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第25話 魔王様は優しく受け入れる

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 魔王城、魔王の間にて。

「話は理解しました。天音さんのお知り合いということで、あなたにも魔王城滞在の許可を与えましょう。ですが、いくつか条件があります」

 ニャンニャのだした条件は僕と似たようなものだった。
 魔王城に滞在する限りは、魔王城の一員としてなにか仕事をすること――それに加え、僕と同じくしてクリア条件を明確にすること。

「私のクリア条件は『魔王の役に立つこと』です」

 碧土さんが言う。
 正直、その内容に僕は驚いた。いや、この地に飛ばされているからこそ――魔王に関わる内容になるのだろうか? いやしかし『魔王の役に立つこと』って難易度違いすぎない?

「……私たちの役に立つ、ということですか? えらく的を得ない内容ですね」
「魔王様の言う通り、かなり内容がアバウトなので――私もどこまでの範囲で役に立てばクリアとみなされるのかが不明です。ただ、天音くんのクリア条件と違って魔王様になにか非になることはないと思いますが」

 何気なく僕と比較するの勘弁してくれないですかね。

「ふふ、ハッキリと言葉にする方なのですね。確かに、天音さんと違って物騒なクリア条件ではなく安心しました」
「念のため、私のデバイスを表示させますね」

 碧土さんがデバイスを起動させる。


――――――――――――――――――――――――――――
【クリア条件】
 魔王の役に立つこと
――――――――――――――――――――――――――――


 なにもない空間に、大きく映像が映し出された。
 デバイスってこんな便利機能あったんだ。ステータスの確認以外全く使用していなかったので、他にどんな機能があるのか全く認識していなかった。

「クリア条件は確認しました。スキルはどのような能力なのでしょうか?」
「私のスキルは『豊穣の雫』――Lv.5になります」

 碧土さんはポケットからなにかを取り出し、

「どういった能力かわかりやすく実践しますね。こういった未成熟なものに対し成長を促すことが可能です」

 一粒の種。
 そう尋ねられることも想定済みだったのだろう。優等生らしく用意周到――碧土さんの手の中にある種が見る見るうちに育っていく。
 あっという間に、ピンク色の花が咲いた。

「……っ」
「??? どうしました、魔王様?」
「い、いえ。くしゃみがでそうになりまして」

 一瞬その花を見て動揺するニャンニャ、碧土さんがその様子に首を傾げる。

「えっと、話を進めますね。このスキルを今まで使用した感じからしますと――スキルのLvが上がれば質量の大きいものにも適用できるかと思います」
「ありがとうございます。碧土さん、でしたね? あなたに与える仕事については考えておきます。今日はゆっくり休んでください」
「承知しました、失礼いたします」

 こうして、新たな魔王城の一員が増えることになった。
 僕は案内役として、碧土さんを連れて客室へと向かう道中、

「ふーん、じゃあ天音くんはここに来てもうひと月ほど経つのね」
「色々やらされてはいるけど、まだなんの役にも立てていない状況かな」
「ところで、あなたのクリア条件――本気なの?」
「うん。僕のクリア条件は『この世界から魔王を消失させること』だよ」
「それで呪いを解く、だったかしら? 魔王の役に立つようなことをしてるわけ? よくわからないことをしているのね」

 まあそういった感想になるのも当然だろう。

「いくらもとの世界に比べて時間があるからといって、そこに胡坐をかいて平行線をたどっていても仕方ないのよ」

 碧土さんの言葉は至極真っ当で正論だった。
 異世界履修が無事に修了し、もとの世界に戻る『道』を通過する際――身体の修復と同じくして可能な限り時間も修復されるのだ。こちらで過ごす一カ月は大体もとの世界でいう三日ほどに該当する。
 計算すると、約十分の一。
 修了までの大まかな異世界日数は平均半年~一年と言われており、もとの世界でいうところの一カ月ほどに該当する。

