加護なし勇者

静月 

文字の大きさ
上 下
18 / 22

18話 虚言と横暴

しおりを挟む
「入れ。話すまでこの生活が続くと思うよ」

 そう言われて牢屋に入ってきたのはルクス。大人しく男の後ろを歩いてきたが、オレンジ色に照らされるその評定はとても反抗的で、抵抗したのか頬に少しの土埃がかかっていた。

「そうだ。言い忘れていたが、お前たちの入ってる牢は集団用でな。もう1人ここに入ってくる予定だ」

 鉄格子を締めながら不意に男がそう言った。

「危険なやつとかは御免だぜ?」

「気にすることはない。むしろこれからくるそいつのことを心配してるくらいだ」

「だから俺らのは不可抗力だったんだって」

「それがどうした」

 ルクスは威嚇に応じた狂犬のように必死に鉄格子に力を込めて曲げようとする。しかし、特別な力の無い腕のみでドワーフの作ったものを壊せるはずはない。
 男はルクスの行動を気にも留めないように淡々とした返答を繰り返しているのみだ。
 これ以上したって無駄ー私はそう思ってルクスの腕を掴んで小さく首を振る。

「何も根拠が用意できない今は何をしたって無意味に終わるだけよ」

「女の方は利口のようだ。あまりしつこいと動揺しているようにしか見えなくなるぞ」

「なんだとー」「ルクス落ち着いて」

「あれは完全にそっちが」「ルクス!」

 私の声が聞こえないように力を強めていくルクスを私は両手を使って引き戻す。私の声が届いたのか、ルクスは荒い息を深呼吸して男のことを睨む。

「話は終わりか?殺しはしない、それだけは約束してやろう。じゃあな」

 ルクスの眼差しは男の冷徹な瞳を貫通させることは敵わなかったようで、退屈そうに大きな欠伸をして男はさっていった。
 男の持っていたランプの光が部屋を照らさなくなり、二度目の暗黒が戻った後に私はルクスの方を向く。一つの光もないので何も見えないが、ルクスがずっと孔子の外側を見つめていることは理解できた。

「ドワーフ族ってみんなああなのか?」

「確かにいい加減なところもあるかもしれないけど、でも今回のはそう受け取られても仕方ないわよ」

「それはそうかも知れないけど。普通に考えたらアレは向こうが悪いんだって何でわからないんだよ」

 通路の方向から格子に何かがぶつかったような甲高い音が響く。それに反応して壁越しの動物たちも弱々しい雄叫びを上げた
 多分ルクスがもたれ掛かっているのだろう。顔こそ見えないが、口調でだいぶ不貞腐れているのが分かる。

「そっちはどうなんだよ。何も言われなかったのか?」

「いや、特になにも。鞄に魔石が入ってるのが不思議って言われたくらいかしら」

「それでも十分残ってもいいと思うけどな…だけど、俺はそれだけじゃなかったんだよ」

 ルクスはそう言うと、少し目を開けてから溜まっていたものを吐き出すように起きたことを話し始めた。

〝〝
「単刀直入に訊こう。どうして俺等の畑を荒らした?」

 ルクスが椅子に座り、状況について大体の説明を終わらした男がはっきりとした口調でそう言った。
 イルのときと同じように呼び鈴を傍らにおいた男は、まるで私語は一切耳に入れないと言いたげに冷酷な眼差しでルクスを見据える。

「こういう話をする時はまず名乗れって親に言われなかったか?」

「…女のときとは違って全く自分の置かれた状況を理解出来ていないようだな。呼び鈴はいつでも鳴らせるのを忘れるなよ」

 男はただでさえ部屋が凍りそうな冷たい瞳にさらに鋭く磨きをかける。徐ろに呼び鈴に手を添えて、男の気まぐれでいつでも通路中の兵士が部屋へ入ってるルクスを囲う用意が出来た。
 しかし、ルクスはそんなこと気にしていなかったらしい。

「鳴らした所で、俺はお前たちには負けない。それに、こっちの情報がほしいならそっちの情報も渡すのが道理ってやつじゃないのか?」

「畑荒らしのような事をしておいてよく道理を語れるな。話す義務はない」

「なら俺にもない」

 ルクスの返答を聞いて、男はシワの寄った太い指で頭を掻きはじめる。
 どうやら呆れてものも言えないようだった。ルクスについてあまり知らない兵士たちにとって、自分たちを恐れないルクスはそれは面倒に感じただろう。

「俺の名前はドワーフ族のレーガルだ。これでいいか」

「俺の名前はルクスだ」

「そうか」

 レーガルと名乗ったその男は一度溜息を零した後に再度口を開いた。

「それでルクス。お前に聞きたいのは何故ツルイバラの畑荒らしをしたのかだ」

「畑?俺達は魔物と戦って気を失っただけだ。どこの畑も荒らしてないぜ?」

「お前の言うその魔物と戦った場所が俺等にとっての畑だったんだ。お前たちが故意で荒らしたのはもう女の方から証拠は得ている。諦めて話すことだな」

 ルクスはこれを聞いて酷く驚いたと言っていた。
 あの魔物と戦うとき、ルクスの目で見てもイルに余裕は感じられなかったかららしい。いくら故意の証拠があったとしても、魔力切れで倒れるほどまで身を削って畑荒らしをする理由がルクスには思いつかなかったからだ。
 ルクスはレーガルを彼よりも冷たい瞳で訝しげな表情を作った。

