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第13話 魔王様は約束を破らない
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◆ フェルティ歴345年、2月27日 ◆
目を覚ますと、僕はベッドの上にいた。
魔王城にある救急用の一室なのだろうか、保健室のような匂いがして起きた瞬間少し懐かしい気分になった。
まず驚いたのが3日も経過していたということだ。
その間、僕の様子を代わる代わる誰かが見ていてくれていたようで――丁度、目を覚ましたタイミング、僕は真横にいるニャンニャから倒れたあとの話を聞いていた。
「……そっか、一瞬しか雪をやますことはできなかったのか」
「ですが、皆希望の光を見ました」
「希望の光?」
「確かに一瞬ではありましたが、降り注いだ光は領民の胸に希望を灯したでしょう。それは私も一緒です。このワンニャン王国を、このワンニャン王国に生きる領民を救ってくれたあかつきには、私もあなたに――」
「いや、それはいい」
ニャンニャの言葉を力強く遮る、言葉の続きがなんとなくわかったからだ。
「――私のお願いする価値に対して私が与えられるものは、天音さんの望むものでしか返すことができません」
「だったら、無事に呪いが解けたら代替案を一緒に考えてほしいな」
「……わかりました」
この話はこれで終わり、と僕はまたベッドに倒れ込む。
てっきり、ニャンニャは退散するものと思いきや――僕のそばから離れようとしない。なにを話せばいいものかわからず沈黙が続く。
「「……」」
そんな中、先に口火を切ったのは、
「……今思うとすいません、僕敬語が抜けてましたよね。起きたばかりで少し頭がぼんやりとしていました」
「……い、いえ。二人きりの時は敬語じゃなくても構いません」
「あ、ありがとう」
なんだろうこのむずがゆい空気。
とりあえず、謝ってみたものの――なにやら僕の意図とは違った形で話がすんなりと終わってしまった。
……なんか、ニャンニャの様子がおかしい。
いつもの大人びた態度とは違い、見た目年相応な女の子らしくとてつもなく可愛い。口にしたら怒られそうだから言わないけど超絶可愛い。
「「……」」
再度、沈黙が訪れる。
もう切り出すネタがなく途方に暮れていた僕に対し、ニャンニャがこれ以上ないくらいに頬を真っ赤に染め両腕を広げながら、
「……や、約束は約束、ですから」
「えっ?」
「えっ? ではありません。一瞬とはいえ確かに雪はやんだのです。わ、私にぎゅーしてハグして――き、キスをするのではなかったのですか」
マジっすか?
まさか、いきなりご褒美タイムが訪れるとは――呪いが解けたわけではないので先延ばしになると思っていた。僕的には少しぎゅっとするくらいの気持ちで考えていたのだが、なんか改めて言葉にされるとどう動けばいいのかわからなくなる。
……どう、する?
ニャンニャはぎゅっと目をつむり、緊張しているのか――ぷるぷると小刻みに身体を震わせながら待機している状態だ。最早、どうするもくそもない――ニャンニャがここまで覚悟しての行動なのだ、僕も素直に応えるのが筋というものだろう。
僕はニャンニャをそっと抱き締める。
「……っ」
瞬間、びくりとニャンニャの身体が揺れた。
ニャンニャと初めて出会った時のぎゅーとはなにもかもが違った。まさか、こんな形で抱き締める夢が叶おうとは――、
「……なでて」
「えっ?」
「なでてと言いました」
――一瞬、ニャンニャの口からでた言葉なのかと自身の耳を疑った。
「にゃ、ニャンニャ様?」
「……今はニャンニャでいいです」
甘えるような声。
僕はニャンニャの頭を優しくなでる。ニャンニャの顔が驚くくらいに近く、冷静さを保とうと努力はしているが――胸の鼓動がやばい。な、なんだこの究極に可愛いニャンニャは? 僕が髪をなでる度、ニャンニャが嬉しそうに顔を綻ばせる。
「……とても心地よいですね、ワンがなでてという意味がよくわかります。天音さんの手は落ち着きます」
「逆に僕は幸せメーターが振り切って落ち着かないよ」
「たまには私にもこういう日があります」
