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第22話 魔王様驚く

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 ◆ フェルティ歴345年、3月6日 ◆


 熱い。
 とにかく身体が熱かった。
 外部による暑さではなく熱い――激しい動悸と全身を内側から焼かれているような感覚、僕はゆっくりと起き上がる。
 ……風邪でも引いたのだろうか?
 だが、特に病気特有のだるさや重さなどはなく――熱さ以外におかしいところはない。最近の疲れによる一時的な発熱だろう、と自己解決しながら洗面台へと向かう。
 パシャパシャと魔石からでる水を顔に当て、

「んんっ?」

 手の平に違和感、いつもと感触が異なる。
 人形に触れているようなもっさりとした手触り――鏡を見ると筋肉ムキムキ毛むくじゃらのおっさんが立っていた。

「誰だこれ?!」

 いや、僕、なのか?
 とりあえず、いったん落ち着きを取り戻すためムキっと両腕を天に掲げポージングする。思わず自分自身に驚いてしまった。僕の世界にある雪山で捕捉されたら未確認生物扱い待ったなしである。
 僕の驚嘆が目覚ましになったのだろう、ニャンニャがベッド上で伸びをしながら、

「……ぅ、んっ。朝っぱらから、大きな声をださないでください」
「おはようございます、ニャンニャ様」
「おはようござい――ぎみゃぁあああ! だ、だだ、誰ですか?!」
「僕です」
「その声は――天音、さん?! な、なにがあったんですか?」
「僕も朝起きたらこうなっていて、なにがなんだかさっぱりなんですよ。ただ一ついいことがありました」
「いいこと、ですか?」
「髪の毛が生えています」
「……」
「非常に嬉しぃぃいいいいいいいいいいいいいいっ!」

 僕は感激のあまり膝から崩れ落ちる。ニャンニャはそんな僕を冷ややかな眼差しにて、

「落ち着いてください、天音さん」
「はい」
「最早、天音さんの面影はなに一つありませんが――呪いの類でしょうか? なにか心当たりはありますか?」
「……心、当たり?」

 僕はフンばらすっ! と、全身に力を入れて上着を爆散させながら答える。

「皆無ですね」
「……」
「ところで、ニャンニャ様に一つお願いがありまして――」

 僕はニャンニャに髪の毛だけを残して残りの毛を全てカットしてもらう。
 ニャンニャは「私のスキルをこのような形で」と、渋い顔をしながらもキレイに整えてくれた。

「ニャンニャ様、ありがとう!」
「……はぁ、魔王にこんなことを頼むのはあなたくらいですよ。そ、それと、早く代わりの上着を羽織ってください」
「上半身くらいなら別に――」

 ニャンニャは耳の先まで真っ赤に、両手で目を覆いながら、

「だ、ダメ。男性の裸は見慣れて、いないのです」
「――反応が可愛いすぎるぅうううううううううっ!」

 僕はズボンまで爆散しそうになるのを必死に堪える。
 しかし、一体全体どうしてこうなった? リューナとの特訓でステータスが爆上がりしたとか? ニャンニャの言う通りなにかの呪い? 原因が思い付かな――、

「にゃ、ニャン魔王様、晴人様。ぉ、おはよう、ございます」

 ――扉が数回ノックされた後、ぴょこんとピンク色の髪が覗き見える。
 コットンはぺこりと一礼しながら、てちてちと愛らしい足音が聞こえてきそうな足取りで僕の方へと歩み寄って来る。
 コットンが僕を見てニコリと微笑み、

「は、晴人様、きちんと効果が発動していたようで、よかったです」
「効果が発動ってことは、僕がこうなったのって――」
「わぅ、私が先日晴人様に飲んでいただいた栄養ドリンク、です。あ、赤い花を追加で調合したおかげで、効果が倍増しました」
「――なるほど、巡り巡って僕の体内で花開いたんだね」

 リューナさぁん、もう少しまともな花なかったの?
 まあ、原因も判明した上に髪の毛も復活したのだ。加えて、コットンの笑顔が見れただけよしとしよう。
 ニャンニャはやれやれといった風にため息を一つ吐きながら、

「とにもかくにも、呪いの類ではなくて安心しました。コットン、今日の特訓――天音さんをよろしくお願いしますね」
「は、はい。ニャン魔王様、お任せくださいませ」
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