「猶予があったとしても消耗していることに変わりはないわ。そのクリア条件の代替案を探すのに一年、二年、どれくらいかけるつもりなの?」

 厳しい回答である。
 僕も頭ではわかっている――わかってはいるのだ。だが、僕はもう魔王城で皆と過ごした濃厚な日々にて、どれだけ皆が優しくていい人たちなのかも理解している。
 代替案が思い付かない時、その時は潔く――、

「ごめんなさい、天音くんには天音くんの考えがあるものね。今のは失言だったわ、あくまで私の主観だから」

 ――碧土さんが言う。
 いや、あえて言葉にしてくれたのは碧土さんの優しさだろう。僕たちは遊びでここに来ているわけではないのだ。
 少し重たい空気になってしまったので僕は話題を変えるべく、

「そういえば、デバイスにあんな映像を映す機能があったなんて知らなかったよ」
「デバイスには色々な機能があるわ。映像の投影はもちろん、現在地にマップの保管、異世界で生きていくには必須のアイテムだわ」
「そうだ。碧土さんのステータスを確認してみてもいいかな?」
「……ステータスを、確認? 別にいいけど、私も知らない機能かしら?」

 知らない機能? 
 碧土さんが知らない機能なんてなさそうだけど――とりあえず、許可もいただけたので僕はデバイスを起動する。


 名前  碧土穂波
 職業  大学二年生
 性能  HP56 MP48
     STR55 DEF85 INT333
 スキル 豊穣の雫(Lv.5)――植物に恵を与える。
 SP  演者(4/5)
     激震(1/1)


「……なに、これ?」

 碧土さんが驚いたように言う。

「僕も聞きたいよ、なにこの強靭なステータス」
「そういうことじゃないの。天音くん、あなた今なにをしたか理解しているわけ?」
「いや、普通にステータスを確認しただけ――」
「普通にもなにも確認なんてできるわけないでしょ? あなたのデバイスおかしいわよ?!」
「――そうなの?!」
「当たり前でしょ! こんなの反則なんてレベル超えてるじゃない?! ぶっ壊れ性能にもほどがあるわよ!」

 普段クールビューティーな碧土さんが珍しく声を荒げる。
 以前、リューナにも同じようなこと言われたっけ。僕のデバイスおかしかったのか――どこかで壊れたのかな? だとすると、今日まので日々心当たりが多すぎてわからない。
 まあ、性能が悪くなったわけではないのでよしとしよう。

「僕も今『天撃』っていうSPが一つあるんだけどさ、碧土さんのこの『演者』と『激震』はどんなSPなの?」
「……簡潔に言うと、激震は大地を割ったり振動させたりといったものよ」

 碧土さんは次いで、

『ふふ、ハッキリと言葉にする方なのですね。確かに、天音さんと違って物騒なクリア条件ではなく安心しました』
「えぇっ? 今のって――」
『天音くんは超絶ド変態』
「――うん、そのオマケはいらない」
「という風に、私が今まで出会った人の声をトレースすることができるわ。なので、演じるもの――演者よ」

 驚くことに、完全にニャンニャの声だった。

「一つ天音くんに忠告だけれど、あまり他人のスキルをむやみやたらに覗いたり、尋ねたりはしない方がいいわよ。この世界ではスキルとSPはかなり重要な役割を果たしている、知られたものは口止めとしてあなたのことを抹消するかもしれないわ」
「……そこまで深く考えたことなかったな」
「あなたが信頼できる相手に使用するぶんには大丈夫じゃないかしら? ただ、気を付けた方がいいという私目線からのアドバイスよ」
「そっか、そうだよね。ありがとう碧土さん」
「意外と素直に受け止めるのね」
「そりゃー僕より遥かに優秀な人の意見は聞くべきだよ」
「ふふん。まあ、私が優秀なのは認めるわ」

 と、碧土さんは勝ち気な顔で胸を張りながら、

「……でも、私はあなたもすごいと思うけどね」

 僕の筋肉のことだろうか?
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