「どれくらいの頻度であるの?」
「……たまに、ですよ」
そう微笑むニャンニャはとても愛らしい。
交わり合う視線の中、僕はニャンニャのおでこに約束のキスをしていた。割れ物を扱うかのように、美術品に触れるかのように――それは僕の心に潜む忠誠心が自然と身体を動かしたのかもしれない。
約束とはいえど、急におでこにキスをしたので半殺しにされるかと思いきや――ニャンニャは数秒間固まった後、今までの空気を仕切り直すかのよう咳払いを一つし、
「……こほん。ご褒美タイムはいかがでしたか?」
「えっ? あ、いやもう最高だったけど正直反動が怖いよね。ニャンニャの顔付きもバリバリ仕事モードに戻ってるしこの後の話を聞くのが超怖い」
「早速、明日から特訓に入ります」
「いきなり本題に入ってるけど心の準備期間とかないの?」
「早速、明日から猛特訓に入ります」
「なんか言葉がパワーアップしてるような」
「それでは、詳しい説明はまた当日しますので――天音さん、今日は明日に備えてゆっくり身体を休めてくださいね」
「明日を迎えるのが怖すぎるっ!」
僕の訴えも虚しく、ニャンニャは背を向け歩き出す。
去り際、ニャンニャが一瞬扉の前でぴたりと足をとめながら、
「……つ、次からは、キスをする時は事前に言ってください、ね」
と、ニャンニャが小走りに部屋を後にした。
僕はニャンニャが出て行った後、扉が閉まるのを見届けてから布団に潜り込む。急なキスの件について怒っていないようでよかった、今日のニャンニャ最高に可愛かった、特訓ってなんだろう、次は呪いを無事に解けるといいな。そうだ、次、次こそは、と色々なことを考えながら目を閉じ、
「……次が、あるのか?」
僕は天井を眺めながら独り言ちる。
ニャンニャの残した一言に、身体を休めるどころではなく――僕はベッドの上でもんもんとし続けるのであった。
目を覚ますと、僕はベッドの上にいた。
魔王城にある救急用の一室なのだろうか、保健室のような匂いがして起きた瞬間少し懐かしい気分になった。
まず驚いたのが3日も経過していたということだ。
その間、僕の様子を代わる代わる誰かが見ていてくれていたようで――丁度、目を覚ましたタイミング、僕は真横にいるニャンニャから倒れたあとの話を聞いていた。
「……そっか、一瞬しか雪をやますことはできなかったのか」
「ですが、皆希望の光を見ました」
「希望の光?」
「確かに一瞬ではありましたが、降り注いだ光は領民の胸に希望を灯したでしょう。それは私も一緒です。このワンニャン王国を、このワンニャン王国に生きる領民を救ってくれたあかつきには、私もあなたに――」
「いや、それはいい」
ニャンニャの言葉を力強く遮る、言葉の続きがなんとなくわかったからだ。
「――私のお願いする価値に対して私が与えられるものは、天音さんの望むものでしか返すことができません」
「だったら、無事に呪いが解けたら代替案を一緒に考えてほしいな」
「……わかりました」
この話はこれで終わり、と僕はまたベッドに倒れ込む。
てっきり、ニャンニャは退散するものと思いきや――僕のそばから離れようとしない。なにを話せばいいものかわからず沈黙が続く。
「「……」」
そんな中、先に口火を切ったのは、
「……今思うとすいません、僕敬語が抜けてましたよね。起きたばかりで少し頭がぼんやりとしていました」
「……い、いえ。二人きりの時は敬語じゃなくても構いません」
「あ、ありがとう」
なんだろうこのむずがゆい空気。
とりあえず、謝ってみたものの――なにやら僕の意図とは違った形で話がすんなりと終わってしまった。
……なんか、ニャンニャの様子がおかしい。
いつもの大人びた態度とは違い、見た目年相応な女の子らしくとてつもなく可愛い。口にしたら怒られそうだから言わないけど超絶可愛い。
「「……」」
再度、沈黙が訪れる。
もう切り出すネタがなく途方に暮れていた僕に対し、ニャンニャがこれ以上ないくらいに頬を真っ赤に染め両腕を広げながら、
「……や、約束は約束、ですから」
「えっ?」
「えっ? ではありません。一瞬とはいえ確かに雪はやんだのです。わ、私にぎゅーしてハグして――き、キスをするのではなかったのですか」
マジっすか?
