
「……ふーん。晴人もやっぱそう感じるんだ。ふーん」
ワンワが口を尖らせ言う。僕はワンワの頭をなでながら、
「ワンワは可愛いよ。碧土さんとはまた違うベクトルというかなんというか」
「本当? ワンワ可愛い?」
「本当どころか本気も本気、可愛すぎて抱きしめたい衝動は常にある。ニャンニャに殺されるからやらないだけでモフモフしまくりたい」
「えへへ。そっか、そうなんだ」
ワンワがぎゅーっと僕の胸に顔を埋める。
表情は見えなかったが、その仕草からは満足気な雰囲気が感じ取れた。そうこうしてる間にニャンニャも部屋に戻り、皆が寝静まる晩のころ、
「ニャンニャ様、話があるのですが」
「??? 改まってどうしたのですか?」
「えぇと、なんと言いますか、その」
僕も名前で呼んでくれませんか?
自身の感情ならばすんなり言葉にできるのに――なんか気恥ずかしい。何度か言葉にしようとチャレンジしては口ごもる。
「天音さん、少しだけ待ってくださいね。ワン、ワン? 起きていますか?」
「……すやっ、もうお腹いっぱい」
ニャンニャはワンワの反応にくすりと笑みを一つ浮かべながら、
「ふふ。ワンワも熟睡していますし、普段通りに話してくれて構わないですよ」
「あ、今日のことなんだけど」
「今日、今日ですか。そういえば、仕事という建前で私のワガママに付き合わせてしまいましたね。そのことについての不平でしょうか?」
「いや、そういうことじゃなくて、僕の――」
ぐぬぅぉお、ハッキリ言うんだ僕っ!
「もしかして、ご褒美が欲しいのですか?」
「――うっほぉいっ」
予想外の返答に声が裏返った。
待て待て、ある意味チャンスなんじゃないか――ここから名前を呼んでもらうことにどう繋げていこう、と考える間もなくニャンニャが僕の首に手を回す。
ニャンニャは自身のおでこをコツンと僕にくっつけ、
「……前回はあなたにやられてばかりだったので先制攻撃です」
せ、先制攻撃って。
「こんなところ、ワンワに見つかったら」
「大丈夫です。ワンは一度夢の世界に旅立てば滅多なことでは起きません」
息が交わりあうような至近距離。
女の子ってどうしてこんなによい匂いがするのだろう? 甘く華やかな香りが僕の全身に広がっていく。
「無事に特訓の成果もでていましたね。また希望の光が見れて私もとても嬉しいです」
「少しずつだけど、天候操作のこともわかってきたから――もっと役に立てるよう頑張っていくよ」
「ふふ。天音さんも魔王城の一員、私の部下としての心構えができてきましたね」
「いやもうバリバリだよ。ニャンニャのためならなんでもできる」
「そ、そうですか。私の、ためですか」
なんか名前のこと言い出しづらくなってきたな。
まあでも、ニャンニャに抱き締められるという大イベントが起こったのですごく満足だったりする。
名前のことはまた機をうかがってニャンニャに――、
「……ありがとう、晴人くん」
――そっと、耳元で呟やかれた言葉。
ニャンニャ様、もしかしてあの時――わざと穂波って言いませんでした?
天音さん、穂波さん、天音さん、穂波さん――なんで僕だけ名字呼びなの?
「晴人、お仕事終わったなら遊ぼうよ」
いやなんていうか些細なことかもしれないよ?
だけど、過ごしてきた時間は僕の方が碧土さんより長いわけであって、いやもうぶっちゃけ少しヤキモチ的な悔しい気持ちが湧いてくる。
「晴人、晴人! ワンワのお話聞いてる?!」
「そうだよワンワ、僕も晴人って呼んでほしいんだよ」
「??? ワンワ呼んでるよ?」
「ニャンニャにも呼んでほしいなって思って。碧土さんのことは穂波って言うのに、僕は天音だからさ」
「ふんふん、穂波って晴人の友だちの人だよね。ワンワも挨拶されたけど、すごく美人な人だった! ビックリしちゃった!」
「友だちかはさて置き、確かに美人だね」
「……ふーん。晴人もやっぱそう感じるんだ。ふーん」
ワンワが口を尖らせ言う。僕はワンワの頭をなでながら、
「ワンワは可愛いよ。碧土さんとはまた違うベクトルというかなんというか」
「本当? ワンワ可愛い?」
「本当どころか本気も本気、可愛すぎて抱きしめたい衝動は常にある。ニャンニャに殺されるからやらないだけでモフモフしまくりたい」
「えへへ。そっか、そうなんだ」
ワンワがぎゅーっと僕の胸に顔を埋める。
表情は見えなかったが、その仕草からは満足気な雰囲気が感じ取れた。そうこうしてる間にニャンニャも部屋に戻り、皆が寝静まる晩のころ、
「ニャンニャ様、話があるのですが」
「??? 改まってどうしたのですか?」
「えぇと、なんと言いますか、その」
僕も名前で呼んでくれませんか?
自身の感情ならばすんなり言葉にできるのに――なんか気恥ずかしい。何度か言葉にしようとチャレンジしては口ごもる。
「天音さん、少しだけ待ってくださいね。ワン、ワン? 起きていますか?」
「……すやっ、もうお腹いっぱい」
ニャンニャはワンワの反応にくすりと笑みを一つ浮かべながら、
「ふふ。ワンワも熟睡していますし、普段通りに話してくれて構わないですよ」
「あ、今日のことなんだけど」
「今日、今日ですか。そういえば、仕事という建前で私のワガママに付き合わせてしまいましたね。そのことについての不平でしょうか?」
「いや、そういうことじゃなくて、僕の――」
ぐぬぅぉお、ハッキリ言うんだ僕っ!
「もしかして、ご褒美が欲しいのですか?」
「――うっほぉいっ」
予想外の返答に声が裏返った。
待て待て、ある意味チャンスなんじゃないか――ここから名前を呼んでもらうことにどう繋げていこう、と考える間もなくニャンニャが僕の首に手を回す。
ニャンニャは自身のおでこをコツンと僕にくっつけ、
「……前回はあなたにやられてばかりだったので先制攻撃です」
せ、先制攻撃って。
「こんなところ、ワンワに見つかったら」
「大丈夫です。ワンは一度夢の世界に旅立てば滅多なことでは起きません」
息が交わりあうような至近距離。
女の子ってどうしてこんなによい匂いがするのだろう? 甘く華やかな香りが僕の全身に広がっていく。
「無事に特訓の成果もでていましたね。また希望の光が見れて私もとても嬉しいです」
「少しずつだけど、天候操作のこともわかってきたから――もっと役に立てるよう頑張っていくよ」
「ふふ。天音さんも魔王城の一員、私の部下としての心構えができてきましたね」
「いやもうバリバリだよ。ニャンニャのためならなんでもできる」
「そ、そうですか。私の、ためですか」
なんか名前のこと言い出しづらくなってきたな。
まあでも、ニャンニャに抱き締められるという大イベントが起こったのですごく満足だったりする。
名前のことはまた機をうかがってニャンニャに――、
「……ありがとう、晴人くん」
――そっと、耳元で呟やかれた言葉。
ニャンニャ様、もしかしてあの時――わざと穂波って言いませんでした?
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