「ドワーフの頭は昔から堅いらしいからな。それっぽい理由を見つけてでっち上げでも話したんじゃないか?」

「人聞きの悪いことを言うな。「何も知らない」じゃ説明ができないような確たる証拠もしっかり見つけておる。それに証人だって―」

「レーガルさん。入ってもいいですか?」

 不意にルクスが入ってきた扉から3回のノックとともに高くて籠もった声が扉越しに聞こえてくる。

「噂をすればなんとやらだな。入れ。」

 レーガルが扉のほうを見て許可をすると、緑のとんがり帽子を被った小柄の男が入ってきた。パット見は70歳ひどで、ドワーフの寿命で言えば大人になりたてと言ったところだろうか。
 ルクスと同じくらいの身長の割に立派な体格を持ったその男は容姿に合わずもじもじとした様子でレーガルに詰め寄っていく。

「あの、レーガルさん。こ、この人間たちはどうなるんですか?」

「安心しろスプリッド。こいつらには事情を洗いざらい話してもらった後にそれ相応の償いをしてもらうつもりだ」

「よ、よかった。この人間、強そうだから、脅されないか心配で」

「っ俺等はそんな事しねぇよ!」「ひっ」

 スプリッドと呼ばれた緑帽子の男は待ったか呂律が回ってないように話しているが、目だけはガッチリとルクスを捉えていた。まるで檻に閉じ込められた猛獣をみているかのような、安心と恐怖が入り混じったような瞳だったのは覚えている。
 スプリッドはレーガルの後ろに隠れて今にも噛みつきそうなルクスをみていた。

「オ、オラは見ただ。あんたたちが、ツルイバラをわざと成長させて荒らしたあとに魔石を回収していたのを!」

「なっ。そんなの言いがかりじゃねえかよ!」

 予想だにしなかったスプリッドの捏造にルクスの堪忍袋の緒は裁ちばさみで切られたように袋から抜け落ちる。
 気付けばルクスはレーガルに体をのしかかるように押さえつけられ、スプリッドに見下ろされていた。

「野蛮な証明がされたな」

 レーガルは無情の表情に乗せてルクスを見据える。

「お前らふザカハッ」
 ふざけんな。俺たちのことは何一つ信じないくせにそいつの言うことは何一つ疑わないのは横暴だ―ルクスの必死の叫びはレーガルに押さえつけられた首を通すことは叶わなかった。

「やはり人間か、武器無しでは生産職の俺等にすら敵わない。話すつもりがないならそれでいい。逃がすつもりはない」

「オラは安心できたから家に帰るだよ。そうだ、魔石は貰っていいだよね?ただでさえいつもよりも収穫できなかっただから、これくらいは配らないと…」

「うむ。兵士に言えば渡してもらえるだろう。ルクス、お前はこっちだ」
〟〟

「こんな感じだ。結局アイツラの名前しか聞けなかったから畑が何なのかとか、全くわからないけど、俺たちがはめられたのは分かった」

「多分、私たちを運んだのがスプリッドって男で、その人がツルイバラの魔石を私の鞄に入れたってことで間違いなさそうね」

「ていうことは、ツルイバラについてイルさんは知ってるみたいだな。安心したぜ」

 ルクスの話での収穫は、私たちを連れてきたドワーフ族の兵士のレーガルと私たちを嵌めたであろうスプリッドという男は仲がよく、お互いの信頼関係も強いということ。
 それにスプリッドに関して、話を聞いているとどうやら相当な性格をしているらしい。泣きついて来られる側から見るとつい守りたくなるのかもしれないが、責められる側に立つと腹が立つの一言に限られてしまう。

「どうやら嵌められたらしいな」

 不意に誰もいないはずの静寂にある声が響き渡る。全くの聞き覚えがないのでルクスではない。
 得体の知れない恐怖を感じた私は反射的にルクスの前に膝を折って声のした方を見据える。ルクスは不意打ちを食らったように尻餅をついていた。

「っ誰!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

【二度目の異世界、三度目の勇者】魔王となった彼女を討つために

南風
ファンタジー
かつて竜魔王を討ち、異世界を救った勇者イサム。 使命を果たし、現代でつまらない日々を送っていた彼は、再び異世界に転移をする。 平和にしたはずの異世界で待ち受けていたのは、竜魔王の復活。 その正体は――かつての仲間だった彼女が、竜魔王と化した姿だった。 狂愛と許されざる罪を抱えた彼女を前に、イサムは新たな戦いへと身を投じる。 命を懸けたその戦いの果てに、彼が掴むのは平和か、それとも赦しなき運命か――。

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

処理中です...