まさか、いきなりご褒美タイムが訪れるとは――呪いが解けたわけではないので先延ばしになると思っていた。僕的には少しぎゅっとするくらいの気持ちで考えていたのだが、なんか改めて言葉にされるとどう動けばいいのかわからなくなる。
……どう、する?
ニャンニャはぎゅっと目をつむり、緊張しているのか――ぷるぷると小刻みに身体を震わせながら待機している状態だ。最早、どうするもくそもない――ニャンニャがここまで覚悟しての行動なのだ、僕も素直に応えるのが筋というものだろう。
僕はニャンニャをそっと抱き締める。
「……っ」
瞬間、びくりとニャンニャの身体が揺れた。
ニャンニャと初めて出会った時のぎゅーとはなにもかもが違った。まさか、こんな形で抱き締める夢が叶おうとは――、
「……なでて」
「えっ?」
「なでてと言いました」
――一瞬、ニャンニャの口からでた言葉なのかと自身の耳を疑った。
「にゃ、ニャンニャ様?」
「……今はニャンニャでいいです」
甘えるような声。
僕はニャンニャの頭を優しくなでる。ニャンニャの顔が驚くくらいに近く、冷静さを保とうと努力はしているが――胸の鼓動がやばい。な、なんだこの究極に可愛いニャンニャは? 僕が髪をなでる度、ニャンニャが嬉しそうに顔を綻ばせる。
「……とても心地よいですね、ワンがなでてという意味がよくわかります。天音さんの手は落ち着きます」
「逆に僕は幸せメーターが振り切って落ち着かないよ」
「たまには私にもこういう日があります」
「どれくらいの頻度であるの?」
「……たまに、ですよ」
そう微笑むニャンニャはとても愛らしい。
交わり合う視線の中、僕はニャンニャのおでこに約束のキスをしていた。割れ物を扱うかのように、美術品に触れるかのように――それは僕の心に潜む忠誠心が自然と身体を動かしたのかもしれない。
約束とはいえど、急におでこにキスをしたので半殺しにされるかと思いきや――ニャンニャは数秒間固まった後、今までの空気を仕切り直すかのよう咳払いを一つし、
「……こほん。ご褒美タイムはいかがでしたか?」
「えっ? あ、いやもう最高だったけど正直反動が怖いよね。ニャンニャの顔付きもバリバリ仕事モードに戻ってるしこの後の話を聞くのが超怖い」
「早速、明日から特訓に入ります」
「いきなり本題に入ってるけど心の準備期間とかないの?」
「早速、明日から猛特訓に入ります」
「なんか言葉がパワーアップしてるような」
「それでは、詳しい説明はまた当日しますので――天音さん、今日は明日に備えてゆっくり身体を休めてくださいね」
「明日を迎えるのが怖すぎるっ!」
僕の訴えも虚しく、ニャンニャは背を向け歩き出す。
去り際、ニャンニャが一瞬扉の前でぴたりと足をとめながら、
「……つ、次からは、キスをする時は事前に言ってください、ね」
と、ニャンニャが小走りに部屋を後にした。
僕はニャンニャが出て行った後、扉が閉まるのを見届けてから布団に潜り込む。急なキスの件について怒っていないようでよかった、今日のニャンニャ最高に可愛かった、特訓ってなんだろう、次は呪いを無事に解けるといいな。そうだ、次、次こそは、と色々なことを考えながら目を閉じ、
「……次が、あるのか?」
僕は天井を眺めながら独り言ちる。
ニャンニャの残した一言に、身体を休めるどころではなく――僕はベッドの上でもんもんとし続けるのであった。
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